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最適化社会

2021.03.22文部科学教育通信掲載

2月22日に、元国会議員の二之湯武史氏が出版された「最適化社会日本幸せの国の作り方」をテーマに、最適化社会実現フォーラム第1回を開催しました。二之湯武史氏のミニ講演の後は、私を含めた五名の登壇者(共感資本主義の実現を目指し活動する株式会社eumoの岩波直樹氏と武井浩三氏、鎌倉に禅2.0を立ち上げた宍戸幹央氏、GCストーリー常務取締役の萩原典子氏)も参加して、最適化社会について語り合いました。

最適化社会とは何か、その実現に何が必要か 

テーマは、資本主義から教育まで多岐に渡り、1回でまとめることは不可能です。そこで、これから、当分、月1回、最適化社会実現をテーマに、ゲストを招聘し、対話を行うことになりました。オンラインなので、ぜひ、皆様にもご参加いただきたいです。

 最適化社会とシニック理論

今日は、最適化社会 という言葉の由来となるシニック理論を紹介したいと思います。シニック(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution,)理論は、オムロンの創業者 立石一真氏が、1970年に構築し、国際未来学会で発表した理論です。シニック理論は、未来を指し示す羅針盤として、今もオムロンの経営を支えています。立石氏は、経営者の最大の仕事は、次の時代がどのような時代になるかをいち早く予測して、その時代に対応する商品を開発することと考え、この理論を創られたそうです。今から50年以上も前に、考えられた理論とは思えず、立石氏の先見性に脱帽します。

イノベーションの円環的展開

シニック理論は、日本語に訳すとイノベーションの円環的展開という意味です。立石氏がどのように、この理論を解説していたかを、『「できません」と云うな』オムロン創業者立石一真(湯谷昇羊著 ダイヤモンド社)から引用します。

「人類が地球上に現れてから今日までの歴史を見ると、科学と技術の間には、円環論的な関係があるんや。まず、新しい科学が生まれると、その科学にタネ(Seed)をもらって新しい技術が開発される。その新しい技術がイノベーションの形で社会を変貌させていくという、こういう一つの方向があるんや」

「そして、それとは逆に、社会からはニーズ(必要性、要請)がでてくるんや。そして、このソーシャル・ニーズを満足させるための新しい技術、商品、システムが開発される。もちろん、そういう商品やシステムは、確実にうれるわなあ。その場合、それまでの技術だけでは解決できないというんであれば、科学の分野に対して刺激(impetus)を与えて、新しい技術の誕生を促すんや。これが最初に云った正方向の相互関係に対して、逆方向の相互関係ということになる」

「こんな風に、科学、技術、社会の間には、二方向の相互関係が合って、お互いが因となり果となって社会が変貌し、発展していくんや。つまり、サイクリック・エボルーション、円環論的なツー・ウェイの関係が合って、常にサイクリックに流れている」

立石氏が、幹部にこう話した際に、ある幹部が、「なんで人間だけが、常にそういう新しい技術や商品、システムを求めて進歩を図ろうとするんですか」と質問し、「それはなあ、人間の一種の業や、常に進歩したいという意欲がもとになってるんや」と立石氏は答えました。

1952年の出会い

立石氏が、シニック理論を構築した背景には、20年前の2つの情報との出会いがあります。

1952年に、立石氏は、初めてオートメーションという技術革新の存在を知ります。当時、アメリカでは、すでにオートメーション工場が存在していましたが、日本では、オートメーションが何かもほとんど知られていませんでした。同年、立石氏は、マサチューセッツ工科大学のノーバード・ウィーナー博士によって提唱されたサイバネティックスにも、出会います。サイバティニックスとは、通信工学と制御工学を融合し、生物、人間、機械、社会のメカニズムを統一的に解明しようとする学問です。

アメリカでは、サイバネティックスの本が出版されると、もしこの科学が応用されると、機械化が進み、労働者が失業してしまうことを恐れ、本の流通が止められたという話を聞いた立石氏は、どれだけ科学技術が発展し高度化されても、それを駆使するのは人間であり、どれだけ優れたシステムでも、人間の介在をなくすことはおそらく不可能だろうと考えました。そして、機械化できる仕事は機械に託し、人間には、創造的な仕事が残ることが、人間にとっても幸せであると結論付けます。そして、翌年の1953年には、オートメーションに進出することを決めます。

AIと人間

モノが中心の時代に、機械化されるのは製造ですが、情報が中心の時代に、機械化されるのは事務作業です。AIに人間の仕事が奪われることを恐れる我々と、サイバティニックスに怯えた当時の人々の心情はとても似ています。立石氏の考えに見習い、機械と人間の役割の違いを意識し、人間である私は、創造的な仕事に喜びを得るよう心掛けたいと思います。

シニック理論の素晴らしい所は、技術だけが先行するのではなく、人間の進歩欲求が、技術、商品、システムを創造する原動力にもなっているという点です。環境問題がより深刻化する今日、技術と人間と社会と自然の4つの調和をどのように保つことができるのかも見極める必要があります。技術革新のスピードが増す今日でも、人間が社会と未来を創るという気概を忘れず、最適化社会から自律社会への移行に、ポジティブな影響を与える人間でありたいと思います。

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