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チェンジ・メーカー教育

2021.02.08文部科学教育通信掲載

ワシントンに本拠を持つ非営利団体アショカは、エブリワン・ア・チェンジメーカー(誰もが、みんなチェンジ・メーカーだ)というキャッチフレーズを掲げ、世界中の社会起業活動を促進する取り組みをおこなっています。創業者のビル・ドレイトンは、社会起業家という言葉の生みの親で、社会起業家の父と言われる人です。その日本事務所アショカ ・ジャパンから、新年に素敵なメッセージが届きました。15年に一度見直される国際バカロレアの教育内容に、新たにチェンジ・メイキング思考が加わるというニュースです。

チェンジ・メーカー大学

アショカは、チェンジ・メーカーを増やすために、小・中・高・大学生を対象に、チェンジ・メイキング教育を奨励しています。2008年には、大学に、チェンジメーカー・キャンパスというコンセプトを創り、社会イノベーションと高等教育の変革をリードする大学をチェンジメーカーキャンパスに認定し、学生とすべての大学の利害関係者が、チェンジメーカーとして地域および世界の課題に取り組むことを奨励し、キャンパス全体の文化と運営に、チェンジメイキングの思想が反映されることを目指しています。現在、チェンジメーカー・キャンパスに認定されている大学は、43校で、アメリカのみならず、世界の大学が参画し、アジアでは韓国の大学も、チェンジメーカー・キャンパスの認定を受けています。

国際バカロレア

国際バカロレアは、国際的な初等中等プログラムで、通称IBと呼ばれています。現在、150か国で5,500校以上の学校がIB認定を受け、国際バカロレアに基づく教育を行っています。

IBの使命と学習者像

【使命】

すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する人間を育てます。

【学習者像】

IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。

探究する人
私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

知識のある人
私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取り組みます。

考える人
私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。

コミュニケーションができる人
私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。

信念をもつ人
私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動します。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動します。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。

心を開く人
私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと努めます。

思いやりのある人
私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために行動します。

挑戦する人
私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合います。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑戦と変化と機知に富んだ方法で快活に取り組みます。

バランスのとれた人
私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存していることを認識しています。

振り返りができる人
私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます。(出典:文部科学省IB教育推進コンソーシアム)

日本でも、161校(令和2年11月時点)が、国際バカロレア校として認定されています。

システミック・チェンジ

アショカは、社会問題の解決方法として、システミック・チェンジを提唱しています。私たちは、食べるものがない人に、魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教えてあげる方がよいと言います。しかし、アショカは、釣りの仕方を教えてあげるのだけでは十分ではないと言います。そして、食べるものがない現状を変えるために、その根本原因を探り、漁業システムそのものを変えることを奨励しています。そして、この根本原因まで遡り社会システムを変えることを、システミック・チェンジと名付けました。

困っている人がいたら助けるという、誰にでもできる直接的なチェンジ・メイキングはダイレクト・チェンジ・メイキング。たくさんの困った人を助けようと、その活動を拡大することもできます。この取り組みも素晴らしいものですが、このやり方では、いつまでたっても、困った人が減ることはなく、支援し続けなければなりません。勿論、最初は、身近な誰かを助けたいという思いからスタートするのですが、いつまでも、同じやり方で支援をするだけではなく、その課題の背景にある構造的な問題に目を向け、創造的な発想で課題を解決するシステミック・チェンジを実現することができると、社会を大きく変えることができます。

アショカは、現在、3500人の社会起業家をフェローと認定しています。彼らは、教育から医療まで様々な分野でシステミック・チェンジに取り組んだ実績を持つ人たちです。国際バカロレア教育に、システミック・チェンジの考えが盛り込まれることで、世界のIBスクール5500校で、システミック・チェンジを起こすことに、意欲を持つ学習者が育まれることを考えると、とてもワクワクした気持ちになります。

教育のシンクロシティ

私が、世界の教育改革に最初に触れたのは、2003年のことです。当時、ヨーロッパでは、OECDを中心に、VUCA時代の教育改革の推進が始まり、アメリカでは、アップルをはじめとするIT企業が中心となり設立されたパートナーシップフォー21という非営利団体が、21世紀スキルと教育を提唱し始めていました。OECDは、キーコンピテンシーを提唱し、パートナーシップフォー21はスキルを中心に、それぞれ教育指針を打ち出していたので、その内容は全く同じという訳ではありませんでしたが、両者の目指すところは同じであることがとても興味深かったです。

日本は、その頃、持続可能開発教育が導入され、2015年まで継続することになります。世界に先駆けて行われた日本の持続可能開発教育は、今日推し進められているSDGs(国連の持続可能開発目標)にもつながる取り組みです。

OECDは、2003年に打ち出した教育指針をさらに発展させ、現在、トランスフォーマティブコンピテンシーと名付け、変革を推進ための力であることを強調しています。また、学生エイジェンシーという言葉を用い、子どもたちは、社会を変革する主体であるという概念を明確に打ち出しています。

世界、そして日本の教育も、確実に、チェンジ・メーカーを育む方向にシフトし始めているのだと感じます。

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