skip to Main Content

レジリエンスの力を高める

2020.11.23文部科学教育通信掲載

VUCA(複雑で曖昧、不確実で変化の激しい)時代に生きる私たちは、これまでとは異なる能力を身に付ける必要があると云われています。その中の一つに、レジリアンスがあります。

レジリエンスとは、回復力、弾性を意味し、人間が、逆境から素早く立ち直り、成長する能力です。

逆境から素早く立ち直る回復力は、昔なら、大きなチャレンジに臨んだ人に役立つ力であり、人生に1度位訪れる厳しい現実に向き合う際に必要なものでしたが、今日では、誰もが日常的に磨いておいた方がよい能力ではないかと思います。

答えのない時代には、現状を維持するために、変化することが求められたり、前例を踏襲しないやり方を期待されたりします。常に、リスクと隣り合わせで生きることが、日常的になり、私たちのストレスも高まっています。

レジリエンスの力を日ごろから磨いておけば、いざという時に役立ちますし、日常も生きやすくなるのではないかと思います。そこで、レジリエンスの力を高める方法を紹介したいと思います。

 レジリエンスの8要素

レジリエンスは、自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、繋がり、遺伝子、ポジティブな社会制度(家族、組織、コミュニティ)の6つの要素で構成されていると云われています。そこで、自己認識、自制心に絞り、レジリエンスの育み方をご紹介します。

自己認識

自分を客観視し、メタ認知する力は、レジリエンスにおいて欠かせないものです。自分の大切にしている価値観やものの見方、自分の判断、その判断に紐づく経験、自分の心の動き、自分の言動等、自分自身を客体化し見つめる力を磨くことが大切です。そのために、対話が欠かせません。異なる他人と接することは、自分を知る機会になります。

日本人は和を重んじ、同質性を好みます。その結果、自分を知る機会がとても少ないように思います。若者には、自分を知るために、異質な世界に出会う機会を増やし、真の自分を知ることに、意識を向けて欲しいと思います。異質な世界に身を投じると、最初はストレスを感じるかも知れませが、ストレスを感じるのは、自分の境界線の外との接点を持っている時なので、自分を知るチャンスが高まっているはずです。

自分の感情の声を聴き、自分の考え、自分の常識、自分のこれまでの経験と、違和感のある異質な世界は、何が異なるのだろうか。そう自分に問いかけ、異質だと感じる世界を探求することで、自分を知ることができ、同時に、新しい世界を自分のものにすることができるかもしれません。

自分を知っていることは、レジリエンスの要素に含まれている自制心や自己効力感を強化する上でも、重要な能力です。スマホやテレビの取説のように、自分の取説を持つことが、大事な時代なのではないかと思います。

自制心

ここでは、自制心を支える心を扱う力の磨き方を、特にネガティブな感情の扱い方を対象に、ご紹介します。

➀感情を知る

ネガティブな感情になるには、必ず原因があります。もやもやしている時も、必ず原因があります。面白いことに、私たちの心は、私たちがその原因を認識する前に、その原因を知り、反応します。このため、ネガティブな感情の原因を知るためには、まず、自分の感情を正しく理解する必要があります。

②ネガティブな感情の原因を知る

怒りや不満、イライラ、もやもや等の感情を捉えることができたら、次は、その原因を探ります。「私はなぜそう思うのか。なぜそう感じるのか」この際に役立つのが、価値観レベルまで、自分の内面をメタ認知する力です。ネガティブな感情の背景には、何かに対する不満があります。自分が大切にしている何かが満たされていないことが、ネガティブな感情の原因です。私たちの心は、自分が大切にしていることを知っていて、それが満たされていると幸せな気持ちになり、満たされていない時にネガティブな気持ちになります。

ネガティブな気持ちになっている原因を突き止めたら、次は、その感情を扱う次のステップに行きます。ここからは、少し難易度があがるので、初級、中級、上級に分けて、その方法をご紹介します。

 

初級:自分がどのように経験を意味づけているのかを理解する

同じ経験をしているのに、誰かが怒っていて、驚いた経験はありませんか。同じ状況において、人間が同じ感情を抱かない理由は、経験の意味付けにあります。経験は同じでも、その経験をどう意味付けるのかは人それぞれ異なります。経験の意味付けに用いる価値観やものの見方が異なるために、経験は同じでも、経験の捉え方は、人によって異なるという事実を認識することが大切です。

ネガティブな感情の原因を知るために、自分が大切にしている何が満たされていないのかを客観視することができたら、次は、自分がなぜ、その物差しを使っているのかに目を向けます。その物差しが自分にとってなぜ大切なのか。どのように形成されたのかを知ることで、ネガティブな感情の引き金となった自分自身のものの見方を客観視できるようになります。

中級:相手の気になるところが「肥大化」する理由を知る

私たちは、毎秒1100万ビッドの情報の中から、たった40ビッドほどの情報を選択し認知しているそうです。私たちは、1%にも満たない情報を選択して認知しているという事実を、知ることがスタートです。私たちは、自分の持つセンサーが捉えた情報を拾います。例えば、

「ある人のこの特性が気になる」と思うようになると、常に、自分の中にあるセンサーが、その特性に注意を払い、その情報を発見し続けるようになります。その結果、「ある人のその特性」は、心の中で、肥大化していきます。やがて肥大化した課題に押しつぶされそうになるかもしれません。こうして、「もう我慢できない」と怒りが爆発します。しかし、周囲を見渡すと、そんなことは誰も気にしていないという経験はありませんか。どのような物差しを用いるかにより、同じ経験は同じ意味を持たないのです。自分の価値観やものの見方が、課題を「肥大化」させていることを認識することが大切です。

上級:怒りの原因は、他者ではなく自分(のものの見方)であることを理解する

経験をどう捉えるかは、自分の価値観が決めているということが理解できれば、目の前にいる相手が、私の怒りの原因であるという考えは間違いであることが解ります。目の前の相手は、怒りのトリガーではありますが、怒ることを選択したのは、あなたの価値観なのです。かなり上級者ではありますが、ここまでくれば、怒りの感情を、簡単に、自分でコントロールすることができるようになります。

自分の心の状態を客観視することができ、その原因を知ることができれば、自分の感情をコントロールすることができ、自制心を磨くことにもつながるはずです。

Back To Top