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ウェルビーイングにつながる組織開発

2020.11.09文部科学教育通信掲載

最近では、人材開発に加えて、組織開発に取り組む企業が増えています。

終局のゴール

組織開発の究極のゴールは、社員をはじめとするステイクホルダーのウェルビーイングを高めることではないかと考えます。ウェルビーイングとは、心身が良好な状態であることを意味します。ポジティブ心理学を提唱するマーティン・セグリマン博士によれば、人間のウェルビーイングには、5つの要素があると云います。5つの要素とは、ポジティブな感情、エンゲージメント、関係性、人生の意味、何かの達成とそのための努力です。エンゲージメントとは、何かに没頭している状態・夢中になっている状態のことです。関係性には、人間関係のみならず、組織の存在目的とのつながりも含まれます。何かの達成とそのための努力には、自らが得たいゴールに向けて努力する過程と努力の結果得られた成果が含まれます。

ウェルビーイングの要素であるエンゲージメント、関係性、何かの達成とそのための努力は、仕事には密接な関係があります。人生の意味は、勿論仕事だけではなりませんが、自分の人生に意義があると思える仕事に取り組むことができれば、仕事を通して、ウェルビーイングを高めることが可能になります。

組織開発

組織開発が注目される背景には、経営環境の変化があります。優秀な人材を採用し、育て、目標管理を行うことで業績が上がるという方程式が通用しなくなったことがその理由です。一人ひとりが生む付加価値の質と大きさが、組織の業績に直結する時代には、イノベーションを生むことができる組織づくりが鍵を握ります。

私が最初に、組織開発の手法に触れたのが、GEが取り組む学習する組織開発でした。もう、20年も前のことですが、GEの学習する組織のリーダーを養成するプログラムを日本に広める活動に従事した際に、GEが、いかに、学習する組織を作りあげたのかを学びました。学習する組織とは、進化し続ける組織、変革し続ける組織のことです。そのためには、組織的な動きと共に、一人ひとりの学習力と革新力を高める必要があります。このため、GEは、学習する組織づくりを、リーダーの学習力と革新力を高めることから始めました。

学習する組織のリーダー養成

世界中から150人のリーダーが選抜され、1年間の学習する組織のリーダー養成プログラムに参加したそうです。彼らには、ボーダーレス、オープン、フラットの3つの行動様式を習得することが期待されました。ボーダーレスとは、自らが境界線を作らないことを意味します。リーダーに期待されたのは、どこで生まれたアイディアでも、よいものは、すぐに取り込める学習力です。その逆は、高い壁で、組織を守り、組織の外で生まれたよいことから学ぶことを拒否する態度で、ヒエラルキー組織では、よく見受けられるリーダーの行動様式です。

学習する組織づくりを推し進めたNO.1が大好きなジャックウェルチには、ある確信がありました。それは、世界一学習力の高い組織を作ることができれば、世界最強の組織が作れるという確信です。ジャックウェルチ自身も、真摯な学び手でした。社員の声に耳を傾け、常に、組織の課題を直視し、課題解決に尽力していました。社員アンケートで、品質に問題があるという指摘をもらうと、世界一品質管理が上手な会社を調べ上げ、その会社が実践している品質管理手法を学び、GE流の品質管理手法を作りあげました。その展開を支えるのは、学習する組織のリーダーです。ボーダーレスな行動様式を身に付けているリーダーは、GE以外の会社で生まれたよい手法を、何の抵抗もなく、組織に広げることができます。

学習する組織になる前のGEは、いわゆる名門の大企業ですから、リーダーは、ヒエラルキーの権威的存在であり、組織のあらゆる所に、壁(ボーダー)がありました。その壁を壊し、喜んで学び、進化し続ける組織を作りあげたジャックウェルチは、組織づくりの達人です。GEは、その後も、学習する組織として、進化を遂げています。最近では、ベンチャー企業の仕事術であるリーンスタートアップという手法に学び、小さいスケールでスピーディに新規事業を立ち上げるGE流新規事業立ち上げ手法を開発し、かつて、品質管理手法を全組織に展開したように、新たに開発した新規事業立ち上げ手法を全組織に展開しています。

人材開発との連動

学習する組織でなければ、新しい考え方を誰もが認識するのに、3年かかり、組織全体にそのやり方が広がるのに、10年かかるようなことを、GEでは、1~2年で徹底させることができます。その土台には、人材育成への投資があります。新しい手法を展開するには、手法を理解し、それを組織に落とし込める人が必要です。また、手法を組織に落とし込むためには、解りやすく、落とし込みやすい手法であることも大切です。GEが新たな手法を落とし込むことができるのは、この2つを上手にやることができるからです。日本でも、このような取り組みが、当たり前になることを願っています。

ツール

組織開発に欠かせないのが、誰もが簡単に使えるツールの開発です。GEでは、例えば、変革に取り組むことになったチームには、組織変革のプロセスの中で使えるたくさんのツールが渡されます。例えば、何を変えることに取り組むのかを明確にするために、「増やしたい行動」、「減らしたい行動」を可視化するためのフレームワークがツールとして用意されています。GEが開発するすべてのツールの背景には、学術的な理論があります。しかし、理論を理論のまま社員に渡しても、展開することが難しいため、すべて展開可能なフレームワークに落とし込み、ツールとして社員には届けられます。そのため、社員も、すぐに学び、すぐに実践することが可能です。

 文化と口癖

GEの組織開発の特徴は、文化を醸成することに力を注いでいることです。そして、興味深いのは、人々が口癖にすることが、文化の醸成に繋がっているという考え方です。

GEでの経験を著書にされた安渕聖司氏の『世界超一流であり続けるGEの口ぐせ』(PHPビジネス新書)から、GEの口癖の一つを引用したいと思います。

 

シンプリフィケーション
「それ、もっとシンプルにしようよ。まだまだ、複雑だよ」

◆競争に欠かすことができないスピードを阻害するのは、複雑さ

組織も手続きも複雑になり過ぎている、これが競争に欠かすことが出来ないスピードを阻害している。そんな問題意識から、GE全体で2012年から全社的に取り組みを進めたのが「シンプリフィケーション」です。これはその名の通り、組織が業務を簡素化し、スピードを取り戻し、結果的にお客様へのサービスレベルを向上させようという取り組みです。

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう」を文化にする

業務をシンプルにしよう、簡素化しよう、という取り組みは、さまざまな会社で行われいると思います。しかし、GEの特徴はこれを文化にしようとしたことです。

シンプルでスピード感があって、しかも正確なプロセスというマインドセット(心構え)を、社員全員が持つようになり、「いや、これはあまりシンプルじゃないね」 「ちょっと複雑だよな」といった声がすぐに上がってくるようになりました。

 

社員と社会のウェルビーイングに繋がる組織開発に、私も貢献できればと思います。

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