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DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の人財育成(前半)

2020.02.10 文部科学教育通信掲載

2月3日に、三菱総合研究所にて、DX時代の人財育成に関するセミナーで、NPO法人 人間中心設計推進機構理事長 篠原稔和氏、株式会社三菱総合研究所デジタル戦略グループ主任研究員 清水浩行氏と共に登壇し、人間のOS(学ぶ力、創造力等)のアップデートについて講演を行う機会を頂戴致しました。2回に分けて、その概要をご紹介します。

 

なぜ、OSのアップデートが必要か

学校で教わった「学び方」がイノベーションの最も大きな障害です。

学校で熟達するのは、既にある情報を処理する「学び方」です。学校では、未知の世界にどう対処するのかを教わりません。

最近、正解のない授業という言葉が生まれていますが、現実社会で直面する未知の世界に対処する思考力を学ぶ、先生ではなく「あなた」が正解を決める授業は、まだ、始まっていません。このOS(学び方)では、テクノロジーの知識を持っていても、イノベーションを創出することが困難です。そこで、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためにも、OSのアップデートが必要になります。イノベーション人材になるために誰もが学校で学んだ学び方のアンラーン(学んだこと、身に付けたことを一旦リセット)する必要があります。

 

また、皆さんのようなエリートには、もう一つ大きな課題があります。皆さんの中で、テストで20点を取った経験がある方はいらっしゃいますか。このPPT(図1参照)は、大人だけに共有したいと思いますが、前例のない時代には、100点よりも、20点を取る人が強いです。速く20点を取り、フィードバックに学び、正解を創造する力を持つ人が勝つというのが未知の世界で正解を手に入れる成功法則です。デザイン思考、デザインスプリント、リーンスタートアップ、スクラム等、前例のない時代に未来を創るために様々なツールが生まれていますが、試して勝つことは、すべてのツールに共通の理念と行動様式です。

 

OSをアップデートする方法

そこで、OSをアップデートする方法をご紹介します。リフレクションと対話、認知の4セットです。メゾットの背景となる理論は、ピーター・センゲの学習する組織、ダニエル・ピンクのモチベーション3.0、脳神経科学者アントニオ・ダマシオの研究成果、2003年にOECDが発表した義務教育のガイドライン等です。

 

認知の4点セット

認知の4点セットは、リフレクションと対話的学びの質を担保するために開発したメソッドです。認知とは、私たちが日常的に行っている物事を知覚し、判断する行為です。認知は、私たちの学びに密接な関係があります。グーグルが、無意識の偏見を説明する際に使っているパワーポイントを活用し、人間の認知の特性を説明します。人間は、毎秒1100万ビッドの情報を受け取っていますが、意識的に処理できるのは、40ビッドのみ。1%以下ということになります。認知の4点セットは、自身が知覚した貴重な情報を、どのように解釈しているのかを理解するツールです。認知の4点セットを活用すると、自分の知覚、判断、感情、価値観を客観視することが簡単に行えます。

 

認知の4点セットの問い

意見:最も印象の残ったことは何ですか。

経験:その意見の背景にはどのような経験がありますか。

私たちが意見を持つ前提には、過去の経験を通して知っていることがあります。同じ話を聞いていても、実は、みんな同じことを学んではいません。もし、同じことが印象に残ったとしても、その背景となる経験が異なります。

感情:その経験にはどのような感情が紐づいていますか。

感情は、意見の背景ある経験の記憶が紐づいています。その時に味わった感情が、その経験の意味づけにも影響を及ぼしています。

価値観:そこから見えてくるあなたが大切にしている価値観は何ですか。

意見の前提には、判断に使用した価値観や尺度が存在します。ここでは、価値観にものの見方も含めています。

 

認知の4点セットを活用した事例(図2参照)

意見:20点よりも、100点のほうがよいという言葉にドキッとした。

経験:100点の時は褒められ、80点だと褒められない。そもそも、20点の答案用紙とは無縁だった。

感情:100点 うれしい 80点 残念 誰かの20点びっくり

価値観:100点満点、勤勉、結果

4点セットで、学びをリフレクションすることで、自分が何を学んだのか、何を大切にしているのかが明らかになります。これが、認知の4点セットを活用したリフレクションです。

 

OSをアップデートするメソッド

OSをアップデートするメソッドは、認知の4点セット、リフレクション、対話です。

リフレクションとは、自己を客観的かつ批判的に振り返る行為です。物事に対して、これまで通りのやり方やものの見方をそのまま適応するのではなく、批判的スタンスで経験から学び、考え行動する力として、2003年にOECDが発表した学校教育の指針において要と位置付けられたのがリフレクションです。

実は、対話においてもリフレクションは不可欠です。対話とは、自己を内省し、評価判断を保留にして、他者に共感する聴き方と話し方です。評価判断を保留にするためには、自分の考えを客観視し、感情をコントロールすることが求められます。評価判断を保留にして、多様な世界に共感することで、自分の枠の外に出ることが可能になります。そこで、認知の4点セットによるリフレクションが不可欠になります。

 

リフレクションと対話の実践事例

ここで、リフレクションと対話の実践事例を一つご紹介したいと思います。

5年前にドイツに視察に行き、ドイツの国家戦略インダストリー4.0は、リーダーによる10数年に渡るリフレクションから生まれたことを知りました。ドイツの経団連 BDIによるプレゼンで最初に見されたのが、世界トップのIT企業名のリストに、26の星条旗と、5つの欧州旗が表示されたパワーポイントです。ドイツのリーダーたちは、敗北を認め、しかし、未来は変えることを決意したそうです。そこで早速、現状調査を行ったそうですが、日本同様に、99.6%を占める中小企業の6割が、全く準備ができていないし、経済的なメリットもわからないという結果だったそうです。日本で、このような調査結果が出たら、夢を諦めてしまうのではないでしょうか。しかし、彼らは、全くこの結果を気にしていませんでした。「課題はクリアしていけば良いのです」と自信をもって語る様子に、リフレクションのパワーを学びました。未来を創ることは、現状とありたい姿のギャップを埋めることです。そのためには、課題を直視するリフレクションが不可欠なのです。

OSのアップデートは、DX(デジタルトランフォーメーション)時代に生きる私たちにとってとても大切なことだと思います。ぜひ、みなさんも実践してみてください。

後半では、OSをアップデートすることで得られる3つの価値についてご紹介したいと思います。

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