skip to Main Content

リフレクションの啓発

2020.02.10文部科学教育通信 掲載

2003年にOECDが世界に向けて発信した教育指針は、VUCA時代に生きる私たち大人の育ちにも関わる指針だ。その中で、リフレクションが、要となる力と記載されていることから、リフレクションを啓発する活動を始めて、すでに10年が経過している。

 

主体的・対話的で深い学び

学習指導要領の改訂の議論が進む中、審議会の心ある委員の皆様に、リフレクションや対話力を高める教育の必要性を訴えた。主体的・対話的で深い学びの意味を、どこまでの教育関係者が理解しているかは分からないが、主体的・対話的で深い学びは、リフレクションや対話の重要性を意識した上で創られた言葉だ。

 

大人にもリフレクション

リフレクションは、子どもたちだけでなく、今の時代を生きる私たち大人にも欠かせない。そこで、経済産業省の門をたたき、2017年には、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)BBLセミナーで、経済と教育の対話の必要性を訴えた。その後、経済産業省 我が国産業における人材力強化に向けた研究会の「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」にて、「学びと主体性の質の転換」をテーマにリフレクションの重要性を訴えた。そして、改訂された社会人基礎力にリフレクションを加えて頂いた。2015年からは、21世紀学び研究所を立ち上げ、リフレクションの実践方法を広める活動にも従事している。

 

リフレクション

リフレクションとは、自己の内面を客観的・批判的に振り返る行為で、物事に対して、これまで通りのやり方やモノの見方を、そのまま適応するのではなく、批判的スタンスで、経験から学び、考え行動する力。

前例のない時代に、自ら答えを見出すためには、知識の蓄積量だけでなく、それを活かす力が問われる。溢れる情報を取捨選択し、活かすことが大切だ。同時に、経験を通して学ぶ力が必要になる。最初から正解を見出せるほど簡単な時代ではないので、仮説検証を繰り返すことになる。そこで、欠かせないのがリフレクションだ。最初から、100点を取ることを目指すのではなく、早く20点を取り(失敗し)、経験から学ぶことで100点が取れる。これが、創造の世界だ。

 

『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』

日々、リフレクションの重要性をどう人に説明すればよいかが、頭から離れない。そうなると、何を見聞きしても、リフレクションと結びつけてしまう。私たちは、毎秒1100万ビッドの情報に触れていて、その中の40ビッドの情報にしか意識を向けることができないという話を聴けば、リフレクションに意識が向くことも納得できる。本を読んでいても、リフレクションに関する情報がとても気になる。

久しぶりに、ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則 著者ジム・コリンズ(日経BP出版)を読んでみると、リフレクションの記述があることに気づいた。リフレクションの啓発活動を始める前にも、この本は読んでいるのだが、その時には、リフレクションについて書かれていることに気づけなかった。これがリフレクションであるという説明はされていないので、おそらく、多くの人たちが、ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則は、ビジョンの重要性を説明していて、リフレクションの重要性を語っていないと思うのだろう。

 

ビジョンとリフレクションの関係性

未来教育会議では、未来の社会と人と教育を3点セットで捉えることで、教育ビジョンを確かなものにしたいと考え、国内外のスタディツアーを行っていた。その時に訪れたドイツで、ビジョンとリフレクションの関係性に学んだ。

ドイツは、現在、国家戦略としてインダストリー4.0(第4次産業革命)を推進している。スタディツアーで訪れたドイツでは、ドイツの経団連を訪問し、インダストリー4.0についての講演を聴く機会があった。そこで、最初に紹介されたパワーポイントが衝撃的だった。

日本から訪れた団体に対して、彼らが見せたのは、世界のトップIT企業のリスト。そのリストには、EUとアメリカの旗が表示されていた。旗の数は、EU5に対してアメリカ26。パワーポイントを見せながら、経団連のスピーカーは、「これが、国家戦略インダストリー4.0が生まれた背景です」と説明した。

ドイツのリーダーたちのリフレクションは、10年以上続いたそうだ。この敗北を振り返り、課題を直視した結果、生まれたのがインダストリー4.0という話に感動した。さらに、その先もある。インダストリー4.0を推進するに当たり、最も大きな挑戦は、ドイツの産業の99.6%を占める中小企業がインダストリー4.0を実現する力を持つことだ。そこで、中小企業の実態を調査したところ、6割近い企業が、インダストリー4.0に向かう用意ができていないことが明らかになった。日本なら、これはむずかしいかもしれないと、目標のすり替えが起こりそうだが、ドイツ人にはその様子がない。リフレクションを通して課題を直視した上で形成されたビジョンは揺るがない。

 

課題を直視するリフレクション

リフレクションは未来を創る力、未来を創るために大切なことは、現実を客観視すること。その上で、未来のありたい姿を考える。現実とありたい姿が明らかになれば、そのギャップを埋めるために、何をすればよいかを考え、行動し、リフレクションを繰り返しながら、未来に近づけばよい。

ドイツのインダストリー4.0は、その後も、リフレクションを繰り返している。インダストリー4.0は、産業界の問題であるというのが、スタート時点の認識だった。このため、情報通信、電子、機械などの産業団体が中心となり、インダストリー4.0を推進するための準備が始まった。ところが、検討を進める中で、これは、産業界だけの問題ではなく、教育や労働に関わる変革も必要になることが明らかになった。そこで、インダストリー4.0の推進体制に、産業界だけでなく、教育や労働行政も加わった。

 

飛躍的な成功を遂げる企業の特徴

ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則は、飛躍的な成功を遂げた企業を11社に絞り込み、共通の特性を明らかにした。第4章 最後には必ず勝つ - 厳しい現実を直視する には、以下のようにリフレクションの重要性が書かれている。

  • 偉大な実績に飛躍した企業はすべて、偉大さへの道を発見する過程の第一歩として、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視している。
  • 自社がおかれている状況の事実を把握しようと、真摯に懸命に取り組めば、正しい決定が自明になることが少なくない。厳しい現実を直視する姿勢を貫いていなければ、正しい決定をくだすのは不可能である。
  • 偉大さへの飛躍を導く姿勢のカギは、ストックデールの逆説である。どれほどの困難にぶつかっても、最後にはかならず勝つという確信を失ってはならない。そして同時に、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視しなければならない。
  •          ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則 著者ジム・コリンズ(日経BP出版)から引用
    • ジェームス・ストックデールは、ベトナム戦争で、8年間戦争捕虜を経験した後、生還したアメリカ軍人

 

皆さんも、ビジョンを形成し、ありたい姿を実現する際に、ぜひ、リフレクションを実践してみてください。その威力に驚くはずです!

Back To Top