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働き方改革と組織の大改革

2020.01.27 文部科学教育通信掲載

働き方改革関連法が施行され日本の全企業が一斉にスタートラインに立った2019年。働き方改革を単なる形だけの変革で終わらせるのか、新しい時代に合わせて組織そのものを成長させるきっかけにするのか、経営の判断が問われている。企業は、どこに向かっていくのか、2020年を予測してみたいと思う。

 2020年、多くの企業で、失われた30年に終止符を打つ組織の大改革が始まることを期待したい。キーワードは、「学習する組織」とセルフマネジメント、日本的経営への原点回帰だ。

 

 進化を加速するために「学習する組織」になる。

大改革の指針となるのが、アインシュタインの言葉。

「問題を生み出した思考では、問題を解決することはでいない」である。

今では、古典とも言える「学習する組織」は、進化し続ける組織のOSとして、世界中の優良企業で実践されている。GEやGoogleの成功事例は有名だ。

学習する組織の特徴の一つは、社内外のベストプラクティスが、速やかに組織全体に広がることだ。時代の変化とともに変わり続けるGEは、境界線のない組織を実現し、世界中で生まれたベストプラクティスを組織の力に活かすことで知られている。最近では、エリック・リースが提唱するリーン・スタートアップの行動様式を研究し、大企業でありながら、ベンチャー企業のスピードと柔軟性のある組織に生まれ変わった。30万人を超える規模の組織が、変革を成功させることができるのは、GEが、学習する組織だからだ。

Googleは、人と組織の創造性を最大化するために、科学的な分析と、テクノロジーを活用し、自ら、ベストプラクティスを生み出し続けている。大企業になっても、大学の研究室で始まった創業期の探究心は今もなお健在で、エクセレンスを追求する彼らの探究心に、終わりはない。学習は、GoogleのOSとも言える。

日本企業も、学習する組織になることができれば、イノベーションで溢れる組織は、決して夢ではない。

 世界に見習い、自律型組織への移行が本格的に始まる。

管理型組織では、イノベーションは生まれないことは、今や世界の常識だ。慣れ親しんだマネジメント手法を手放すことは大きな挑戦だが、イノベーションを手に入れたければ、自律型組織への移行は避けられない。ありがたいことに、世界には、たくさんの成功事例も存在する。

  • アジャイルが進む

欧米では、開発チームがいち早く、アジャイルを導入し、自律型チームに移行した。日本では、まだ主流のウォーターフォールとは異なり、アジャイルを導入するチームは、大きな計画を立て、計画通りに開発を進めるのではなく、1ヶ月単位で計画を立て、一週間単位で仮説検証を行う。また、チームは、100%の意思決定権を持つ。開発の柔軟性とスピードを高めるために広まったアジャイルは、最近、世界の優良企業で、全社員の仕事の仕方にも活用され始めている。GEが、リーンスタートアップに学び、行動基準に、「試して勝つ」を加えたのも、このためだ。

  • ムーンショットを目指す。

日本でもベンチャー企業を中心に注目が集まる目標設定の手法OKR(Objectives and Key

Resultsの略)では、 「自分が何を実現したいか」が目標の定義だ。Googleでは、誰もが

OKRを活用し、自らの意思で、情熱を注げるストレッチ目標を設定する。OKRは、ムーンショット(月面着陸の様な偉業)が生まれる確率を高める手法と位置付けられているため、到達目標は、100%ではなく70%が目安となる。それでも、100%の目標を設定することが、大きな成果を生む確率を高めるという。

  • 多様性を活かす文化を醸成する。

多様性が化学反応を起こし、大きな成果をあげるチームには何が必要か。その答えも、Google が効果的なチームを研究したアリストテレス(チームの効果性の測定方法と効果性に影響を与える因子を特定するプロジェクト)ですでに明らかにしている。カギを握るのは、多様性を受け入れる土壌となる心理的安全の確保だ。2017年に危機に直面したウーバーの三千人の管理職に、信頼を回復する力を授けたハーバードビジネススクールのフランシス・フレイ教授は、心理的安全は土台であり、多様性を歓迎する文化が不可欠だという。多様性を歓迎する文化か否かは、メンバーの意見を賞賛する言葉に現れる。多様性を歓迎する文化では、「私もそう考えていました」ではなく、「私には、全く思いつかない意見だ」と異なる意見に焦点が当たる。多様性を化学反応に結びつけるためには、こうした文化の醸成が欠かせない。

  • 組織の存在目的を語る。

政府主導の働き方改革が進行する同時期に、フレドリック・ラルーの著書「ティール組織」が、日本でも話題となった。「ティール組織」の魅力の一つは、一人ひとりが組織の存在目的に共感し、繋がり、その具現化のために主体的に行動するところだ。そのために、組織の存在目的をいかに明確に表現するかが勝負となる。「もし、この世界から、あなたの組織が消滅したら、世界は何を失うことになりますか」(引用:『実務でつかむ!ティール組織』吉原史郎著 大和出版)という問いに、誰もが答えることができる組織が、自律と団結を共に実現する。無論、その答えは、GDPでも、時価総額でもないはずだ。

 

一人ひとりのセルフマネジメントとリフレクションが、未来を創る。

すでに述べたように、イノベーションで溢れる組織は、他律ではなく自律に向かっていく。こうした流れの中で、個人も、セルフマネジメント(自己管理)を高めることが期待されるようになる。

セルフマネジメントの領域は①期待値管理:自己の役割と責任、②成果管理:期待されている成果、③成長:自己成長のシナリオ、④幸福:心身の健康と幸福の定義の4つに分類される。

一人ひとりが、4つの領域で明確なビジョンを持ち、現状とありたい姿のギャップを自己点検し、自分の成長に責任を持つことが求められている。

セルフマネジメントに欠かせないのがリフレクション(自己内省)の力だ。前例のない時代に、答えを手に入れるためには、教科書を丸暗記するような知識面での学習だけでは不十分であり、自分の経験を適切なタイミングで振り返り、次のアクションに活かす力が求められる。

  • エンプロイアビリティが話題になる。

人生100年時代を見据えた多様な生き方・働き方が進むと、個人にとって次の関心事がエンプロイアビリティ(市場価値)の向上とキャリアの選択になる。キャリア開発が自己責任の時代に生きる若者にとっては、当然の権利と言えるが、企業の側でも、雇用の流動化を前提に、社員を社会の資産と捉え、その育成に当たる必要が出てくるだろう。

 

 日本の経営の原点に戻る。

オムロンの創業者・立石一真は、「企業は利潤の追求だけではなく、社会に貢献してこそ存在する意義がある」という企業の公器性を語っている。日本には、利潤だけではない、企業の存在目的という経営思想は昔からあり、これがイノベーションの原動力であったはずだ。日本の経営に立ち返り、不易と流行を明らかにすることも、組織変革を成功に導くために有益かもしれない。

 

 

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