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自信てなに?

2019.11.25 文部科学教育通信 掲載

今朝、ラジオを聴いていたら、「同窓会に行けない症候群」という本の著者鈴木信行さんがゲスト出演し、お話をされていました。同窓会に行きたくないと思う若い人が増えていて、男性の場合、その理由の1位は時間がない、2位は自信がない。女性の場合、1位は自信がない。そんな説明をされていました。SNSの時代になり、同窓会に行かなくても、リアルタイムでお互いの様子がわかる等、他の理由もたくさんあるのだとは思いますが、自信がないという言葉が気になりました。

 

社会構造の変化と自信

著者の鈴木さんは、高度経済成長の時代には、誰もが自信を持てたというお話もされていて、社会構造の変化が、同窓会に行けない症候群を生み出していると言います。確かに、そうかもしれないと思いましたが、他にも理由があるのではないかと思いました。

 

働き方改革やダイバーシティ推進に取り組んでいることから、キャリアや人生の選択が広がる今日、誰かと自分を比較するという考え方を持ち続けると、誰もが、自信が持ち難くなっているのではないかという仮説を持ちました。

 

レールに乗らないと異端児と言われた時代

これまでは、学歴と就職というレールがあり、誰もがレールに乗ることが当たり前で、同級生は、就職先が違っても、みんな同じようなキャリアを積んでいたのではないかと思います。

 

私の上司だった藤田田さんは、日本マクドナルドやトイザらスなどの事業を立ち上げ、起業家として成功を収めた人物ですが、当時、東京大学法学部を卒業して、官僚にも、大企業のビジネスマンにもならなかったのは藤田田さんだけでした。今なら、キャリア開発の成功モデルとして賞賛されるかもしれませんが、当時、王道と考えられていた道を歩く人たちからは、常に、異端扱いだったそうです。もちろん、藤田田さんと仕事をした経験のある全ての人たちは、藤田さんを愛していたので、彼は、異端扱いされても、何も気にしていなかったと思います。

 

今日では、難関大学を卒業した人たちの中にも、藤田田さんのように起業したり、ベンチャー企業に就職することを選択する若者も増え始めています。新卒一括採用で、企業に就職し、みんな同じ年頃で結婚し子どもを出産し、キャリアアップのタイミングもほぼ一緒という横並びの人生観は、存在しなくなるでしょう。

 

このような変化は、すでに始まっていて、同窓会に参加しても、どこかで、昔のように、横並びの人生をイメージし、自分に自信が持てないと思う人がいるのかもしれないと思いました。

 

女性は、何もかも手に入れる人生を目指していて、キャリア、結婚、出産の3つとも手に入れた人が勝者だというような考え方もあると聞きます。結婚、出産の時期が遅くなっている今日、何もかも手に入れていない若い女性が、自信が持てないということも想像できます。

 

キャリア開発の理想像

今日、20代の若い者の生き方を見ると、意識の高い若者ほど、学歴と就職というレールを意識せず、キャリアの選択肢の幅が拡大していると感じます。同時に、「自分の好きなことを見つけると良い」等、キャリア開発に関する理想像が語られることが多く、多くの若者が、現在の仕事に確信が持てなくなっているというのも事実ではないかと思います。また、成長意欲が高い若者も多く、この場所にいて、本当に自分は成長できるのか、市場価値を高め続けることが可能なのかという疑問も湧きます。

 

企業が人事を決めるこの国で、キャリア開発を同時に考えるのは、とても難しいことです。ところが、就職活動から、「君がやりたいことは何か」を若者に尋ねる面接が当たり前になり、若者の意識の方が、社会通念よりも、先に覚醒してしまっていると感じます。しかし、企業に就職すると、「まずは、言われたことをきっちりとやりなさい」と従順さが求められます。こうした状況の中、多くの若者が、与えられた仕事を通してキャリアを積むというこれまでのキャリア観と、就職活動で培ったキャリア観の矛盾の中で、さらに不安を募らせるという結果になっているのではないかとも思います。

 

若者の不安に共感

自分の人生を振り返っても、若い頃は、先が見えず、不安なことも多かったのだと思います。それだけ、未来の可能性と選択肢が大きいと、今なら言えますが、当時は、やはり自信がなく、自分の未来はどうなるのかと不安に思った覚えがあります。

 

男女雇用機会均等法世代の私は、キャリアを実家の家業でスタートさせました。金庫扉を製造販売する事業会社で、貿易や経営企画の仕事をしていました。ところが、30代の前半で、突然、クーデターに見舞われ、会社を離れることになりました。

 

工場の隣にある家で生まれ育ち、会社の名前のついた公園で幼児期から遊んでいた私にとって、会社を離れることは、突然、名字を失うくらい衝撃的な出来事でした。30歳を過ぎて始めて、私も、今の若者と同じように、「私は人生で何を実現したいのか」という問いと向き合わなければならなくなりました。当時、「自分の好きなこと」「自分の得意なこと」を仕事にすればいいんだというアドバイスをたくさんもらったことを記憶しております。しかし、どうすれば、自分の好きなこと、自分の得意なことを掛け合わせて、キャリアを選択できるのか。当時の私には、正直、さっぱりわかりませんでした。その後は、ご縁を頼りに、キャリア開発を行なうことになりました。

 

就職活動をしたところ、厳しい現実が見えてきました。あるキャリア開発の専門家に、「女の3高は嫌われるんだよね。君、就職は厳しいよ。①高学歴、②高家柄、③高所得 最悪の条件だ」と言われました。絶望的なコメントです。そこで、以前から、存じ上げていた藤田田さんに、自ら採用をお願いしに伺うことにしました。藤田田さんには、ハーバードビジネススクールのジャパンツアーで、百人の学生が日本を訪問した際にお話していただいた経緯がありました。英語は決して流暢ではないのですが、そのお人柄とお話はとても魅力的で、海外の学生たちもみんな藤田さんの大ファンになりました。その時、「もし自由だったら、藤田田さんのかばん持ちでいいから、側で働いてみたい」そう思ったことを思い出し、藤田さんに採用して欲しいとお願いしました。

幸いにも、藤田商店に就職ができ、新規事業の立ち上げを経験させてもらったことは今でも、忘れることができない、楽しくて、チャレンジが大きく、ストレスの小さい、最高の仕事経験でした。

 

自分を知るリフレクション

現在、21世紀学び研究所で、リフレクションを広める活動をしている背景には、私自身の異端のキャリア人生があります。そして、10代、20代で、自分を知ることが、人生を豊かなものにするという確信があります。

 

小さい頃から、自分が好きなこと、自分が得意なことを知り、自分の人生やキャリアの選択をすることで、誰もが、自信を持ち、独自の人生を生きることができます。学校も、社会も、理想像を語りますが、一人ひとりの人生に責任を持ってくれる訳ではありません。そして、理想像は、その時々の環境により変わります。誰かの物差しでなく、自分の物差しで、人生の選択が行えることが、幸せに繋がる。同時に、その際の結果に責任を持つためには、経験を振り返るリフレクションは不可欠です。

 

自分の選択に自信を持ち、幸せに生きる人たちが増えることを願っています。

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