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がん教育

2019.12.9 文部科学教育通信 掲載

がん教育

21世紀学び研究所は、女性のヘルスケアの知識を教育啓発し、子宮頸がん検診の受診を呼びかける活動を行なっている団体シンクパールが学校で実施する「がん教育」を支援しています。

日本人の二人に一人が生涯がんになるということは多くの方がご存知のことかと思います。しかし、20歳から39歳のがんの8割を女性が占めているという調査結果をご存知の方は少ないのではないでしょうか。この調査結果は、今年10月に、国立がん研究センターが発表したもので、乳がんや子宮頸がんの増加が、その原因だそうです。

シンクパールの代表を務める難波美智代さんは、自らも、がんサバイバーで、女性のヘルスケアに関する教育啓発活動を行い、様々なイベントを企画し、講演も行っていらっしゃいます。今年に入り、シンクパールは、がん経験を持つ多くの方達に、学校現場でのがん教育を実施していただくために、その準備を支援する活動を始められていて、我々は、そのプログラムの企画に参加しています。

日本人の二人に一人が生涯がんになる我が国において、がん予防やがんに対する正しい認識を持つことは、家族や自分の健康と幸せを大切に生きる上でとても大切なことです。そこで、日本政府も、がん教育の実施に向けて、大きく舵を切りました。

私も、この活動を行うまで、存じ上げなかったのですが、2014年に、厚生労働省において「がん教育」の実施が閣議決定し、2016年に、文部科学省より外部講師を用いたがん教育ガイドラインが策定され全国に都道府県がん教育推進協議会が設置されています。学習指導要領においても「がん」が記載され、「がん」を知ることで、いのちの大切さを学び正しく理解する教育の推進が全国で一斉にはじまっています。

 

2016年に、改正されたがん対策基本法に、「がんに関する教育の推進のために必要な施策を講ずる」という文言が加わり、第3期がん対策推進基本計画(2019~2020年)では「国は、全国での実施状況を把握した上で、地域の実情に応じて、外部講師の活用体制を整備し、がん教育の充実に努める。」ことが示されました。2018年に公示された新中学校学習指導要領及び2019年に公示された新高等学校学習指導要領に、新たにがん教育についても取り扱うことが明記され、文部科学省も、2014年から「がん教育総合支援事業」を行い、がん教育を推進しています。

 

がん教育とリフレクション

参加される方々は様々で、ご自身ががんのサバイバーである場合や、ご家族や大切な方をがんで亡くされた方などです。プログラムでは、その経験をリフレクション(自己内省)していただき、子どもたちに何を伝えたいのかそのメッセージを浮き彫りにしていきます。このようなことを伺っても良いのだろうか。とても不安な気持ちで、最初のワークショップを実施したのですが、私の不安は無用なものだったことがすぐにわかりました。

プログラムの流れ

最初に伺う3つの質問(全てがん経験に関してです)

  • 最も嬉しかった経験
  • 最も辛かった経験
  • 最も印象に残ったこと

この経験を、意見、経験、感情、価値観の4点セットで伺います。

  • 何が、最も(嬉しかった、辛かった、印象に残った)経験ですか。
  • それは、具体的にはどのような経験ですか。
  • その経験には、どのような気持ちが紐づいていますか。
  • あなたは、何を大切にしているのでしょうか。

この質問を通して、自分の経験をリフレクション(自己内省)し、他者の経験についても、話を聞く機会を持ち、誰もが、自分の経験に意味づけを行っていきます。

プログラムの最初の質問は、嬉しかった経験についてです。企画の過程では、嬉しかった経験が出てくるのか、辛い経験しかないのではないかという心配もありましたが、人間とは素晴らしいもので、どんな状況にあっても、前向きさを忘れることはなく、喜びを見出すのです。これは、このワークショップで学んだ大切なことの一つです。

シンクパール代表の難波さんは、手術の翌朝の太陽の美しさを語ってくれました。術後の痛みのある中、窓の外には、太陽の姿があり、その太陽の輝きに魅了されたそうです。太陽はいつも通り、東から昇り、西に沈む。このあたり前のことが、とてもありがたく感じるというのも、特別な経験です。

家族を亡くされた方もいらっしゃいましたが、家族の大切さや、健康であることのありがたさを教えてもらったという方もいらっしゃいます。どんな経験にも、希望を見出す。それが人間である。これが、私自身が、このワークショップを通じて学んだことでした。

ワークショップでは、さらに、リフレクションの問いが続きます。

子どもたちの前に立ち、お話をするイメージを持っていただきます。

  • 子どもたちの前に立つあなたは、どんな存在でありたいですか。ミッション
  • がん教育を通して、あなたは何を実現したいですか。ビション
  • その場では、どのような価値観を大切にしたいですか。バリュー

という3つの質問に答えていただきます。

どんな存在でありたいかという質問に対して、「なんでも質問できる、身近な存在でありたい」という方もいらっしゃいました。実際、教室の中には、親ががんの治療を受けている生徒がいる場合があります。家族にがん患者がいると、全員が健康な時とでは、家族の様子も変わり、子どもながらに、楽しく遊ぶことに対する申し訳なさがあったり、お友達と同じではないことに辛さを感じたり、子どもの世界にも苦労があります。そんな生徒が、自分のことを話せる雰囲気が作れることを目指しているとお話されていました。

全校生徒にがんに関する講演会を実施した記事を読んだことがありますが、その際には、講演者にお礼を述べる生徒会長自身が、家族にがん患者がいることを初めてその場で話してくれたそうです。グッドニュースでもなく、友達に話しても何かが変わるわけでもなく、だから、友達にも、それまで話せなかったそうです。

何を実現したいのかで圧倒的に多かったのは、家族と自分の健康のために、今できることにみんなで取り組もうということ。お家に帰ったら、親が検診に行っているかを確認すること。健康であることに感謝すること。健康や命を大切にすることなど、誰もが、家族と自分のためにできることをやる。そんな世の中にしていきたいという思いを、みなさん語ってくださいます。

共感を生むビジョン語り

家族や自分の健康や命、幸せを大切にすることは、誰もが大事なことと知っていながら、健康な時には当たり前と考えてしまいます。しかし、実際にがん経験を持つ人たちが、自分の経験を通して語ることにより、共感が生まれます。

そこで、共感を生むビジョン語りの準備でワークショップを締めくくります。

ビジョン語りのポイントは、パーソナルストーリーとその時に味わった感情を語ることです。何を実現したいのか。それはなぜか。なぜなら、私にはこんな経験があるから。その時の気持ちは・・・。だから、皆さんにも、こんな行動をとって欲しい。

心と心がつながることで初めて、人の言葉は心に残ります。そんなメッセージを、たくさんの方が、子どもたちに届け、健康を大切にする社会の実現に寄与できればと思います。

 

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