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ダイバージティ経営研究会

2019.09.23 文部科学教育通信 掲載

昭和女子大学ダイバーシティ推進機構では、ダイバーシティの推進と働き方改革をテーマに、企業の皆さんと共に研究会を実施しています。本日は、働き方改革をテーマに、八代尚宏先生のお話を伺いました。

少子高齢化により加速する女性活躍促進の鍵を握るのは、実は、女性ではなく男性の働き方改革であるということを、どれだけの人が理解しているのでしょうか。八代先生のお話を伺い、そんな問いが頭に浮かびました。

 

世界が絶賛した働き方

八代尚宏先生は、「80年代には、日本の働き方が世界で絶賛され、世界から多くの視察団が日本に訪れた」というお話をされました。高度経済成長を支えた男性社会の働き方が、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代を作り上げ、高く評価されていたそうです。しかし、残念ながら、成長が鈍化した今、同様の働き方を続けることはできません。そう言葉にするのは簡単ですが、人々のマインドセットや行動様式に組み込まれた働き方に関する価値観を変えることは、それほど簡単なことではありません。

変えると一言で言っても、「何を変えるのか」をこの国の誰が本当に整理できているのでしょうか。そんな疑問も沸いてきます。実際の所、多くの人たちが、半信半疑の中、ダイバーシティ推進と働き方改革に取り組んでいるというのが現実かもしれません。

2020年女性管理職比率30%

2013年に、安陪総理が、2020年に女性管理職比率30%を目指すという方針を打ち出し、スタートした成長戦略としての女性活躍推進は、女性活躍推進法や働き方改革関連法の施行により、異例のスピードで進んでいると感じます。若い男女は、高齢化する社会の中で、子育てをしながら夫婦共に働く社会環境が整いはじめていることに安心感を抱いている様子です。一方、男性社会で活躍してきた人々にとっては、出産後も働き続ける時短社員をはじめとする制約人材の登場に、戸惑いを抱いているというのが正直な感想ではないでしょうか。

時短社員の出現

出産後、時短で働く女性たちは、5年前に比べれば確実に増えています。女性を対象にした管理職育成研修に参加する女性の中にも、時短の方々がいらっしゃいます。時短でも責任のある仕事がしたい。そう考える女性もたくさんいます。一方、上司の皆さんとお話をすると、時短の女性に何を依頼してよいかわからないという悩みがあるようです。私は、両方の立場を経験しているのでよくわかるのですが、子育て中の最大の問題は、突発的な子どもの病気です。不思議なもので、この日は絶対病気にならないで! と強く願うと、その日に限って、子どもは熱を出します(笑)科学的根拠はありませんが、お母さんの緊張感が、子どもの体調不良の原因で、私自身がリラックスしていれば、子どもは急に熱を出したりしないのではないかという仮説を持ちました。事実、あらかじめ、熱が出た時に、誰に頼むのかを準備しておくと、そんな日に限って、熱が出ないということも、多くありました。「子どもの発熱で休みます」「保育園から電話が入り、お迎えにいきます」という状況では、男性社会では、「当てにならない」ということになりますが、全員が女性なら、お互い様ということになり、助け合いが生まれます。共働きが当たり前になり、夫と妻のどちらが今日休むか、そんな議論が当たり前になれば、男性も、助け合うというイメージを持ってくれるのでしょう。

活躍する時短社員

時短を経験し、管理職になられた女性の多くは、前倒しで仕事に取り組むことや、段取りを考えて動くこと、いざという時に周囲が困らないように情報を整理しておくことなど、とても効率的に仕事を計画し実行しています。ある男性が、夜、予定があると、仕事を積み残さないように、計画的に仕事を処理するという話をされていましたが、時短の女性は、毎日、そのような感覚で仕事をしています。

営業職の女性でも、信頼を勝ち得て、逆に、お客様が、時短の働き方を理解し、4時以降連絡をしないという事例なども、生まれています。2020年に女性管理職比率は30%にはなりませんが、安陪総理の発言を機に始まった女性活躍推進は、現在も推進中ではありますが、確実に実を結びつつあります。

ハンディがある?

女性も男性同様に重要な労働力にするためには、男女の不平等を解消する必要があり、働き方改革が推し進められているという背景があります。しかし、男性社会において、働き方改革の必要性がどこまで理解されているのかは疑問です。長時間働けない女性に基準を合わせて、働き方を変えることにどのような意義があるのか。そう思う人も多いのではないでしょうか。あるいは、女性ばかり活躍が期待され、自分たちの活躍に期待する声が聞こえないと、寂しく感じている男性も多いかもしれません。

八代先生は、講義の中で、「女性には、ハンディがある。シングルの女性であっても、専業主婦を持つ男性と戦わなければならないからだ」と話されました。そこまでは、考えたことがなかったので、私にとっても、このコメントは目から鱗でした。OECDのフランス事務所でお仕事をされた経験のある八代先生ならでのコメントではないかと思います。

共働き社会

女性が男性同様活躍するためには、これまでの当たり前を変えていく必要があります。たとえば、夜の接待ができないと営業担当になれない商習慣は、専業主婦を持つ男性社会を前提にしています。しかし、女性が働くということは、同時に、夫も家庭に協力することになるので、これからは女性だけでなく、男性も、夜遅くまで仕事をすることができないということになります。

現時点では、古い働き方と新たしい働き方が混在した状態ですが、これから、10年もすれば、共働き社会が当たり前になり、新しい働き方が当たり前という時代が到来するのでしょう。

多様な働き方

働き方改革においては、リモートワーク、兼業・副業と新たな制度が次々に始まり、人事担当者は頭を悩ませています。管理する側にとっては、多様性ほどやっかいなものはありません。誰もが、一律、同じような条件で働いてくれることを前提にした制度に、どのように多様性を包摂するのか、柔軟性を実現できるのか。チャレンジは大きいです。

海外では、インターネットの時代になり、ワークとライフの区別をなくす働き方も進んでいます。一日24時間の中で、ワークとライフをどのように区分するのかを自分で決めることができるという考え方です。たとえば、子どもを持つ親にとって、こどものお迎えや保護者会などに自由に参加できて、子どもが寝てからゆっくりと仕事をする方が、人生は充実するし、生産性も高まるという発想です。もちろん、残業という概念も、この働き方にはありません。

イギリスの大手通信会社では、いつ、どこで、どのくらいの時間働くのかを、自己申請できるそうです。そして、上司は、部下が働き方の変更を申請したら、理由を聞かず、その考えを尊重するというのがポリシーだと伺いました。働き方を選ぶ権利は個人に帰属し、個人の生き方に関わる選択は、尊重されるべきものなのだそうです。

本当の働き方改革は、企業が制度をどう変えていくかではなく、個人がどう生き、働くのかを考えることなのかもしれません。みなさんは、どんな働き方を実現したいですか。

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