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共働き・共子育て社会

2019年7月22日 文部科学教育通信掲載

月に、3日連続で、渋谷区内を走るミニバスに乗車する機会を持ちました。毎日、朝8時半のバスに乗っていたのですが、驚いたことに車内の8割が子連れの親子でした。私は、3停留所しか乗っていなかったのですが、そのうち2つが、保育園の最寄の停留所なので、子連れの親子は、そのどちらかで全員下車します。

 

私もかつて、子育てをしながら働いていたので、その当時のことを思うと、想像できない光景です。誰もが、当たり前に、出勤前に、子どもを保育園に連れて行く。それが彼らの日常の風景のようです。我々の世代は、「お母さんが働きに出て、子どもがちゃんと育つのか?」と批判されることもありましたが、もうそんな批判を受けることもないのでしょう。

 

昭和女子大学キャリアカレッジ学院長として、女性の活躍支援や、働き方改革等を推し進める活動をしており、その中でも、片働き社会から共働き社会へのシフトが、もっとも大事なテーマであると伝えています。共働き夫婦は、長時間働くことは難しく、ワークライフバランスや多様な働き方が必要になりました。このように伝えてはいましたが、ミニバスの8割が親子連れで、パパとママの割合も半々位という様子から、共働き・共子育て時代がもう始まっていることを改めて認識することができました。

 

新人パパの戦い

2日目の朝、バスの中で、宇宙に響くのではないかというくらい大きな声で、「ママ」と叫ぶ子どもに出会いました。パパとママと一緒に乗っていた子どもが、最初にママが下車する際の出来事です。「ママ、ママ、ママ」と、大きな声で泣きじゃくる子どもを、一生懸命、パパが慰めています。パパは、「ママがいいよね」といいながら、周りに迷惑をかけていて申し訳ないという気持ちとともに、冷静に、対処しようとしています。

 

あまりにも、声が大きいので、もちろん、誰もが、その子がどんな風に落ち着いてくれるのかを気にしています。そんな中、私の目の前にいるお父さんが、ニコニコしながらそのお父さんの様子を見守っているではありませんか! その暖かい眼差しから、「大丈夫だよ。最初は、誰でもこうなんだ」という言葉が聞こえてくるようでした。

 

男性の共感力

昔は、お父さんと幼児が二人だけで道を歩いていたり、お父さんが、子どもを抱っこしていたら、お母さんは病気かしらと心配していました。しかし、お母さんだけが子育てする時代は完全に終わり、お父さんも子育てに参画する時代が確実に到来していることを確信する出来事でした。だからでしょうか。このバスの中の男性の共感力が相当高い! 誰も、子どもの泣き声にイライラしたり、怒ったりする人がいません。

 

私は、子どもが赤ちゃんの頃、何度も飛行機に乗らなければならず、それがとてもストレスでした。赤ちゃんが泣かないように、色々な道具を用意して、それでも、泣いたら、トイレに飛び込むようにしていました。そんな努力をしても、子どもの泣き声を不快に思うおじさんたちから冷たい視線を浴びることもありました。子育ての経験がないおじさんばかりでしたから、共感はゼロです。それに比べると、渋谷区のミニバスの光景は、別世界です。誰もが、「ママ、ママ」と泣き叫ぶ子どもとお父さんを、無言で、暖かく見守っていました。

 

子どもの育ち

ピースフルスクールやシステム思考教育を幼児を対象に行う中で、子どもの発達の可能性について学びました。特に驚いたのは、4歳から5歳の間に、人間の遂行能力は、生涯の中でもっとも成長するという事実です。年中、年長さんの時に、どれだけ、子どもたちが、その能力を高められるかは、生涯の幸せにも影響するという研究発表もあり、幼児期の子どもの発達がとても大事だと知りました。人間の感性は、生まれてから3歳までが、生涯の中でもっとも高いということも知りました。

 

人間の発達という観点からは、保育のあり方がとても大事であることがわかります。共働き社会においても、子どもたちがすくすくと育つように、保育を充実していくことが本当に大切だと感じます。子どもの発達の可能性は、目に見えないものなのですが、それ軽視すると、その代償を、生涯に渡り、個人も社会も負担することになります。高齢化社会への投資と同様に、共働き社会を支えるために、幼児教育への投資がしっかりと行われることを願います。

 

共働き社会

共働き社会を実現する上で、大切な議論がまだ始まっていないことが気がかりです。それは、

「私たちは、どんな共働き社会を実現したいのか」という問いに答えるための議論です。

 

世界一子どもが幸せな国オランダでは、夫婦で、1.5人分働くことが目安となっています。

また、同一労働、同一賃金ではなく、同一労働、同一条件が実現しており、フレキシブルな働き方を選んでも、同じ条件で働くことが可能です。また、部長職でも、ワークシェアリングが可能なので、週3日働く二人の部長さんが、たとえば、人事部長という役職を一緒に全うするということも、珍しくないそうです。

 

このような働き方が当たり前なので、お父さんも、週4日勤務などが可能で、平日、公園で遊んでいるお父さんと子どもの姿を目にすることも珍しくありません。また、家族と過ごす時間を誰もが大事にしていて、夕食は家族と一緒に食べることが当たり前。家族の対話もとても大切にしているようです。

 

今、日本では、女性を活躍させることに必死で、そのわかりやすい取り組みが、女性管理職を増やすという施策です。これまでは、同じ優秀さであれば、家族を養う男性を優先して管理職にするという暗黙のルールがあった日本企業で、女性管理職比率を上げるという取り組みは、革命に近い動きです。しかし、男性も、女性もフルに働くという話になると、子どもがその犠牲になってしまいます。子どもは、そのニーズを声にする力がないので、私たち大人が、子どもの心の声を聴き取る必要があります。

 

企業と家族がウィン・ウィンとなるような働き方を実現することが、共働き社会における働き方改革のゴールです。残念ながら、現時点では、長時間労働を削減する、残業を減らすという試みが中心で、まだまだ、本質的な仕事の見直しには至っていません。また、多くの企業では、残業を減らすために、管理職が仕事を引き取るという話もよく耳にします。女性活躍を推進するための働き方改革が、女性が管理職になりたくない理由になっているという矛盾も生まれています。

 

オランダでは、働き方に関する規則がほとんどないそうです。理由は、規則があると、個別対応ができないからだそうです。一人ひとりが働き方を選び、上司との話し合いを通して、すべて決めていくのだそうです。一方、チームで仕事に取り組むことが一般的で、メンバーの一人が、勤務時間を削減したいということになると、他のメンバーが、その仕事を引き受けるなど、仕事の組み換えを行い、チームで全体の使命を果たすといいます。多様な働き方を推進するということは、こういうことなのかもしれないと思います。

 

職業人としての個人と、家族の一員としての個人がともに幸せを手に入れる共働き社会を目指したいです。

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