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働き方改革と教育

2019年8月12日 文部科学教育通信掲載

昭和女子大学ダイバーシティ推進機構では、今年、海外の働き方シリーズの講演会を開催しています。7月は、公益財団法人1more Baby応援団 専務理事 秋山 開 氏をお招きし、オランダの働き方のお話を、聴く機会がありました。

 

同一労働、同一条件

オランダには、同一労働・同一条件が実現しており、多様な働き方を誰もが選択できる環境があります。オランダの働き方改革の歴史は短く、この30年間の間に、夫婦で、1.5人働くモデルが確立されました。お父さんも、お母さんも、週4日働くという家庭もあり、平日に公園で子どもと遊ぶお父さんの姿を見ることも珍しくありません。夕食は、家族みんなで食べることが当たり前になっています。家族での食事と対話の時間を大切にしていると言います。世界一子どもが幸せな国のワークライフバランスは、家族の幸せに繋がっています。

 

規則はない

働き方に関する規則はほとんどなく、上司と部下が話し合い、働く時間と役割を決めます。規則があると、一人ひとりのニーズに対応することができないため、規則はない方が良いと言います。また、個人が、目標達成できないときは、目標が間違っていると考えるそうです。目標は、上司と部下がしっかりと話し合い決めているので、それが達成できない時には、目標が間違っていたということになるそうです。

 

チーム

オランダの働き方の話を聞くと、個人がとても自律しているように思いますが、チーム力もとても高いことがわかります。多様な働き方をみんなが選択する一方で、チームが使命を全うするために、お互いの立場を理解した上で、状況に合わせて働き方を変えることもあるようです。こうして、チームで連携することができるのも、何が公正かを共通認識できているからのようです。多様な働き方を各自が選択しても、仕事の偏りや不公平感は問題にならないそうです。

 

日本の働き方改革も自律

日本では、働き方改革が始まったばかりで、画一的な働き方が前提の組織に、産休明けに時短で働く女性が増えたり、リモートワークが始まったりという程度です。しかし、これから先、本当の働き方改革を進めるためには、制度だけでなく、人々の自律がカギを握るのではないかと思います。

 

権限委譲も自律

働き方改革には様々な要素がありますが、権限委譲も大きなテーマです。変化するスピードが加速する中で、現場に裁量権を委譲していく方が、良質な意思決定ができると言われる時代になりました。何階層にも渡り、お伺いや承認をもらう既存の組織の意思決定は、アクションのスピードを遅らせる原因になっています。承認が不要なら、もっと速く意思決定し、先に進むことができます。そのためには、一人ひとりが、自分で考え、行動し、結果を振り返る自律した個人である必要があります。

 

生産性向上も自律

必要な業務か否かを判断したり、必要な連携を積極的に推進する等、生産性向上の機会は、あらゆる業務の中にあります。業務分析を行って、全社的に生産性向上に取り組むことも大事ですが、一人ひとりの生産性に対する自覚と、創意工夫も同じくらい大事なのではないかと思います。不要だと思った業務については、誰かが声をあげ、みんなで合意できたら削除する。そういったイニシアィチブを取ることも、自律した個人でなければできません。

 

働き方改革とピースフルスクール

秋山さんのお話を伺いながら、昭和女子大学で取り組んでいる働き方改革と、クマヒラセキュリティ財団で取り組んでいる自立と共生を育むシチズンシップ教育がつながっていることに気づきました。オランダの働き方の背景には、自律した個人の存在があり、それは、教育の段階からしっかりと育まれているという気づきです。

 

遠慮することなく、自分の意見を理由と事例を添えて述べる。評価判断を保留にして人の意見に耳を傾け、対話する。そういった力が、多様性を前提にした働き方を実現する上で必須ではないかと思います。そして、それは、できれば、大人になってから学ぶのではなく、幼児期から学ぶ方が楽ということです。

 

教育と経済は双子

未来教育会議の活動では、多様なステイクホルダーとの対話を通して、教育と経済が双子であるという結論に至りました。指示命令と評価で人を動かす仕組みは、学校も企業も同じです。主体性の定義も、会社では、指示命令に従い、前向きに行動する人のこと、学校では、勉強しなさいと言わなくても自ら勉学に励む子どもこと、というのも似ています。この主体性で推進できる働き方改革には限界があります。働く時間を管理されるから、長時間労働を削減するという働き方改革では、生産性向上を実現することは難しいです。

 

誰もが誰かの邪魔をする

企業で、女性活躍や働き方改革の推進に取り組む担当者の話を伺うことがよくあります。そんな中で、組織の理解が得られないという話題がよく出ます。

多くの場合、自分の業務に関係のない、新たな取り組みは、女性活躍や働き方改革に関わらず、組織内の人々に理解されることがなく、大抵の場合、担当者が孤軍奮闘するというのが、現実です。トップの強いメッセージがないかぎり、一担当者ではなかなか物事を前に進めることができません。

逆風の中を、担当者が懸命に前進する。この様子を見ながら、ある時、大事なことに気づきました。それは、誰もが誰かの邪魔をしているということです。協力しないという邪魔です。積極的に妨害する訳ではありませんが、推進に協力しないというのは、邪魔していることと同じです。そして、このことは、おそらく全ての人に当てはまるのではないかと思います。その結果、不毛な取り組みが多くなり、当然、生産性も下がってしまいます。

 

オランダの教育

オランダの市民力は、理念と教育によって支えられています。民主的な社会は、対立を前提にするという強い信念を持ち、教育においても、自分の意見を持つこと、意見が違ってもお友達で良いこと、意見が対立することは悪いことではないことを、幼児から教わります。同時に、話し合うことを大事にしていて、喧嘩や我慢という道を選んではいけないと教わります。だから、主体性も高く、同時に、コラボレーション力も高いというのが、オランダの特徴です。この力が、オランダの働き方改革を支えたのではないかと思います。

 

多様性が堂々と存在でき、ちゃんと話し合いをして納得する。この感覚がなければ、多様な働き方を組織で実現することはできないのではないかと思います。これまでは、制度が公正を担保する力を持っていましたが、これからは、個々の多様なニーズを聞き取り、対応していく管理職が、公正を維持し、説明することも大事になります。

 

秋山さんのお話を伺い、改めて、働き方改革や生産性の向上を実現するためにも、子どもが幸せになれるワークライフバランスを実現するためにも、自律と共生の力を育むオランダ教育ピースフルスクールを積極的に広めていこうと思いました。小さいうちから始めることで、子ども達は簡単に、楽しく学べます。子どもに届ければ、保護者にも届きます。保護者に届けば、職場にも届きます。そんな連鎖を創っていきたいと思います。

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