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北海道湧別町のピースフルスクール

2019.06.24 文部科学教育通信掲載

 

北海道湧別町の教育委員会と連携し、幼児を対象に、自立と共生の力を育むピースフルスクールプログラムの導入を進めています。湧別町は、サロマ湖やオホーツク海の新鮮な海の幸に恵まれた自然豊かな町です。町営の保育所は、園庭も広々としていて、設備もとても充実しており、東京の子ども達には、夢のような園生活です。のびのびと遊び、すくすくと育つ湧別の子ども達の人間力を育みたいという想いを持つ町長、副町長、教育長の三人の強力なリーダーシップのもとで、ピースフルスクールを導入できることは本当にありがたいことです。

 

湧別町での導入開始

湧別では、各拠点のリーダーとなる保育士さんに向けて1日研修を行い、プログラム内容を詳しくご説明させていただきました。そして、全ての保育士さんを対象にした講演会を行い、プログラムの概要をお話させていただきました。また、小学校、中学校、高校の先生方や、保護者の皆さんにも、ピースフルスクールをご紹介する機会を頂きました。

 

講演会には、中国地方からお嬢さんの出産に合わせて湧別に来られている方もご参加くださり、「幼児期から人間教育に力を注いでいる湧別町に育つ子ども達は幸せですね」というコメントも頂戴いたしました。8年前のことを思うと信じられないくらい多くの人たちに共感していただけるようになりました。

 

8年間の経験学習

世界一子どもが幸せな国オランダの教育視察に訪れ、出会ったピースフルスクールを日本に紹介する活動を始めてもう8年になります。最初の3年間は翻訳に苦労しました。オランダ語のテキストを日本語訳にすることも大変でしたが、その内容を日本の風土に合わせて変えていくことも一苦労でした。

やっと、テキストが完成して、もうこれで大丈夫と思ったのですが、そこからは、ピースフルスクールを、教育関係者に説明することが新たな挑戦となりました。

 

当初は、日本の保育のあり方を全否定しているという誤解が生まれたり、日本に合わない異国の教育を押し付けようとしているのではないかと不信に思われたこともありました。もちろん、しっかりとプログラムをご理解いただくと、そのような誤解は消えるのですが、それまでの間、皆さんにストレスを与えてしまいます。こういった過去の経験から、私たちの説明も進化しました。日本の先生方が実践してくださっている素晴らしい保育が大前提であり、その中で、ある部分だけを少し変えていただくだけで良いことを上手に説明できるようになりました。また、それが、なぜ子ども達の幸せに繋がるのかということも、しっかり説明できるようになりました。子ども達の幸せのために、誰もが一生懸命保育に取り組んでいるのですから、ここがしっかりと関係者と握れると安心です。今回、湧別町では、スタート時から、皆さんにプログラム内容に共感していただけたと思います。

 

先生への期待

これからは、導入の準備のお手伝いをどれだけ上手に行えるのかが、私たちの最大のテーマになります。

ピースフルスクールは、21世紀スキルに関わる教育プログラムで、子供達に自立と共生のためのスキルを身につける指導を行うものです。このため、その前提として、先生方にも、同様のスキルを求めることになります。

 

例えば、意見を述べるときには理由を添えるということを子ども達は学びます。子ども達が、この学びを習慣化するためには、日常の中で、意見に理由を添えてお話をしたり、お友達に理由を尋ねたりすることを子ども達に求めます。先生方も、もちろん、意見に理由を添えて話す習慣を持っていただく必要がありますし、子ども達が、意見だけを述べたら、「どうしてそう思うの?」と尋ねていただく必要があります。このため、先生達が、協力して、実践や学びの機会を作ることが大切になります。

 

先生方が自ら実践することを意識していれば、子どもたちのレッスンを簡単に準備することができます。レッスンの準備にあたって、もう一つ大事なことは、子ども達の日常の生活と結びつけて、レッスン内容を企画することです。「どうしてそう思うの?」をお話しするレッスンであれば、どんなテーマを題材にするのかを考えます。好きな遊び、好きな食べ物、好きな季節等 子供達にとって身近なテーマでレッスンを組み立てます。ここは、先生の得意とするところなので、やはり、自ら実践することを意識していただくことが一番大事なことではないかと思います。

 

オランダの子どもたち

ピースフルスクールを、8年前に日本に紹介しようと考えたきっかけは、オランダ視察で出会った小学6年生の子ども達との対話でした。訪れた小学校で、二人のメディエーターにインタビューをさせてもらいました。

 

メディエーターは、小学校(オランダでは、4歳から小学校に通うため、小学校が8年生になっている)で起きる全ての喧嘩の仲介を行う担当者です。毎年、12名が選出され、二人がペアになり、日替わりでメディエーターを担当します。自ら希望し、志望動機を書き選出されます。

メディエーターの一人が、「私たちは、どちらの味方をしてもいけないのです。

メディエーターは、中立な立場で喧嘩の当事者が事実についての理解で合意すること、事実で合意したら、どうすれば仲直りできるかを話し合い決めることをサポートします。」と説明してくれました。

この説明に圧倒された私は、自分の未熟さとともに、自分の子育てを反省しました。

 

小学6年生の子どもに、私はここまでの成熟を求めていませんでした。そして、これが、OECDが提唱する21世紀スキルのレベル感であることを始めて理解しました。

 

人間教育の方法

プログラムが翻訳され、内容についての理解が深まるにつれ、私はますますこのプログラムの偉大さに惚れ込むことになります。人間教育も、このようにすればうまくいくのかと目から鱗でした。自立と共生の力を育むために、何を子ども達に教えれば良いのかが、とても小さなパーツに分解されているのです。喧嘩を話し合いで解決するというスキルを習得するために、子ども達は、たくさんの小さい力を習得していきます。意見に理由を添えるレッスンでは、自分の意見を持つことの大切さを学び、意見を人に理解してもらえるように説明する力や、人の意見を理解する力を実につけます。喧嘩がよくないと知っていても喧嘩になってしまうのは、嫌なことがあったり、面白くなかったり、頭にきたりするからです。このため、自分が負の感情を持ったときに、自分はなぜ今頭にきているのかを理解し、人に説明できることや、負の感情をコントロールする方法を学びます。

 

こういった練習を、ハッピーな時に行うことで、喧嘩の最中にも実践できる力となります。メディエーターも優秀ですが、誰もが喧嘩をしても、冷静に話し合うことができることが、ピースフルスクールで、話し合いで喧嘩の仲直りをすることができる理由です。

 

子どもの心

ピースフルスクールを広める活動を通して、改めて子どもたちは大人よりずっと偉大であるということを知りました。それは、子どもたちのよく生きたい、みんなと仲良く平和に過ごしたい、お友達には笑顔でいて欲しいと願う心が本物であるということです。

 

ピースフルスクールでスキルを習得すれば、その心をあきらめない大人に育つことができると信じて、ピースフルスクールの啓発活動を進めて参ります。

 

 

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