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リフレクション勉強会

2019.05.13 文部科学教育通信掲載

企業研修のプロと経営者の皆様と共に、リフレクション勉強会を実施いたしました。日々の仕事の中で、多様な人々の思考や行動パターンの事例をお持ちの皆様との勉強会は私にとっても大変勉強になります。そこでお話したことの一部をご紹介します。

 

勉強会の中心は、認知の4点セットを活用したリフレクションです。認知の4点セットは、日頃、私たちが当たり前に考えていることを、客観視するためのツールです。日頃無意識に行っている知覚と判断を分けることや、自分の意見についても、なぜそう考えるのかを自分に問うことで、自分の意見を客観的に捕らえることが簡単にできるようになります。その結果、学びや思考の質を向上させていくツールです。

 

知覚と判断

例えば、窓の外のサイレンの音を聞き、火事!?と思う時、私たちは、サイレンの音を知覚し、消防車だと判断し、そこから、火事に違いないと類推します。この一連のプロセスは、一瞬の出来事ですが、私たちは、既に持っている情報と事実を結びつけることで、物事を知覚し、判断するひとつの事例です。サイレンの音が、救急車ではなく消防車であると認識できたため、交通事故ではなく、火事を連想しました。

過去の知識は、このように、私たちの判断の裏づけとなる大切なものです。しかし、過去の知識が弊害になることも多くあります。自分が知らないことを知らない世界や多様性を理解する際には、間違いにつながることもあります。

最近では、VUCAワールド(Volatility 不安定で変化が激しい、Uncertainty 先が読めず不確実性が高い、Complex 複雑、Ambiguity 曖昧模糊とした)という言葉を耳にする機会が増えました。その中で、AIが、近い将来、既存の半分の仕事を人間に替わって行う時代が来るという話も出ています。この情報を、私たちがどのように知覚し判断するのかは、一人ひとりの持っている前提となる知識により異なります。ある人は、その日が来ることを前提に、人間の仕事を機械化する仕事に従事できる力を身につけようと考えます。また、ある人は、機械に代替されない仕事を選ぼうと考えます。また、ある人は、明日も今日とそう変わらないと考えて、日々を暮らす道を選びます。

変化の激しい時代には、過去の知識を活用した、自分の知覚と判断が本当に正しいのかを問い直す必要があります。

意見、経験、価値観、感情

通常、私たちは、知覚と判断をほぼ同時に行い、意見を形成します。先ほどは、VUCAワールドという言葉に対する3人の意見を紹介しました。彼らの意見の前提には、知識があります。そして、その知識を支えるのが、経験であり、そこに価値観と感情が紐づいています。

大学生を持つ親の多くが、今、子どもに公務員になって欲しいと願うとか、大企業よりベンチャー企業を選択する子どもの考えを否定するという話がよく聴かれます。

親の意見 公務員になって欲しい

親の経験 公務員は、安定していて失業することがない

価値観  子どもの安定した生活が大事

感情   安心したい

 

親の意見 ベンチャー企業よりも大企業に就職して欲しい

親の経験 ベンチャー企業は潰れるが、大企業は潰れない

価値観  子どもの安定した生活が大事

感情   安心したい

このように、意見の土台となっているのは、実は、論理的な思考というよりも、過去の経験による知識に紐づく感情と価値観ということになります。

VUCAワールドは、不確実で不安定な時代であり、その中で、安定した生活を送るためには、変化対応力を高めていく必要があり、安定を求めることが、実は危険に繋がるのではないかと私は考えています。実家が中小企業を経営しており、オイルショックをはじめとする変化への対応が、企業存続の鍵を握ると考えていたり、人材育成の世界で、求められる人材像が時代とともに変化していることを学んでいることが、意見の前提にある経験です。価値観と感情は、先の親の意見と同じで、子どもの安定した生活が大事で、安心したいとも思っています。

変化する時代の中で、私たちは、個人的にも社会的にも、様々な判断を迫られます。そして、その判断が、未来を形作ることになります。VUCAワールドだからこそ、より深く考えることが大事で、そのために、知覚と判断を分けること、自分の判断の背景には、どのような経験、価値観、感情があるのかを客観視することがとても大事ではないかと思います。

思慮深さ

OECDが、2003年に発表したキーコンピテンシーでは、リフレクション(思慮深さ)が要となる力と提議しおり、以下のように思慮深さを説明しています。

思慮深さとは、個人がどうのように考えるかということだけではなく、その思想、感情、社会的関係を含めながら、その経験をどのように一般化するように構成するかということでもある。個人に要求されるのは一定の距離を置くようにし、異なった視点をもち、自主的な判断をし、自分の行ないに責任をとるようになることである。

キーコンピテンシーが求めているのは、思慮深い思考と行動である。思慮深く考えることは、やや複雑な精神的過程を必要とし、考えている主体が相手の立場にたつことを要求する。たとえば、特有の精神的技術の習得にその過程を当てはめてみると、思慮深さは、個人にその技術について考え、それを理解し、自分の経験の他の面にそれを関連付け、その技術を変え、適合させるようにする。思慮深い個人ならまた、実践や活動を伴って考える過程をさらに続けて行く。

こうして、思慮深さが含むのは、メタ認知的な技術(考える事を考える)、批判的なスタンスを取ることや創造的な能力の活用である。

出典:『キー・コンピテンシー国際標準の学力をめざして』ドニミク・S・ライチェン明石書店からの引用

二者択一の考え

思慮深さは、二者択一の考えを超えるためにも不可欠なものです。最近、注目が高まっている国連が定めた持続可能開発目標SDGsは、企業に、二者択一の考えを超えることを求めています。売上、利益、成長を実現するという企業の使命に加えて、企業に環境への配慮を求めます。これまでのグローバル経済競争では、他社に勝つことだけが命題でしたが、今日では、途上国の人々の豊かさに貢献することが求められるようになりました。次々とゲームのルールが変わる中で、企業は、事業戦略を再定義していく必要があります。そのためには、思慮深く考えるリフレクションが必要となります。既存の使命と矛盾する新たな使命を、単純に付け加えただけでは、効果的なアクションに繋げられないからです。

マインドフルネスな日々に

世界では、マインドフルネスという言葉が流行です。禅の教えである、今、この瞬間を大切にする生き方です。私は、認知の4点セットをマインドフルネスにも活用しています。仕事では、様々な人と出会い、様々な課題に直面します。その際に、揺れ動く自分の感情を、中心に合わせるために、自分の意見、経験を客観視し、怒りや悲しみなどの感情を捉え、そこにどのような価値観が結びついているかを自覚するように心がけています。そうすると、自分がなぜ、そう感じているのかが明らかになり、自分が何を大切にしている人間かを知ることができます。客観的に自分の感情を捉えることができると、その感情を落ち着かせることも可能になります。こうして、自分の煩悩と向き合う際にも、意見、経験、価値観、感情は、威力を発揮します。

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