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ラーニングフォーオールの新たなスタート

2019.04.22文部科学教育通信掲載

2010年の立ち上げから参画しているNPOラーニングフォーオールの職員合宿があり、私も、2日半メンバーと共に時間を過ごしました。立ち上げ当初は、プロボノとして毎週末と夜の時間をこのNPOの活動に費やしていたので、とても懐かしく、また、感慨深い思いで過ごしました。

 

団体は現在、「子どもの貧困に、本質的な解決を」をミッションに掲げています。代表をはじめ中心となるメンバーは、立ち上げ当初、大学生。組織のビジョンや戦略、パーソナルマスタリー(なぜ、私がこの活動に取り組むのか)を熱く語る彼らは、本物のリーダーです。研修には、総勢 26名が参加し、一人ひとりが、パーソナルマスタリーとビジョンを語る姿も、本当に頼もしいです。

 

黎明期の思い出

ラーニングフォーオールは、ティーチフォージャパンという教育NPOの一部門としてスタートしました。資金も社員もゼロで始まった団体は、銀座の交通会館の階段下の空きスペースをお借りする形で始まり、プロボノを中心に運営していました。それでも、教育に貢献したいという思いを持った優秀な大学生や社会人が集まり、活動は大いに盛り上がっていました。

 

私たちが最初に直面した課題は、寺子屋を行うために、困難な子どもたちと出会うことでした。最初の接点は、葛飾区のケースワーカーさん。そのご縁で、生活保護受給世帯の支援拠点で最初の寺子屋をスタートさせました。その初日の寺子屋での出来事がきっかけで、私は、この活動にのめり込んでいきました。

 

初日の寺子屋を始める前、ケースワーカーさんが、私たちに注意事項を話してくれました。「あの子達は、勉強する習慣もないので、15分座って勉強できたら十分ですから」おそらく、意欲満々の学生たちをがっかりさせてはいけないという思いからの発言だったと思います。ところが、子どもたちは、初日から、3時間座って勉強しました。この子どもたちの様子には、ケースワーカーさんたちも、驚いていました。

 

勉強といっても、中学生で九九や分数ができないといった状態でしたが、この時に、私が初めて知ったことがありました。勉強ができない子どもたちも、勉強がしたくないわけではなく、勉強ができるようになりたいと心の底では思っているということ。ところが、周囲の誰もが、そう考えて向き合ってくれることはなく、やがて、自分をあきらめてしまうという環境にいるということ。 そして、子どもの可能性を信じ、彼らに勉強を教えたいという学生たちの真摯な思いが、子どもたちが安心して勉強に向かうきっかけになったということです。

 

学校に通っているのになぜ

この出来事をきっかけに、子どもの人生を変える教室づくりを支援する日々がはじまりました。しかし、一方で、ひとつの疑問が沸きました。子どもたちの中には、不登校の子もいましたが、ちゃんと学校に通っている子どもたちもいました。それなのに、なぜ、こんなに学力が遅れてしまうのか。学校でなぜ、勉強することができないのか。そこで、知り合いの先生たちに様子を聞いてみると、一斉授業の中で、先生が困難な子どもに集中すると学級崩壊が起きてしまうという考えがあることを知りました。困難な環境にいる子どもたちは、就学前から発達が遅れていることも多く、集団授業では、みんなと一緒のスピードで学ぶことができず、学年が上がるとともに、学力の遅れが広がっていくということも解りました。

 

その後、中学校の先生とお話する中で、さらに悲しい現実を知ることになります。小学校の遅れを抱えたまま中学校に行く子どもたちは、中学校では、入学時から学力底辺の子どもたちです。中には、部活などで楽しく3年間を過ごす子どもたちもいるようですが、多くの子どもたちは、この時点で、「自分はだめな人間なんだ」というあきらめを持つようになります。先生方も、いまさら、小学校の算数を教える訳にもいかず、中学校で、彼らが学力を取り戻すことはできません。そして、中学3年の卒業の頃になると、先生の心配は、無事に卒業できるか、それだけです。彼らの人生がどうなるかは、自己責任ということになります。決して、先生方が悪い訳ではありません。毎年、この状態が繰り返される中、先生も、毎年、何人かはこういう状態なので、自分にはどうしようもない現実と受け止めている様子でした。この状況を知り、小学校の卒業試験があるオランダの仕組みは悪くないと思いました。小学校に1年長くいることは、10代で人生を諦めることに比べれば、大した話ではありません。

 

子どもの人生を変える教室

こうして、私を含め、寺子屋に関わった学生たちも、困難な子どもたちの現実を知り、かれらの人生を変える教室を創る取り組みが本格化します。子どもの可能性を信じること、子ども目線で考えること、子どもの学力を子どものせいにしないことなど、たくさんの約束事が生まれました。子どもの学力を上げるために、何十時間もかけて、教材を準備することも、当時の寺子屋では当たり前でした。それでも、優秀な学生が集まり、寺子屋を支えてくれました。

 

フィードバックとリフレクションの文化も、活動の中で確立されました。授業後は、観察者からのフィードバックとセルフ・リフレクションで、授業を振り返ります。そして、少しでも、授業の質を上げるために何ができるのかを、みんなで考えます。こうして、50時間の教師研修や指導を振り替える大リフレクション大会等も生まれました。一人ひとりの指導経験は、組織のナレッジになり、教材開発や、教師研修に活用されます。教師の学習が、子どもの未来を変えると信じて、学習し続けた結果、今日では、多様な子どもたちの学習ニーズにも対応し、学力を高め、志望校に合格できる寺子屋へと発展しました。最近では、教師教育のe-learning化も進み、他団体の学習支援事業を支援することもできるようになりました。

 

ラーニングフォーオールは、2014年に法人化し、2016年には、日本財団と連携し、家でも学校でもない第3の居場所を創設し、平日の放課後に、貧困世帯の小学生の生活・学習・食事の支援する子どもの家事業も開始しました。

 

新たな挑戦

ラーニングフォーオールは、現在、次のチャレンジに向けて活動を加速しています。寺子屋と子どもの家の活動を続けているだけでは、すべての子どもたちを助けることができないからです。国も地域も、様々な支援を行っていますが、残念ながら、その支援はすべての子どもたちには届いていません。子どもや家庭の情報がひとつに集約されておらず、連続的な支援を行うことも困難な状況です。このような状況を変えるために、昨年から始めたのが、チャイルドエコシステム・プロジェクトです。 支援の必要な子どもたちに100%支援が届き、困難な境遇にいる子どもが自立的に生きる準備を確実に行えるエコシステムを創る試みです。学校、行政、地域との連携を必要とし、簡単な試みではありませんが、誰もが本気で、子どもたちの幸せを願い挑戦すれば必ず道は開けると信じ、活動しています。

 

3年以内には、他の地域にもモデルが提示できることを目指しています。まだ、スタートしたばかりの取り組みですが、みんなで力を合わせて、モデルを具現化したいと思います。

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