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21世紀型教育改革

2018.10.22 文部科学教育通信掲載

時代の変化に併せて教育が変わる動きが加速しています。委員を務める未来の教室とEdtech 研究会の所管が文科省ではなく、経産省であることも時代を象徴する変化ではないかと思います。同研究会では、民間の教育関係者とともに未来の教室に向けた実証事業も始めています。

 

経産省がなぜ未来の教室を考えるのかと疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし、教育の出口は、経済の入り口であり、人の人生にはその境界線はありません。また、脱工業化社会を実現する上で、求められる人材像に合わせて教育が変わることが大切な今、経済界と教育界の共進化が鍵を握ると感じます。子どもたちの未来のために、省庁も壁を超えて、お互いの強みを生かし、協働していける社会を実現したいです。経済と教育の対話が、経産省と文科省の対話により、大きく進むことを心から期待しています。

 

プログラミングや英語、アクティブラーニングと、教育の中身の議論が進む中、教育改革のあり方も時代の変化を汲み取り、20世紀型から21世紀型に変わる必要があるのではないかと考えます。そのためには、新たな視点が5つ必要です。

 

 

視点1 ビジョンの形成

子ども、保護者、先生、教育委員会、文科省、民間教育サービス事業者、NPO、地域コミュニティ、メディア等、教育には、社会全体の注目が集まります。このため、「日本の教育は、社会の批判が変える」傾向が強いことを知りました。また、教育改革は、トップダウンで推進されるため、改革のメッセージが先生に届く頃には、「何のために」ではなく、「なにを」「どのように」やるのかというメッセージが中心となり、目的なき改革になり易いことも知りました。アクティブラーニングが大事なのではなく、子どもたちが、自ら考える力を磨くこと、仮説を検証する経験を持つこと、お友達の多様な意見を通して、自分の考えを深め、新たな視点を手に入れる協働的な学びができる大人に育つことがアクティブラーニングの目的です。社会人の成功は、テストの成績ではなく、アイディアを具現化した結果により決ります。生まれるアイディアの質と、それを具現化する力を共に高めるために、アクティブラーニングの経験が生かされます。同時に、この力には、ポジティブ志向やストレス耐性など、非認知能力が不可欠です。ところが、学校社会では、目に見える成果、学力に、心の発達が負けてしまい、子どもたちが心を育む機会が、常に軽視されてしまいます。そうならないためには、何のために、新しい教育メソッドが導入されているのか、教育改革が進むのかを社会全体が理解する必要があります。ビジョンの形成にもっと、もっと力を入れていく必要があります。

 

視点2 対話

有無を言わさないトップダウンの改革と異なり、ビジョンの形成には、対話が欠かせません。なぜ、私は賛成なのか、反対なのか。何を心配しているのか。色々な意見を表に出し、議論を積み重ねていくことで、ビジョンは形作られ、揺るがない存在に発展します。そのビジョンが目指す姿が本当に正しければ、最初は反対している人も、その意味を理解する日がやってきます。議論を積み重ねれば、我々が何を選択し、優先しているのかがより明確になります。唯一の道だからと押し付けてしまうと、導入は早いですが、結果的には、誰も納得していない命令なので、長続きしません。経済と教育の対話、社会と教育の対話、色々な立場の方たちが、対話に参加することが大切です。

 

視点3 フラットな関係

ビジョンの形成に、対話が不可欠であると申し上げましたが、そのために必要なのが、フラットな関係です。多様な人々が対話に参加し、相互に学びあうためには、フラットな関係が不可欠だからです。優は劣から学べない。劣は優をこえられない。ヒエラルキーが存在すると、お互いから学ぶことができません。学校の先生、教育委員会、文科省は、夫々役割が違います。その違いを尊重し、優劣の概念を持ち込まない。この姿勢がないと、対話になりません。これが一番難しいことかもしれません。

図 こどもはいつ人生の準備をするのか

こどもが大人になる段階の図

 

 

視点4 システム思考

教育改革を進める上で、大切なことは、現象として見える課題に対処するアプローチを取らないことです。目の前の課題に対処していても、根本原因が残るため、真の課題解決になりません。そこで、課題の分析に生かせるのが氷山モデルのアプローチです。氷山モデルでは、課題を3つの視点で分析します。①過去からの経緯という視点で分析する。②課題の要因となる構造やシステムを把握する。③その現実を創り出している人の価値観やものの見方、社会通念や文化を把握する。そして、原因と結果の関係を理解し、課題の全容を把握した上で、課題解決のためのアクションを考えます。特に、今日のように、教育が大きく変わる時代には、一つひとつのアクションがどのような変化をもたらすのかを理解することも大切です。改革は、何かを壊す原因にもなりますから、教育システム全体に目を向けていないと、教育改革が新たな課題を生み出すという結果になります。

 

視点5 想像力

教育に関わるすべての人々は、子どもたちの段階的な発達・成長に意識を向ける必要があります。幼児を目の前にして、高校生や社会人の姿を想像することは難しいかもしれません。しかし、今、目の前にいる子どもにだけ意識を向けていると、教育を間違えてしまう可能性があります。私は、幼児教育にも関わっていますが、いじめ問題の原因は幼児期から小学校3年生までの教育にあると感じています。保育士さんは、「○○ちゃんが、いたいといっているから、あやまろうね」と、子どもたちのけんかに仲介します。こうして、自分たちで問題解決する経験を持たないまま、小学校4年生になり、先生に助けを求められなくなると、いじめを誰も止められなくなるのです。こんな風にならないためには、保育士さんも、小学校4年生になった子どもたちの様子を想像する必要があります。そうすれば、子どもの幸せを願う保育士さんの幼児への関わり方は変わるはずです。

 

教育改革を推進する上でも、想像力は欠かせません。子どもたちが生きる未来の社会はどんな社会なのだろう。その社会は今とは何が違うのだろう。その社会で、人々が幸せに生きるためにどんな力が必要なのだろう。今とは違う未来の姿を100%予測することは不可能ですが、想像を膨らませることは可能です。想像力を持ち、未来のことを考える姿勢があれば、子どもたちの幸せを願う誰もが、自然に教育を変える必要性を実感できるのではないでしょうか。

 

21世紀型教育改革は、トップダウンでは成功しません。未来を生きる子どもたちが幸せになるための力を習得する教育改革を実現するために、ビジョン形成、対話、フラットな関係、システム思考、想像力の5つの習慣を実践していきましょう!

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