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ザンビア・ラーニングジャーニー

2018.09.10 文部科学教育通信 掲載

昨年に引き続き、企業のリーダーシップ開発の一環で、ザンビア・ラーニングジャーニーに同行しました。私の役割は、参加者の皆様が、自分の潜在的な能力に気づき、リーダーシップの開発を行う支援を行うことです。

 

平和な国

アフリカの南部に位置するザンビアは、日本の2倍の国土を持ち、1700万人が暮らしています。経済規模では、2兆7000億円で、日本の佐賀県や、宇都宮市と同じ位です。ザンビアは、1964年の東京オリンピックの閉会式の日に、イギリスから独立をしたことで、日本とも縁の深い国です。ザンビアの国民は、英語を喋り、クリスチャンが多く、また、国民性は、真面目で、ノーが言えない控えめな所が、どこか日本人と似ていると感じます。ザンビアは、周囲を8カ国で囲まれており、陸路が物流の中心ですが、周囲のアフリカ諸国と比べても、民族、宗教、政治等の紛争がなく、平和な国としても知られています。

 

富の格差

人口の半数以上が国際貧困ラインの1日1.9ドル以下で暮しており、貧困の対象は、7割を占める農業・漁業に従事する人々です。その一方で、首都のルサカには、ショッピングモールやカジノ、ゴルフ場もあり、国内の貧富の差がとても大きいことに驚きます。世界の経済活動がつながり、都市部を中心に、新たな経済圏が開発される過程で、国内における貧富の差が拡大するという新たな課題が生まれています。

 

インフラ

インターネットが普及する一方で、道路、水道、下水、電力などの重要インフラの整備は、まだこれからという地域が多く、田舎に行くと、まだ、電気のない生活をしている人々も多くいます。朝日とともに起床し、日没とともに就寝するという生活をしています。食事は、炭を使う手作り料理が中心で、特にシマというトウモロコシを潰して蒸した主食の準備には、かなりの時間をかけています。味付けは塩とトマトというとてもシンプルなものですが、コンビニ食と異なり、自然を贅沢にいただくことができます。

 

5万人のコミュニティ

視察では、下水などの整備がされていない中、5万人の人たちが住む地域、ストリートチルドレンの住む地域やシェルターなど、日本では見ることができない現地の様子を視察しました。

 

5万人の人々が住む地域では、イタリア人の元宣教師がNGOを立ち上げ、地域の女性の力を活かし住民の医療や教育等の支援を行い、地域住民による主体的なコミュニティづくりを促進していました。地域に住む人々は、決して豊かではありませんが、皆幸せそうに生活しており、外国人の我々にも、殺伐としたう空気や争いの様子はまったく見受けられません。5万人の住民それぞれが近隣とつながっている様子は、子どもたちの遊ぶ姿からうかがうことができ、心と心のつながるコミュニティがそこにあることを、視察で訪れた私たちも感じることができました。

 

ストリートチルドレン

ストリートチルドレンは、何かの理由で家族と共に暮らすことができなくなった子どもたちです。お腹をいっぱいにさせるためにシンナーを吸っている子どもたちとの出会いは、とても辛いものでした。そんなストリートチルドレンが自立をすることを支援するために、シェルターを提供しているジャスパーさんとようこさんご夫婦のお話も伺いました。ストリートチルドレンだった子どもたちが、シェルターに移り、自分の才能に気づき、運転免許を取得して自立している若者との出会い等、嬉しくなる出会いもたくさんありました。中には、自らの自立を果たすだけでなく、空いている時間を、ストリートチルドレンの住む地域で過ごし、小さい子どもたちの自立を促すためにリーダーシップを発揮している若者もいました。ここにも、仲間のために貢献するリーダーを中心に、コミュニティが確立されていました。

 

コミュニティ

人々が、心のつながりを持つコミュニティは、田舎の村を訪問した際にも顕著で、ザンビア人の強みであると感じました。日本にも、昔は、このようなコミュニティがあったと聞きますが、今日の日本に比べると、ザンビアの人々は、人と人とのつながりとコミュニケーションを大切にしていて、幸せそうだという感想が、何度も話題に出ました。私は皆さんの発想を聞きながら、オランダのシチズンシップ教育を日本に紹介する中で、教育プログラムを開発したオランダ人のレオさんから、いじめの傍観者がいる時、そこにはコミュニティはないと言われたことを旅の間中思い出していました。心がつながっていれば、いじめられている人の苦しみはあなたの苦しみなるので、放置はできない。もちろん、誰も、本当は助けてあげたいと思いつつ、しかし、自分の身をいじめから守るために、心のつながりを遮断し、傍観者になる。これは、人間本来の生き方としては、不自然なのかもしれません。ザンビアの人々の様子を見ていて、表面的に存在するコミュニティに身を置くことは幸せなことではないということも、改めてよく理解できました。

 

日本企業の存在

ザンビアには、5万人の中国人が住み、ルサカにはチャイナ市場もあります。ザンビアと中国の関係は友好で、ザンビアの債務の半分は中国が負担しているそうです。中国系の建設業者もザンビアに進出し、ODA等による建設工事の多くは、中国系の企業が受注しています。残念ながら、日系企業は、品質が良くてもコストが高いために、建設工事の受注が難しいそうです。幸い、中古車に関しては、7割がトヨタということで、道路では、日本の車ばかりを目にしました。異国の地を訪問し、日本企業の看板や、日本製品を見ると、なんとなくうれしくなるというのは私だけでしょうか。残念ながら、電気製品に関しては、サムソンやLG等韓国製品が中心で、日本のメーカーの姿はありませんでした。

 

ラーニング・ジャーニー

今回の視察の狙いは、現地視察を通して、これから発展を遂げるアフリカという新たな市場を理解することと共に、自己のリーダーシップについてより深く探求することの2つでした。自分の生き方やあり方を見つめ、捕らえ直し、自己変容を起こす手法に、U理論というフレームワークがあります。プログラムは、この理論に基づき企画しました。合わせて、21世紀学び研究所で開発した学び方を活用し、自分の学びをメタ認知する力を高め、自己認識がスピーディに高まる工夫をしました。

 

視察ごとに、もっとも驚いたことや学んだことを振り返る際に、必ずその背景には、どのような経験や価値観が存在するのかを問いかけました。視察は、ザンビアの現状を知る重要な機会であるとともに、自分を知る機会でもあります。人間は瞬時に1100万ビットの情報に触れているのに、40ビットの情報しか拾えないと言います。自分の意識が向いている事柄しか、人間は拾うことができません。事実はひとつではないのです。このため、グループワークが有益な役割を果たします。多様な気づきを共有することで、事実を多面的に捉え直すことが可能になります。同時に、自分の意識がどこに向いているのかを知ることで、自分を知る機会となります。

 

リーダーシップの問い

 

私は、どこからやってきたのか。

私は、今、どこに立っているのか。

私は、何者か。

私は、どこに向かうのか。

 

旅の終わりのゴールは、この問いに対する答えを見出すことでした。一週間の視察ではありましたが、それぞれが感動したり、驚いたこと、その背景にある経験や価値観の違いを共有し、対話を通して自分を見つめる機会を得ることができました。

 

ザンビアという日本とはまったく異なる国、社会、地域やコミュニティに生きる人々の様子に触れ、世界と日本を見る目も変わりました。参加された皆さんのこれからの活躍がとても楽しみです!

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