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消えた育成力を蘇らせよう!

2018.08.27 文部科学教育通信掲載

企業の管理職の皆さんに育成方法を教えるワークショップを行うことがあります。このワークションをスタートさせたのは、今から10年前のことです。多国籍企業のリーダー養成に取り組む米国人アレックス・グリムシャオ氏との出会いから、GEのリーダー養成プログラムを日本化するライセンスを入手し、リーダー養成講座の一環としてスタートさせました。

 

GEのリーダー養成

GEでは、ジャック・ウェルチ氏の時代に、大企業のヒエラルキー的な組織を大改造し、境界線のない学習に最適な組織を創るリーダーを養成する取り組みがスタートしました。その過程で生まれたプログラムを日本で紹介できる機会をもらい、私は幸せの絶頂でした。ところが、日本の管理職の皆さんに、このプログラムを届けたところ、まったく、ピンと来ていただけなかったのです。GEでは、コーポレットユニバーシティであるクロトンビル・リーダーシップ開発センターで、世界中のリーダーたちが受講し、GEを最強の組織に変えて行ったプログラムのどこに問題があるのでしょうか。最初は、何が起きているのかわかりませんでした。しかし、回を重ねるうちに、少しづつ明らかになりました。

 

プログラムの中でも、一番、日本企業の管理職とかみ合わなかったのは、育成でした。育成のプログラムは、フィードバックを最も効果的に行う手法を紹介するものでしたが、そのフレームワークに、だれも感動しないのです。こんなにシンプルで効果的なフレームワークを見て、なぜ、助かったと思わないのだろうか。そう思いながら、プログラムを展開した思い出があります。

 

消えた育成力

その後、私は、この理由がもっと知りたくて、組織に潜伏し、自分自身も人材育成に直接関わり、同時に、研修ではなく、名前と顔の解る人たちに、人材育成の方法を教えることにしました。その結果、すべてのなぞが解けました。日本企業の多くの管理職は、人材育成を止めてしまっていたのです。 私が新入社員だった時代は、まだ、終身雇用が当たり前で、会社は、家族のようなものでした。年功序列でしたから、上司も安心して部下を育てていました。上司に育てられた経験を持つ部下が上司になるので、育成を行うことは当たり前のこととして、組織に継承されていきました。しかし、その姿は、多くの企業から消えてしまったようです。

 

松下電器の人員整理

私が、ハーバードビジネススクールで、日本経営の素晴らしさを徹底的に学び、誇り高く日本に帰国したのは、1989年です。しかし、バブルの崩壊とともに、日本企業は様変わりしていきます。1989年4月には、松下幸之助氏が世を去り、その13年後に、人を大切にする松下電器が、1 万3千人の大人員整理を行いました。今日でも、新卒一括採用や終身雇用が継続しているようにみえますが、日本企業が世界のトップに上り詰めた際に持っていた、人事制度と人材育成力は、多くの企業から消えて行きました。

 

鈍化する成長の中で、管理職の役割も変わっていきます。管理職としてのポジションは与えられるのですが、実質的な部下は数名で、プレイングマネジャーという称号を与えられ、管理職自らが業績を出すために働くという構図が出来上がりました。こうして、育成は、やった方がよいが、やらなくてもよいこととなっていきます。

 

上司も部下も不幸

名門企業の管理職研修で、プレイングマネジャーの皆さんに育成の方法をお伝えしても、活かす場所がないというのが実情だったのです。しかし、彼らに、人材の悩みがないかと行うとそんなことはありません。時間通りに出社するとか、納期を守ることなど、優秀な管理職から見るとあたり前のことをやってくれない部下たちに悩まされている上司がたくさんいらっしゃいました。しかし、上司たちの認識は共通で、育てるより自分がやった方が早いというものでした。

 

 

優秀な管理職の皆さんが、長時間労働になる背景には、部下の能力不足を補う仕事の仕方があたり前になっていることも、大きな要因ではないかと思います。最近では、その部下たちが、自分よりも年齢が上というケースも増えており、益々、育成の機会が減少しているといえます。一方、組織に貢献しないまま、年を重ねて行った社員は、人生100年時代に、自分を活かす場を見つけ難くなるはずです。原点に戻って、若い頃から育ててもらえる環境に身をおく必要があります。

 

育成・成長の時代へ

このような背景を理解すると、なぜ、10年前に、管理職の皆さんが人材育成プログラムを必要としていなかったのかがよくわかります。しかし、これからの時代は、この姿勢は許されません。労働人口が減少し、一人ひとりの社員の生産性を高めることが必要です。これは、企業側の理論ですが、働く側も、一生ひとつの企業で働き続ける時代が終わりを迎えており、自分のキャリア開発に責任を持たなければならない時代です。

GEのように最強の組織を目指す企業では、社員のエンプロイアビリティ(市場価値)を上げることが上司や会社の責任であると考えています。雇用には、劇団型とブロードウェイ型があります。劇団型では、すべての人が、自分の望む役を演じることができません。一方、ブロードウェイ型であれば、自分の望む役を演じることができます。だから、もし、ここにいても、自分の望む役割を担うことができないのなら、社員が外にでてもよいと考えています。同時に、優秀な人材は追跡していて、彼らが望む役割をお願いすることができる時に、ぜひ、戻って欲しいと声をかけるのだそうです。このような関係性が、これからの日本企業にも、求められるのでしょう。優秀な社員は、社会の資産であり、一企業で囲い込むものではないし、囲い込むことにより、能力開発の機会が下がるのであれば、企業にとっても個人にとっても、幸せな働き方ではありません。

 

自律的学習者を育てる組織へ

日本企業は、働き方改革を進めると同時に、企業と個人の関係性、人材育成、自己成長に対する考え方を見直す必要があります。そこで、まず、人材育成のあり方に関して、これまでの経験を踏まえて、新しくプログラムを開発しました。「自分で自分を育てられる個人」を育てる人材育成プログラムです。そのために、上司が、どのように関わればよいのか、どのような環境を創ればよいのかを学ぶプログラムです。

 

最近話題の成人発達理論でも、大人が成長するために、支援が重要な役割を果たすことが明らかになっています。大人になって多くの時間を費やす企業の中で、人々が能力を最大化させることができれば、人も企業も幸せになります。止めてしまうから育てないという論理ではなく、他社で育てた人材がわが社で働く時もあれば、わが社で育てた人材が他社で活躍することもあると考えれば、企業の人材育成力が、社会の人材育成力になります。そんな社会が、人も企業も幸せにするのではないでしょうか。

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