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多様な働き方・生き方と主体性

2017.8.14 文部科学教育通信掲載

政府主導で始まった働き方改革を、多くの人は長時間労働の改革と捉えているようですが、それは、働き方改革の目指すことのほんの一部です。しかし、政府主導の画一的な働き方改革に、明確な目的意識を持ち取り組んでいる企業人に会うことは稀です。そんな中、先日、公益資本主義研修の講師として、ロート製薬株式会社の山田邦雄代表取締役会長とワンジャパン共同発起人・代表の濱松誠氏をお招きし、お話を伺う機会がありました。

ロート製薬株式会社では、昨年、「社外チャレンジワーク制度・社内ダブルジョブ制度」という2つのユニークな人事制度を導入しました。

パナソニック株式会社にお勤めの濱松誠氏は、昨年、ワンジャパンという団体を、富士ゼロックスや東日本電信電話株式会社で働く仲間と一緒に立ち上げました。

ワンジャパンのミッション

ワンジャパンは大企業の若手有志団体のプラットフォームです。現在、大企業で働く多くの若手社員は、所属する組織内に存在する新しいことをやってはいけない空気、イノベーションを起こせない空気の中でさまざまな困難や、障壁、悩みを抱えています。そして、私たちは挑戦すべき世代である若手社員が、この「空気」を読んでしまっている状態を大きな課題だと考えます。ワンジャパンは大企業の有志団体が集まり、一人ひとりが刺激を受け、勇気を得て希望を見出し、行動するプラットフォームです。挑戦する空気をつくり、組織を活性化し、社会をより良くするために活動を行います。

ワンジャパンの取り組み

ワンジャパンでは、働き方の提案・実践、若手社員に関する調査とレポートの発信、新規事業開発、企業内及び企業間横断プロジェクト企画・実行を通して、大企業に所属する若手社員が挑戦できる土壌を作ること、そして参加団体が協働・共創しながら以下を実践することで日本から世界を良くする活動を行なっています。現在、36社の大企業で働く若者たちが、ワンジャパンに参画しています。

オーナー企業のロート製薬株式会社では、トップ自らが企業変革を推進し、大企業では、若者たちが、企業変革にチャレンジしています。

講義を受けた後、受講生とのディスカッションを通して、この2つの取り組みが、多くの人々の目には奇異に映るということが解りました。しかし、この2つの取り組みは、政府主導で行われている残業削減や、プレミアムフライデーよりも、もっと本質的で、働き方改革の核心を突いた取り組みです。

世界がイノベーションに向かう中、硬直化した日本企業に未来があるとすれば、山田会長や濱松氏が提唱するように企業に働く人々のあり方を変えていく必要があります。日本の一歩外に出れば、企業が自ら変化を推進し、時代の変化を牽引している姿しか目に入りません。しかし、残念ながら、多くの日本企業では、過去の踏襲に従うことをよしとしているようです。

多様性の時代

テクノロジーの進化により、すべてのルーチンワークは人工知能や機械が担う時代が到来するといわれています。日本の労働人口の約49%が人口知能に代替されるという予測があります。テクノロジーの進化は、人間をルーティンから開放し、クリエイティブな仕事に向かわせます。そんな時代には、「何をやるのか」ではなく「なぜやるのか」という問いを持ち、自らの個性や強みを活かし、社会に貢献することが人間の新たな役割になります。そんな社会では、一人ひとりの主体性の高まりと多様性の融合が新たな価値を創造する原動力となります。

多様性の時代には、一人ひとりが自分の個性や強みを磨き、自己認識する必要があります。他人と同じであることよりも違うことが大切です。同じ人間であることを求めるとすれば、人間はロボット以下になってしまいます。しかし、残念ながら日本の社会も教育も、人間の主体性よりも、組織人であることや、空気を読むことなど、何かに合わせることを求めます。まるで、ロボットのように、人間にも、仕様が決められていて、その仕様に合致すると良質、当てはまらないと不良品扱いになります。

学習指導要領で画一的に整備された教育では、一人ひとりの興味関心とは無関係に授業が進みます。しかし、そのことに疑問を持つと脱落者のレッテルを貼られるので、多くの子どもたちは思考停止という道を選択します。こうして、受身に生きる術を習得し、企業に入り、同様の生き方を選択します。このあり方は、高度経済成長の時代には、企業と個人のウィン・ウィンをもたらしたのですが、残念ながら、今日は、ルーズ・ルーズの結果をもたらします。誰もが、創意工夫し、善い変化を創造していく必要があるからです。その解決策のひとつが、働き方改革ですが、これも、政府主導になると、残業削減が目的化してしまい、企業の競争力をさらに弱める結果になっています。

画一的教育の仕上げが、日本の雇用慣行である新卒一括採用です。最近では、終身雇用の概念は崩壊しつつありますが、親は、子どもが潰れない会社に就職し、安定した生活の基盤を創ることを願います。新卒一括採用という働き方が存在するのは、世界でも韓国と日本のみと聞いていますが、今後は、この就職のあり方も改革することになるでしょう。

経済活動がすべてではありませんが、高齢化する社会の中で、経済の持続可能な成長が、国民の幸福を支えることに異論を唱える人はいないでしょう。良い製品やサービスを世の中に提供することで、社会に貢献する企業で働くことは、幸せなことです。そのためには、一人ひとりが、自分の主体性を開花させることを許す教育と社会をみんなで創っていく必要があります。優秀な人材を眠らせるのではなく、善い未来を創る価値創造に参画する国になるために、働き方改革は重要な役割を果たします。

オランダやデンマークでは、幼児期から主体性を育む教育が主流です。自分の考えを持ち、考えを人に伝え、聴き合うことを幼稚園の頃からはじめます。教育者は、幅広い遊びの選択肢を用意し、自分で遊びを選ぶ中で、自分を知る機会を提供します。こうして、幼稚園の頃から、主体性の核となる、自己を知る機会を持ちます。同時に、社会とのつながりについても、幼児期から学んでいます。このような環境で育つ子どもたちは、社会の中で自分を活かし、他者とともに幸せに生きることができる主体性を自ら育むことができます。主体性を育む教育に成功している国では、子どもを画一的なものとして捉えることはありません。戦後の経済復興に必要な厚い中間層を育てることに成功した日本教育は、複雑で変化の激しい時代では機能しないことを認め、必要な変化を推進することが大切です。

働き方改革は、生き方改革でもあります。一人ひとりが、自分の生き方を選択し、自ら幸せな人生を創造する中で、職業があり、家庭があり、社会とつながりがあります。一人ひとりが選択する力を持たない働き方改革は、人々を不安にし、画一的な改革に陥り易く、その結果、組織の力を殺ぐ結果になります。企業が変わり始める今、教育がその阻害要因とならないために変わることを強く願います。

 

 

 

 

 

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