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ものの見方をかえる学び

2017.04.24 文部科学教育通信掲載

昨年から、21世紀学び研究所を立ち上げ、21世紀の学び方を広げる活動を始めました。変化する時代の中で、生存し続けるために我々大人が学ぶことがとても重要だと考えたからです。21世紀の学びにおいて、重要なことの一つが、ものの見方を変える学びです。

 

学習する組織論との出会い

未来を創造するために、ものの見方を変える必要があるという考えを世の中に広めたのは、『学習する組織 システム思考で未来を創造する』(英治出版)の著者ピーター・M・センゲ氏です。1990年代に、世界のリーダーに大きな影響を与えた学習する組織論は、今日、環境問題をはじめとする複雑な問題解決に活かされています。

 

学習する組織の課題解決

ピーター・M・センゲ氏は、課題を氷山の一角に例えて、課題を現象として捉えるだけでは問題を解決することはできないと説明しています。よい事も悪い事も現象として起きていることを支えている氷山があるというのです。氷山を分析し、理解するための視点は3つあります。一つ目は、時系列で見た傾向です。過去から現在を振り返り、どのような傾向があるのか、特徴的な変化があるのかを分析します。二つ目は、構造や仕組みの視点です。現象を支えている構造や仕組みを明らかにするだけでなく、どのようなつながりを持っているのかを捉えるのが特徴です。3つ目の視点が、現象を支えているものの見方です。3つの視点の中でも、最も大きな変化をもたらす要因となるのが、ものの見方と言われています。人々が信じていること、慣習や文化、社会通念等がこれに当たります。現象を変えたければ、人々がものの見方を変える必要があります。

 

なぜものの見方を変える必要があるのか

一言で言えば、世界が大きく変化しているからです。世界では、持続可能な地球の未来を確実なものにするために、様々な新しい取り組みが生まれています。

代表例として頻繁に取り上げられるのは、多国籍企業ユニリーバ社の事業計画です。従来の事業計画に含まれる売上、利益、成長に関する計画以外に、2020年までに、10億人の人々の暮らしを豊かにするという目標をかかげています。売上を2倍にし、10億人の暮らしを豊かにする目標と計画「サスティナブルリビングプラン」と呼ばれる事業計画が策定されたのは2010年です。すでに7年が経過していますが、プランは着実に成果を上げています。

 

貧困を無くすことが営利組織の目標になるのかという疑問がわいてきませんか。

実際に、このテーマでハーバードビジネススクールの卒業生とディスカッションをしたのは、今から3年前の2014年のことです。当時、多くの年配の卒業生が、営利目的にそぐわない取り組みだとサステイナブルリビングプランを批判したのがとても印象的でした。

 

これまでのものの見方では、営利企業は、営利の追求をすることが目的で、社会問題を解決することは、その使命ではないということになります。一方、これまでと同じ経済活動を続けていたのでは、地球が3個必要という未来予測も常識になりつつあります。それは今日の問題ではないと捉えるのか、未来のために今変わる必要があると捉えるのかは、個人の自由です。しかし、残念ながら、地球の未来は、我々一人ひとりのものの見方と優先付けにより決まるとことも事実です。持続可能な未来を実現するために、多くの人々がものの見方を変えて欲しいと願っています。

 

ものの見方はどのように形成されるのか

どうすれば、ものの見方は変わるのでしょうか。その問いに答える前に、まず、私たちのものの見方がどのように形成されるのかを理解する必要があります。

例えば、私たちは、営利団体、非営利団体という2つの団体に対するイメージを持っています。株式会社は営利団体で、NPOは非営利団体と認識しています。このようなものの見方は世の中の常識になっており、そのことに疑問を持つ必要はありません。このため、NPOが営利追求を始めると違和感を覚えるし、営利団体が社会問題の解決に夢中になることは許されないと考えます。このように、私たちのものの見方は、経験や知識を通して確立された価値基準や判断の尺度に支えられています。こうして、私たちは、日々の生活や経験を通して、あらゆる事柄に対してものの見方を形成します。特に、社会の通念として誰もが共通に持っているものの見方の場合、私たちは疑問を持つことや、批判的に考えることを忘れがちです。しかし、今のように変化の激しい時代には、自分のものの見方の前提に意識を向ける必要があります。

 

ものの見方を変える方法

学習する組織では、ものの見方のことをメンタルモデルと呼び、その形成の仕方を、推論の梯子で説明しています。私たちは、経験や知識を通して形成される判断軸や価値基準を使い、新しい情報を吸収します。この学びのステップを推論の梯子で表しています。

 

ものの見方を変えるためには、推論の梯子を降りる必要があります。そのためには、まず、自分がどのような経験や知識と価値基準で物事とを捉えているのかを内省する必要があります。その上で、自分のものの見方の土台となる経験や知識、判断軸や価値基準が、自分の判断の根拠として妥当なのかを評価する必要があります。このプロセスを豊かなものにしてくれるのが、自分とは異なるものの見方をもつ他者の存在です。対話が学びにとって重要な役割を果たすのはこのためです。

 

日本でも必要な理由

少子高齢化社会の到来、新興国の台頭、AIと人間の恊働、ミレニアム世代の台頭と変化を求める要因で溢れる中、教育改革や働き方改革が始まっています。この変化を乗り切るためには、社会全体がものの見方を変える必要があります。

部分的な変化では、改革が成功しないからです。

働き方改革を例にとってみましょう。労働人口の減少により、働く女性を増やそうという動きがあります。その結果、保育園が不足します。その結果、長時間労働がボトルネックになります。奥さんが働き始めると、夫の子育て参加率が上がります。転勤や単身赴任を当たり前に受け入れる社員は減少します。このように、一つの変化は、次々と新たな変化のニーズを生み出します。もし、私たちがものの見方を変えることができれば、このような一連の変化を先読みして、みんなで協力して、善い変化を創りだすことができます。働き方改革には、この他にも3つの重要なファクターが影響を及ぼします。一つは、テクノロジーが約半分の人間の仕事を代替する時代になるということ。二つ目は、企業の永続を前提にした社会保障システムでは雇用の安定が実現しないこと。三つ目は、生涯働き続けるために、学び直しが必要になるということ。これら全てを前提に、新しいものの見方で、理想の姿を描き、その実現に向けて社会全体が取り組むことが必要です。

 

これまでの常識で物事を捉えるのではなく、新しいものの見方を手に入れるために、ぜひ、皆さんも、自分のものの見方に意識を向けてください。その考えは、どのような経験や知識、価値基準を前提にしているのか。その前提は、未来に向かう判断に本当に有益なのか。そう問いかけることが明るい未来に繋がる方法です。

〔推論のはしご〕

 

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