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問題解決力と個性の尊重

文部科学教育通信No.407 2017.3.27  掲載

小さい子どもたちの問題解決

オランダのピースフルスクールでは、子どもたちは幼稚園の頃から問題解決に参画する。友達とブランコを取り合うような場面では、順番に遊ぶという問題解決の方法を実践する。ある小学校では、ビー玉遊びで勝った子と負けた子の争いが絶えず、問題解決の方法から、みんなで話し合い決めることにした。それまで、勝った子が負けた子のビー玉をもらえるルールだったが、これが争いの根源であることがわかりルールを変更した。ビー玉遊びを仲良く行うための問題解決だ。こうして、子どもたちは、自然に、現状を振り返り、問題の原因を特定し、問題の解決策を考え実行する。生活の一部として、リフレクションを通して学び成長する。

 

社会起業家の父ビルドレイトンが日本の大学生や高校生に伝えたこと

ビルドレイトンは、社会起業家という言葉の生みの親で、世界82カ国で活躍する3200人の社会起業家をネットワークするアショカという非営利団体の創立者だ。彼が、2010年に来日し、早稲田大学で講演をした際に、「おかしいな?」と思ったら、行動する許可を自分に与えなさいと、日本の高校生や大学生に伝えた。3000人以上の社会起業家との交流を通して明らかになったのは、だれもが10代で、なにかしら自分で取り組める問題解決のために行動していたことだそうだ。そこで、日本の若者にも、大人になるのを待たずに、身近な問題でよいから問題解決のために行動して欲しいと願いを伝えてくれた。

 

プレゼンテーションではなくアクションを

日本でも、社会起業家や起業家を育てる取り組みが盛んになる中で、少し気になるのは、プレゼンテーションが優先してしまいがちなことだ。アイディアをパワーポイントにまとめて、素晴らしいプレゼンを行い表彰されるという教育手法に疑問を感じる。多くの場合、プレゼンテーションの先のアクションが軽視されてしまう。問題解決は、アイディアの勝負ではなく、インパクトの勝負だし、多くの場合、実際にアイディアを実践しても、期待通りに物事が進まないのが通説だ。むしろ、行動してみること、失敗してみること、失敗を振り返り、もう一度やり直してみることこそが、本当の学びだと思う。大人の手を借りずに、自らの頭と心と体を使って、仲間とともに助け合い問題解決に臨む経験を持つことが素晴らしいのだと思う。

 

自分の大切なこと

教育NPOのティーチフォージャパンの立ち上げに参画して以来、7年間、日本のNPOの発展の様子を見てきた。たくさんの社会起業家の若者に接する中で、人生と問題解決の関係について気づいたことがある。世の中には、たくさんの問題がある。震災復興、環境、教育、人権、政治等々、問題は多岐にわたり存在する。そんな中、ある人は教育の問題解決に夢中になり、別な人は、環境問題の解決に人生を捧げる。教育の問題解決においても、テーマは多岐にわたり、ICT教育、クリエイティビティ、教育格差、食育等幅広く存在する。社会起業家は、自分の大切にしていることを軸にテーマを決める。例えば、ティーチフォージャパンの創立者は、自分の人生を変えた恩師との出会いから、教師を目指し教師になった後、NPOを立ち上げた。自分のお世話になった恩師のように、生徒に向き合う先生を増やしたいという思いからだ。私も、理事として、プロボノとして、この団体の活動に多くの時間を捧げたが、その理由は彼とは異なる。この活動を通して、困難な子どもたちの現状を始めて知った私は、大人に対する怒りを持った。これだけ義務教育が整備されているこの国で、13.8%の子どもたちが、読み書きそろばんができないまま成人になっていくという現実をしったからだ。13.8%というのは、国際学力到達度調査(PISA)で、レベル1以下の成績をとる子どもたちの比率だ。レベル1以下の子どもたちは、将来、契約書も読めず、他者にだまされるリスクを抱えながら生きることになる。PISAのテストでは、上位にランクインする日本の教育は質が高いと信じていた私は、この13.8%の現実を知り驚いたし、それを放置している大人たち(自分も含めて)に、怒りがこみ上げてきた。私の大切にしていることは、人の持つ潜在的な可能性を信じること、明日は今日より良くなるために学び続けることだ。だから、怒りを覚えたのだろう。私たちのNPOで活動する人たちには、創立者や私とも違うたくさんの「自分の大切なこと」が存在する。問題解決に参画するためには、自分の大切にしていることを知ることと、その軸を通して放置できないと感じる問題をテーマに選択することが大切なのだろう。

 

教育の真の目的

教育の真の目的は、自らの人生の目的を見つけ、その目的を通して、社会に貢献するために学び続ける人を育てることだと思う。世の中にある様々な問題の中から、自分の大切なことに繋がるテーマを選び、問題を解決するために学び続けることができる人生は幸せだ。それが、ビジネスであっても、NPOであっても、アートでもスポーツでも、どんなテーマでも、自分の人生の目的と結び付けられると素晴らしい。そのために、教育は、何かを押し付けるよりも、色々なものを試し、自分にあったものを選択できる機会を与ることが大切ではないかと思う。

 

マルチプルインテリジェンス

世界では、1980年代に、インテリジェンスは8つあるという定義が発表され、今日の教育学において常識になっている。IQは、8つのインテリジェンスの中の2つに該当し、論理的数学的インテリジェンスと言語的インテリジェンスが対象となる。それ以外にも、私たちが一般的に得意領域として認識してきたスポーツやアートは、身体的なインテリジェンスと空間的なインテリジェンスと定義されている。このほかにも、音楽、自然、対人関係、内省がインテリジェンスと定義されている。インテリジェンスは、得意か不得意かという話だけに留まらず、学び方の特性でもある。身体インテリジェンスを持つ人は、身体を動かしたり、身体を通して学ぶ方が興味関心が高まり、対人関係インテリジェンスの高い人は、人とのコミュニケーションを通して学ぶ方が効果的に学べるという。これまでの学校教育は、IQのみに主軸を置き、言語と論理的数学的インテリジェンスの高い子どもたちにとって快適な学び方で設計されてきた。この他のインテリジェンスを持っている子どもたちにとっては、最適な学びの環境ではないという事実にも目を向けて欲しい。その上で、8つの領域は、自らの人生の目的を見つける際にも役立つことも大切にしたい。学校には多様性が溢れている。その多様性に優劣をつけるのではなく、自分の得意、不得意を知ることや、他者との違いを知る機会を10代に持たせてあげることが大切だと思う。人は、一人ひとり興味関心が違うからこそ、世の中はうまく行く。そんな当たり前のことを、もっと10代で受け入れることができれば、多様な才能、多様な個性が、相互に連携し、一緒に善い世の中を作って行ける社会も実現するのではないだろうか。

 

若者の挑戦を応援しよう

2002年にスタートした地球市民教育は、今日の世界の様子を予測していた。若者の多くは、民主的な社会を願い、高い共感力を持ち格差や困難に直面する人々を助けたいと思う。一人勝ちが幸福をもたらさないことを知り、誰もが幸福に生きる社会を実現したいと願う。その願いをあきらめないで問題解決に挑戦する若者を応援していきたい。

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