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未来教育会議のアクティブラーニング

文部科学教育通信No.406 2017.02.27 掲載

「なぜ」から考える

今年で3年目となる未来教育会議の最後の2日間のワークショップ(2月16日と17日)の準備を進めている。参加者は、約半年の活動を振り返り、自らのアクションに繋げるアクティブラーニングを行う2日間となる。

社会人の人材育成に関わり、学びの場を設計する際に心がけているのは、「なぜ」から考えることである。

  1. 参加者に必要な学びは何か。
  2. その学びは、参加者の人生にとってなぜ必要なのか。どのような意味を持つのか。
  3. 参加者は、その学びにおいて、今、どの辺りにいるのだろうか。(当たり前に知っている。すぐに理解できる。想像もしていない。真逆のことを信じている。)
  4. 参加者にとって、最も、自然な学びのプロセスはどのようなものか。
  5. 参加者の多様性をどのように扱うか。(多様な学びを設計できるか。出来ない場合に、一人ひとりの学びをどのように担保するのか。)
  6. 参加者は、どのように学びを刈り取るのか。
  7. 参加者は、自分の学びにどのように気づくのか。
  8. 参加者は、どのように学びを自分の人生や仕事に結びつけるのか。
  9. 参加者には、どのようなマインドの変化が起きるのか。
  10. 参加者には、どのような行動の変化が起きるのか。

一つのアクティブラーニングを設計するにあたり、最低でも、前述の10の問いについて考える。そして、一旦、プログラムが完成した後は、ワークを頭の中で実施してみる。

  1. 参加者の思考が混乱したり、参加者が戸惑う流れになっていないか。
  2. 参加者が、期待通りの学びを得る事ができるか。
  3. 講師側が困ってしまう場面がないか。(説明が理解してもらえない。グループワークが想定のように進まない。問いや指示が不明瞭で参加者が混乱する等。)

ここまで確認して、資料づくりに入る。

  1. 学びの効果が高く、効率よく時間を活用するために、投影資料には、どのようなメッセージを含めるか。
  2. メッセージをより確実に届けるために、文字情報に加えてどのような絵や写真を加えるか。

こうして、資料を完成させ、説明とワークの両面から、プログラム全体の流れを確認し、意図とずれている事や、効果的でない所がないかを確認して行く。そして、最後にもう一度、自分に問いかけてみる。

  1. 私は、このプログラムを通して何を実現しようとしているのか。
  2. 私にとって、それはなぜ重要なのか。
  3. 受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

ここで、プログラムの核となる学び、価値観レベルでの狙いを自分の中に落とし込み、プログラム作成が完了する。

 

プログラムについて自ら問う

こうして出来上がった2日間のワークショップのプログラムについて、自分に問いかけてみる。

1.私は、このプログラムを通して、何を実現しようとしているのか。

その上で、自分の人生や仕事に学びを結びつけ、自らの内発的な動機に基づき、アクションを考えて欲しい。そのアクションを実現する上で直面する困難を想像し、あらかじめ対応を考えて欲しい。 約半年、国内外で行ったスタディツアーから明らかになった2030年未来シナリオの世界を、自分事として理解して欲しい。ブルーム理論で言う所の知識、理解ではなく、適応、分析、統合、評価の深いレベルでの認知に至って欲しい

2.私にとって、それはなぜ重要なのか。

未来教育会議をはじめて、今年で3年目になる。一年目は、2030年の未来を想像し、教育の未来シナリオを描いた。その時に、明らかになったことは、大人が変わらなければ教育は変わらないという事実。そこで、昨年は、大人がどう変わる必要があるのかを考え、2030年の企業と社会未来シナリオを描いた。この2年間の活動を通して、日本の社会の現実と教育は鶏と卵の関係にあることを知る。受け身に学ぶ学校で習得した習慣は、企業で活かされる。学校でも、企業でも、余計な事を言わないで、先生や上司に従う有能な人材が大量生産されている。個人になると、「私はこう思う」と雄弁に語る彼らも、組織人になると、その事を口にしない。

結局のところ、学校や職場で、個人として生きることを放棄する。その方が、最小限のエネルギーで最大の報酬を得られるのだ。このモデルは高度経済成長の時代には有益だった。しかし、今日のように複雑で混沌とした社会の中で、変化やイノベーションを起こす時代には機能しない。リスクを取る人がいないからだ。この状態が続くと、失われた20年が、失われた半世紀になることが予測される。それを避けるために、気付きと行動を促すことを狙いとして、3年目の未来教育会議を設計した。

 

参加者には、日本の人口は世界の2%であり、98%の世界が何を考え、どのようなアクションに取り組み、どのような未来を創ろうとしているのかを理解することを求めた。これが、海外スタディツアーだ。

今年は、ドイツとオランダを訪問した。ドイツでは、インダストリー4.0に取り組む関係者の話を聴いた。オランダでは、デジタル技術や科学を活用しイノベーションを起こす市民の力や、社会資本を活用するシェア経済の実践に学んだ。EU諸国では、市民、政治、企業、アカデミアの4つのセクターが四十螺旋的に未来を創造するクワトロヘリックスという考えに基づき社会が創られている。オランダでは、強い市民力が四十螺旋を牽引しているように見えた。

ドイツでは、企業、政府、アカデミアの連携とリーダーシップに学んだ。日本の四十螺旋は、どのように実現するのか。企業、政府、アカデミア、市民はどのようにして連携したアクションを実現することができるのか。参加者である企業人、官僚、学生夫々の立場で考えて欲しい。自分が実現したい未来。その未来のために、個人、組織人としてやれる事.個人や組織の枠を超えて連携が必要なこと。そして、ゴールを設定し、具体的なアクションと、ゴールに到達するシナリオを描く。失われた半世紀ではない未来に向けて、一人ひとりが動き始める。これが私の願いだ。

3.受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

システム思考には、「ぼくたちは大丈夫」と、今が上手く行っていても、壊れた船に乗っていれば、やがては沈んで行くことを説明する絵がある。先に沈むのはどちらかというだけの話だ。激動する世界の中で、日本らしく存在し続けるために、今、変わることを選択できることはとても幸せなことだ。

テレビをつけると日々報道されるトランプ大統領のニュース。その度に、トランプ大統領のニュースを対岸の火事と思わない方がよいと思う。日本の社会と教育は、欧州モデルではなく米国モデルなのだ。共生ではなく競争を前提とし、人間づくりも、よき労働者を育てることを優先する。学校も親も教育の目的が受験戦争に勝ち抜き良い職を手に入れることだ。経済活動に参加できず貧困から抜け出せない人々も多くいる。PISAテストでレベル1を取る子どもの数が13.8%であることは語られず、読み書きそろばんができないまま大人になることを黙認する社会になっている。ミニ・アメリカ化は至る所に見られる。

未来教育会議の2日間のワークショップを通して、自分と自分の周辺の未来をよくするアクションを明確にし、多様なステイクホルダーが協力して良い未来に向かう社会を実現することは、参加者にとっても損な話ではない。

 

 

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