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セルフリーダーシップを磨く

文部科学教育通信 No.396 2016.09.26掲載

現代は情報に溢れ、仕事や日常生活での判断の数が急速に増えています。常に脳がフル回転しており、注意が散漫になっている状態が続いています。心身ともに疲れ果てているという方も多いのではないでしょうか。このような時代に見直されているのが、落ち着いた状態を取り戻し、今の自分に注意を向ける認知の力です。メタ認知とも言われ、頭の中のもう一人の自分が自分を客観視して、コントロールできる能力を指します。現在、Googleで開発され世界のあらゆる企業で広まっている「マインドフルネス」もこの認知の力を活用したものです。

先日、日本でマインドフルネスを広める一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)とイベントを開催しました。

マインドフルネスとは、「今この瞬間に、完全な注意を向けた状態」です。今、周囲で起きていること、自分に生じている感情や思考、身体的な感覚などに目を向けることを指します。

一方、マインドフルネスでない状態とは、注意が「今」からそれ、散漫になることです。そのことに気づかず、起きることすべてに反応し、特定のことに執着して全体が見えないことを指します。例えば、あれやこれやと物思いにふけっていたり、血眼になって頑張っていたり、感情的に行動している状態です。また、湧いてくる考えや感情を抑え込んでいることもマインドフルネスとは言えません。

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私達が広める企業向けプログラム「OS21」でも、マインドフルネスと共通する「認知」の力を重要としています。ここでポイントになるのが感情です。忙しい日々の中では、感情が動く場面に遭遇することが多々あると思います。しかし、私達は自分の感情の変化を立ち止まって認知し、受け止めることをしないまま過ごしています。自分の感情をきちんと受け止め、評価判断を保留にしていくことが要となります。日本では感情について語る機会が少なく疎かにされがちです。しかし、人の言動はすべて感情に紐付いています。様々な状況の中で困難を乗り越え、他者と協同していくために、この感情のコントロールが欠かせないのです。

当日は認知や感情の扱いを中心に、このような流れで進みました。

気づく力と制御する力
マインドフルネスを養うために、訓練として瞑想を取り入れることが多くあります。心が「今」という瞬間を意識し、評価判断を挟まない気づきの状態になるのです。プロセスとしては、自分の呼吸に注意を向けることから始めます。呼吸に集中しているうちに、注意がそれて雑念がわいてきます。注意がそれたことに気づき、また呼吸に注意を戻すといったサイクルを回します。この時に雑念がわいてしまってはいけないと無理に考える必要はありません。違うことを考えてしまっても、また自然と呼吸に意識を戻し、評価判断をしないことが大切です。瞑想を通じて、「メタ注意」の力を養います。「メタ注意」とは一般的な「注意」に対し、注意自体への注意、注意がそれたことを知る能力を言います。自己の内面の状態をメタ注意することで、はじめて制御ができるのです。ここでは、自己制御のメカニズムを学びました。

認知と動機の源
私達は知らず知らずのうちに認知をして物事を捉えています。過去の経験、価値観、そこに紐づく感情により形成されるものの見方です。ここでは認知の力を使いペアを組んでお互いの内面を探求するワークを行いました。嬉しい時、モチベーションが高い時、悔しい時、怒っていた時など感情の記憶と結びつく出来事や、人生に大きな影響を与えた出来事を思い出してもらい、そこから自分の大切にしている価値観や信念を見つけていきます。これが、人それぞれが異なって持っている動機の源です。自己の内面を探ることで、自分がどのようなときに能力が最大化し、生き生きと行動することができるのか、自分の活かし方も見えてきます。

マインドフルカンバセーション
聴き手、話し手として、マインドフルネスをコミュニケーションに応用する〝マインドフルリスニング〟”マインドフルトーキング”の練習です。ペアを組み、話し手が話をし、聴き手は瞑想の呼吸のように相手に注意を向けて聴きます。意見や感想などは返しません。話が止まって沈黙が訪れたら、その〝気まずさ〟にも注意を向けながら反応せずに実践をつづけます。このようにすぐに評価判断をせず、なぜ自分や他者がそう思うのか受容し合うことが真の対話につながるのです。

つながる力と多様性
合わない人と仕事をするとき、無関心な人、我慢できない人、制御する人と人によって対応は様々です。マインドフルネスや認知の力が高まると、自分や相手に対し寛容になっていくことが実感できます。ネガティブな感情に気づいて、セルフマネジメントすることができ、異質なものにあったとき感情の制御が働くのです。自分や他者の内面を知ると同時に、人それぞれが違って当たり前なことに気づきます。これが、多様性を受け入れるということにつながっていくのです。

リフレクション
ここまでの力を統合すると、経験を振り返り自分の学びを高めることができます。出来事や他者、環境ではなく、自己の行動や内面を振り返ることが可能になります。この自己の振り返りが、一番の学びとなり、次のアクションに応用ができるのです。つまり望む結果を得る最善の方法を手に入れることができます。今回のイベントでは、リフレクションのサイクルに基づき、イベントでの経験を自分のものとして活かす方法を体験していただきました。

今回のイベントで行ったような内容を習慣的に続けることによって、様々な効果が実感できるようになります。まず、心の落ち着きが得られやすくなります。すると、様々な仕事や考え事がある中でも集中力が高まり、生産性があがります。緊張をともなう場面でも、自分の不安を制御し、普段の自分の力を出し切る状態をつくることができます。他者とのコミュニケーションにおいても、即座に感情で判断することが減り、相手への共感力が高まることでしょう。お互いの信頼関係も築きやすくなるはずです。

こうした自己認識力、自己管理能力はセルフリーダーシップにつながります。リーダーシップというと他者率いて統括するイメージがありますが、自分自身をリードするという考え方です。今の社会は、仕事や解決すべき問題が高度となり、一人のリーダーが道を示し、メンバーがその通りに動くだけでは機能しなくなっています。一人ひとりが自ら考え、行動する力がより求められているのです。そのためには、まず自分の考えや行動をきちんと認知し、マインドフルネスな状態になることから始まるのです。

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