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未来教育会議の短い歴史

文部科学教育通信No.390 2016.06.27掲載

3年前に発足し活動を続けている未来教育会議は、昨年の活動を通して創り上げた「2030年の未来の社会・企業のシナリオ」を、6月12日に発表しました。シナリオは、未来教育会議のHPからもダウンロードしていただけます。ぜひ、教育に関わる多くの方々にも、ご覧頂きたいと思います。

未来教育会議は、なぜ、「2030年の未来の社会・企業のシナリオ」を描いたのか、どのように活用したいと考えているのかを、未来教育会議の短い歴史を振り返りながらご説明したいと思います。

未来教育会議の立ち上げ

未来教育会議は、2013年に、オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを開発したレオ.パオ氏と、奥様でビジネスパートナーであるカオリン氏の来日がきっかけで生まれた団体です。教育の未来を社会と共に創りあげているオランダの事例に勇気付けられ、ワークショップに参加してくれた3人の知人と共に、約1年の議論を経て未来教育会議を立ち上げることになりました。その後メンバーも増え、実行委員会のメンバーは7名になりました。

その際に、ヒントとなったのは2010年から2012年にかけて取り組んでいた「教育の未来を創るワークショップ」で積み重ねた議論でした。ワークショップでは、延べ200人を超える人々と教育の未来について考え、話し合いを行ってきました。話し合いには、文科省、教育委員会、校長先生、先生、NPO等の教育団体、民間教育事業者、保護者、学生と多様な人々にご参加いただき、マルチステイクホルダーで話し合うことを大事にしました。その結果、教育がよい方向に向かうためには、教育をシステムとして捕らえることが重要であることに気づきました。たとえば、21世紀スキルを身につけるためにスタートしたゆとり教育も、民間教育サービスに強く依存する日本社会では、子どもたちにゆとりを与える結果には繋がりませんでした。教育熱心な親たちは、子どもたちを塾に通わせることを選択し、ゆとり教育により、子どもたちの多忙化が加速しました。このような状態では、どのような施策を打ち出しても、真の狙いが具現化することになりません。

滝つぼで溺れている先生に気づく

マルチステイクホルダーによる対話を始めた当時、私は日本教育大学院大学の学長をしており、教員の職務についても、強い危機感を持っておりました。社会人経験と高い志を持ち教員になった修了生たちが、学校現場でさまざまな困難に直面していました。教師には、授業以外の多くの職務があります。家庭も多様化し、子どもたちを朝起こすことまでも先生の仕事になり、不登校の子どもたちの家庭訪問も必要な仕事です。複雑な社会環境による歪が、子どもたちの生活に影響を与え、そのインパクトをすべて先生が背負うことになります。そんな中、先のワークショップでのある議論で、私は自らを省みる必要性に迫られました。その議論の結論を絵で表すと、先生が滝つぼで溺れていて、滝つぼには、文科省、教育委員会、保護者、メディア等からの要求が次々と流れ落ちているのです。教育システムは、社会が教育に新しい要求をすればするほど、先生たちが安心して新しいことに取り組めない環境を作り出しているのです。息子が小学生の頃ゆとり教育が始まり、教育批判をしていた保護者の一人として、私も、先生が溺れる環境を作ることに加担していたことに気づかされました。先生を守らなければ、教育がよくならないことは明らかです。しかし、同時に、教育には変わってもらう必要があります。その両方を実現するために何が必要か、その結論が、教育のビジョンを共有する社会の実現でした。

教育のビジョン

こうして、1月にスタートした未来教育会議は、教育のビジョンを、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方の3点セットで語れる社会を実現することから始めることにしました。

未来教育会議は、4つのビジョンも掲げています。

  1. 自立と共生が実現し、すべての人が自分を幸せにすることができる社会をつくる
  2. 主体的に考え、相互にかかわりあい、問題解決できる力を持つ人を育てる
  3. 教育に関する柔軟性や自由さが担保されている社会をつくる
  4. 学校、家庭、地域、企業が共創して教育にかかわり合う社会を創る

未来教育会議の最初のゴールは、教育のビジョンが共有される社会を創ることです。ビジョンが共有されていれば、行政、学校、家庭、地域、企業が協働して、教育を作り上げることができます。しかし、ゆとり教育に始まる一連の教育改革において、必ずしもビジョンが共有されていないのが現実です。教育改革が進む中、現場の先生や保護者が求めていること、企業が求めていること、そして教育の主体である生徒が求めていることがバラバラでは改革を成功させることは困難です。特に、新しい教育を作り上げるプロセスにおいては、上手く行かない事も含めて関係者が振り返り、改善を繰り返すリフレクションのプロセスが不可欠です。善い事も悪い事も振り返るためには、関係者が有るべき姿についての共通認識を持つことと同時に、信頼関係があることが大前提となります。

世界一子どもが幸せな国 日本へ

なぜ教育が変わらなければならないのか。どのように変わらなければならないのか。この問いに、教育関係者、保護者、生徒全員が明確な答えを持つ社会を一日も早く気づきたいと思います。未来教育会議の活動で、オランダやデンマークを訪問すると、欧州では、目指す社会の姿や教育のあり方について、2015年の段階でコンセンサスが確立していることを実感します。21世紀がスタートして15年が経過しているため、彼らの取り組みは一定の成果もあげています。グローバル化やテクノロジーの進化が加速する中、20世紀の社会モデルを手放せない日本は、企業も教育も、ガラパコス状態です。しかし、大人は、組織の壁を越えて連携することができず、打ち出された改革も、抵抗勢力が存在しスムーズに前進しているとは言いがたい現実があります。子どもの幸せを願わない大人はおらず、これだけ多くの人々が教育をよくするために真摯に取り組んでいるのに、結局は、その阻害要因となっているのも、大人です。このような大人の様子を生徒たちはどのように眺めているのでしょうか。子どもには、一歩踏み出す勇気を持ち、コミュニケーション力を高めて欲しいと願う大人たちは、自らに対しても、同様の期待を持つ必要があります。ポジションパワーで押さえ込む改革は、受け身社会のアプローチです。私たち大人に、ビジョンを共有し、自らの意志で21世紀の教育を創造する先生たちを暖かく見守り、支援する社会を創ることができるでしょうか。誰でも、初めて取り組むことで、100%上手くいくことなどありません。今、学校の先生には、次々と新しい事が求められています。大きなプレッシャーを感じて当然です。批判の目ではなく、支援の心を持ち、先生が学び成長することを見守る社会を実現する必要があります。そして、全ての大人は、これまでの成功体験を手放し、21世紀が求める力を身につける努力をする必要があります。

世界一子どもが幸せな国日本を実現するために、立場や組織の壁を越えて全ての大人が協力する社会が実現するために活動して行きたいと思います。

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