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昭和女子大学 ダイバーシティ推進機構の取り組みに思う

文部科学教育通信No.389 2016.6.13掲載

共働き社会への転換

昭和女子大学で、2014年からキャリアカレッジの学院長として女性の活躍を支援しています。安倍総理の成長戦略の施策の一つとして、2014年から女性活躍推進が本格的に動き始めました。20141月に開催されたダボス会議の基調講演で安倍総理は、女性の労働力は日本でもっとも活用されていない資源であり、日本は、女性が輝く国にならなくてはいけないと述べました。そして、オリンピックの年2020年までに、25歳から44歳の女性の就業率を73%にすることと、指導的地位に占める女性の割合を30%にすることを目標に掲げました。その後、女性活躍推進法が成立し、201641日から、労働者301人以上の企業は、女性活躍推進のための行動計画を提出することが義務付けられています。

政府による女性活躍推進の取り組みは新たらしいものではありません。しかし、現在の取り組みには、これまでとは大きな違いがあります。専業主婦が家庭を守り、男性が外で働くという社会モデルから、共働き社会に転換することを国が経済戦略の一貫として明確にしたことです。これまでであれば、企業は女性に働く機会を与え、出産後も働き続けられる制度を用意していれば十分でしたが、これからは、女性が働き続けていることや、男性同様に管理職に登用することが求められます。女性社員比率や、管理職比率等を数値目標に落とし込み、行動計画を策定し、実績を公開することが義務づけられています。同様に、女性にとって、働き続けることは選択肢の一つであった時代が終わり、誰もが働き続け、優秀なら管理職を目指すことが当然という時代が到来しました。

日本の女性の現状は奇異に映る

経済のグローバル化により、日本の女性活躍推進は世界の注目も浴びています。IMFのラガルド専務理事は、日本の女性活躍がG7並に進めば一人当たりのGDPが4%上昇し、北欧並なら8%上昇すると述べています。ゴールドマンサックスも、女性の労働力が男性並みになれば、GDPは13%上層すると予測しています。女性を経済活動に参加させることができなければ、日本の経済の先行きが厳しいというというのが世界の見方です。そんな中、女性の管理職比率が、OECD加盟国の平均の38.8%を大きく下回る現状も浮き彫りになりました。世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダー(男女平等)ギャップレポートでは、教育や健康面で平等が実現している一方、政治と経済活動におけるギャップが大きく、総合では101位という評価になっています。ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、著書「ワークシフト」の出版記念で日本に来日された際に、ビジネスの世界で高齢の女性には会うことがなかったと述べ、労働人口の半数が、「大人対大人」として意見を聞いてもらえていないとしたら、日本企業で働く人々が「意思を持った大人」に移行する妨げになると発言しています。世界から見れば、奇異に映る女性の社会進出の現状ですが、国内では慣習であり、むしろ、女性管理職比率を30%にする取り組みに違和感を覚える人の方が多いかもしれません。

古い社会モデルの中に新しい価値観が

男女雇用機会均等法とともにキャリアを歩んできた私は、複雑な心境でこの一連の動きに向き合っています。女性に機会が与えられ、女性に対する期待が高まることはとても素敵なことなのですが、現実を見ると、必ずしも女性たちにとって最良の環境が用意されている訳ではありません。これまで管理職になることを考えていなかった女性たちが、突然管理職になることを求められ、戸惑いを感じる人も少なくありません。彼女たちの上司である経営幹部や管理職の多くは、専業主婦を持つ企業戦士です。結婚・出産を抱える女性たちに、企業戦士の働き方を求めることは不可能ですが、長時間労働を止めることは容易ではありません。そんな中、男性と同じように頑張る女性たちに、「君はよく頑張る。いい仕事をしてくれるので大変助かっている」と高い評価を与える一方で、「でもうちの娘には、君みたいな働き方をしてほしくない」などと本音を漏らす上司もいるようです。

出産を終えて仕事に復帰する女性たちは増えていますが、時短の女性には、補佐的な仕事しか与えられないと多くの上司が考えています。海外では、フレックス、時短、在宅など多様な働き方が用意され、当たり前になっているのですが、日本では、まだまだ企業戦士という働き方が当たり前と考える人たちが多いです。そんな中、周囲に気を使い頑張りすぎて行き詰ってしまう女性も少なくありません。女性が男性同様に働く社会を実現するためには、男性の働き方も含めて見直しが必要になります。2006年にアメリカの女性リーダーに行ったヒヤリングで、大手コンサルティング会社でパートナーとして活躍している女性の話を伺った時の驚きが思い出されます。子育てとの両立のために彼女は在宅で勤務をしていました。上司はNYの本社にいて、チームは上海で仕事をしていると説明されました。上司とは、成果目標を握っているので、在宅でもまったく問題なくパートナーとしての機能を果たしているというのです。この話を元に考えれば、時短であっても、その枠の中で出すべき成果と役割期待を明確にすれば、補佐的な仕事ではなく、責任を持つ仕事をすることは可能なはずです。

女性の間にも不調和音が流れます。子育てなら早期退社が可能でも、独身の女性がお稽古に行くために早期退社することは否定的に受け止められ、独身の女性たちが不平等を感じるというのです。これらすべては、古い社会モデルの中に、突然、女性が働き続ける社会という新しい価値観が放り込まれ、当事者が右往左往する状態なのです。無論、2014年前から女性活躍推進に取り組んできた企業も、管理職として登用されている女性たちも存在します。子連れ出社を認めるなど、新たな発想で取り組む企業もあります。しかし、それが普通とはいえません。ダイバーシティ推進機構では、産学連携研究会を立ち上げ、このような現場の実態を把握し、企業と女性双方にWinWinとなるダイバーシティの推進に貢献していきたいと思います。

日本は今、大きな転換点に

世界第2位の経済大国に上り詰めた日本は今、大きな転換点に立っています。少子高齢化の中で持続可能な成長を実現するためには、男性も女性も同様に働ける企業に変わることが求められています。同時に、新興国が台頭する中、日本企業には、成長を続ける世界の市場に付加価値の高い新製品や新規事業の創造が求められています。前例を踏襲しない、新しいやり方に挑戦することや、イノベーションを起こす際に、多様性は欠かせません。ところが、日本の風土や文化は、画一性や調和を求める傾向が強く、多様性はイノベーションの源ではなくコストやストレスに繋がることの方が多いです。そこで、ダイバーシティ推進機構は、女性活躍推進をゴールに置くのではなく、「多様性を活かす経営でイノベーションを実現する」ことをビジョンに掲げました。イノベーションが求められる時代だからこそ、女性をはじめとする多様性を取り込める企業や社会創りが求められます。女性活躍推進に取り組む中で、さまざま困難が予測されますが、その先には明るい未来があると信じています。ぜひ、皆さんも、女性活躍推進をご支援いただきたいと思います。

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