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自分を知ることから始めるシェアド・リーダーの育成 -星美学園高等学校でのワークショップ-

文部科学教育通信No.388 2016.5.30掲載

今回は、星美学園で実施しているワークショップについてご紹介いたします。

国際社会に喜んで貢献できるシェアド・リーダーの育成

星美学園では、個々の強みを生かしつつ、諸外国との互恵的な連携を促進する人を育てるために、高校3年間を通したシェアド・リーダーシッププログラムを開発し、実施しています。

シェアド・リーダーとは、一人の優秀なリーダーのことではなく、それぞれの持ち味を活かす形でチームに貢献するリーダーのことを指しています。シェアド・リーダーに必要な力として、

  1. Intelligence(知性を磨き、活用し、正しく判断する力)
  2. Toughness(困難にも粘り強く立ち向かう精神力)
  3. Contribution(周囲を観察し、協働する力)

を掲げ、これらの力を高校3年間で培うことを目標としています。

生徒たちは、高校1年生の3月にフィリピン・韓国・香港の三カ国でフィールドワークを行いますが、フィールドワークまでの期間に、チームビルディングや対話の方法を学び、国際社会への貢献をテーマにした課題研究や多様な人と協働するための力をみがくワークなどを行います。クマヒラセキュリティ財団は、多様な人と協働するための力を身につけるためのワークショップを先生方と開発いたしました。

リーダーシップを発揮するためには、自分を知ることが大切

「それぞれの持ち味を活かして、リーダーシップを発揮してください」と言われたところで、自分がどのような人間かがわかっていないと、どうしたらいいのかわかりません。そこで、第1回ワークショップでは、まずは自分を知り、自分を定義する時間を持つことにしました。

自分を知る過程で、クラスメートとの対話を行い、多様性にも気が付いていくように設計しています。

事前課題として、「自分史」を作成しました。過去15年ほどの中で、テンションが上がった時、下がった時を記録していきます。

ワークショップ開始後の個人ワークで、「自分史」で抜き出した一番テンションが上がった時と下がった時の理由を考えます。例えば、一番テンションが上がった出来事が「水泳の大会で入賞したこと」である場合、「勝負に勝ったこと」なのか「先生や親から褒められたこと」なのか、それとも「自分の目標をクリアしたこと」が理由でテンションが上がったのかを追求します。

その後、さらに自己理解を深めるために、個性や価値観を掘り下げる質問をペアで行います。質問の例は、以下です。

  • 一番夢中になった経験は何か。なぜ夢中になったのか。
  • 頭にきた経験は何か。何が頭にきたのか。
  • 悲しかった経験は何か。なぜ悲しかったのか。
  • 仲の良い友達はどんな人か。どんなところが好きなのか。
  • チームや仲間の中で、どんな役割を果たすことが多いのか。それはなぜか。
  • 部活や学級活動で楽しい事ことは何か。どんなところが楽しいのか。
  • マイブームは何か。なぜはまっているのか。
  • 自分を動物に例えると何か。それはどうしてか。

質問をする中で、生徒同士の対話が進み、今まで知らなかった相手のことがわかると同時に、今まで意識しなかった自分のことにも気が付く時間となりました。

質問例以外に、お互いのことをより知ることができると思う質問事項を考え、質問し合う時間も設けました、海外でのフィールドワークを行う際、現地の人と対話をしながら進めるので、質問を考えて対話を続ける力を養うことも大切です。

ひとしきり質問をしあった後は、自分を定義するワークを行いました。

まずは、先ほどの対話を通してわかったペアのことについてシートに記入します。対話をする前には書けなかったことが書けるようになったとの声もありました。

  • ペアが好きなこと
  • ペアが得意なこと
  • ペアが大切にしている価値観
  • ペアの魅力

記入が済んだらシートをペアと交換し、ペアから見た自分を知ります。どうしてそう思ったのかを質問し合い、理解を深めます。

ペアから見た自分を知った後は、自分で自分の好きなこと、得意なこと、大切にしている価値観、魅力を言語化します。ペアからの意見との相違点を知ることで、他者から見た自分と自分自身で思っている自分に差があることにも気が付きました。自分では「他の人からもこう思われているだろう」と思っていたことが、そうではない事実を知る機会でした。

最後に、「自分は〇〇〇〇〇」という表現を考え、自分を定義します。その際、自分からこの要素がなくなると自分でなくなることを意識しました。

身近な多様性を知ること

第2回ワークショップでは、メンタルモデルを理解することで身近な多様性を知る時間を持ちました。

最初に、みんなで同じ動画を見ます。今回は、アメリカの都市部に住む10代の女の子がインドに初めて訪れた時の6分程度のショートムービーを見ました。それぞれの生活や人々が抱えている課題の違いに焦点をあてた動画です。

動画を見た後は、以下の問いが書かれたシートに記入します。

  1. 最も印象に残ったところ
  2. そのことに関連した過去の出来事と感情の記憶
  3. そこから見えてきた大切にしている価値観

動画の感想を共有するだけでは、似たような感想になる可能性がありますが、最も印象に残ったところは、ほぼ全員異なる場面を選択しています。

次に、グループで、シートに記入したことやどうしてそう思ったのかを対話を通して共有しました。全員が同じ動画を見ても、印象に残ったことやその理由、関連する過去の出来事などは異なるということを知りました。

その後の講義では、人にはそれぞれメンタルモデル(ものの見方)があること、メンタルモデルは過去の経験や感情から生まれるので、同じ環境で学んでいる生徒たちであっても、それぞれ異なること、メンタルモデルを通して相手のことを理解しているので、対話を通して「なぜそう思うのか」「どんな価値観があるのか」を話し合うことで、お互いをより深く理解できることを学びました。

これからの3年間でシェアド・リーダーシップを磨いていく生徒たちにとって、自分を知り、多様性から学び続けることがその第一歩となったと考えています。

今回ご紹介したワークは、大人が体験しても学びがあると言えますので、ぜひ実施していただければと思います。

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