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対話を通して相互学習する方法を学ぶ -神奈川県箱根町での実践-

文部科学教育通信NO.385 2016.4.11掲載

平成27年度より、神奈川県箱根町の幼稚園、保育園、認定こども園の全5園にピースフルスクールプログラム(以下PSP)を導入しています。

PSPは子どもたちの主体性と共生する力を伸ばすプログラムですが、レッスンを実施する大人も共に学び、実際にできるようになることを目指しています。

子どもと関わる大人の学習力が高く、PSPが教えることを体現できていると効果的であるため、導入園の先生方を対象とした研修も実施しており、3月には大人の学習に関する研修を行いました。

今回はその研修で学んだ「対話を通して相互学習する方法」について紹介いたします。

 

 メンタルモデル(ものの見方)を理解する

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「対話を通して互いに学ぶために必要なスキルは何でしょうか」と聞かれた時に、どのようなことを思い浮かべますか。

相手の話を落ち着いて聴くこと、自分とは異なる意見だと思っても否定せずに最後まで話を聴いてみること、よく理解できないことを質問すること、相手の発言を自分の言葉で言い換えることなど、コミュニケーションの仕方を意識する方が多いのではないでしょうか。

きちんと聴くことや質問することも対話を深めるためには必要なことですが、より大きな効果が見込めるのはお互いのメンタルモデルを知ることです。

メンタルモデルとは、一人ひとりがもつ「世の中の人や物事に関する前提」のことで、経験・感情・思考というステップがあります。
何かを経験すると、感情が芽生えます。その感情によって、その経験をしたことを意味づけ、評価判断や価値観に影響を与えます。
例えば、「教室をきれいに掃除したら先生から褒められた」という経験をした時に、褒められて嬉しかったというポジティブな感情が芽生えると、「きれいに掃除をすることは良いことだ」という価値観ができ、掃除をきれいにしているかどうかが評価判断の軸となります。

このように、メンタルモデルは過去の経験によって形成されるのです。

そして、私たちはこのメンタルモデルに当てはめて物事を理解しようとするので、「きれいに掃除をすることは良いことだ」というメンタルモデルを持っている人は、掃除を適当にしている人に対して「だめな人だ」という評価を下します。

しかし、掃除を適当にしている人が本当にだめな人なのでしょうか。もしかしたら、今日は体調が悪くて掃除ができないのかもしれません。何か悲しいことがあって掃除どころではない可能性もあります。

メンタルモデルは、見えるものや聞こえるものを限定してしまうので、「本当はどうなのか?」「なぜ、そう思うのか?」を考えることから私たちを遠ざけてしまうことがあるのです。

対話をする時に、自分と相手のメンタルモデルを意識すると、思い込みで判断することが減り、学びを広げることができます。

 

 同じ問いについて考えることで、自分と相手のメンタルモデルを知る

研修では「PSPが、園の子どもたちの成長にどのように役立つと思いますか?」という問いをもとに、自分と他者のメンタルモデルを探求しました。

まずは、問いに対して自分の考えをポストイットに書き出していきました。このような意見が出てきました。

 

・相手を受け止められる自分になる

・相手の立場で考えられるようになる

・相手の話をきちんと聴く

・自分の意見や気持ちを伝える

・自分自身を表現する

・嫌な時は嫌だと伝えることができる

・自分の価値観を押し付けすぎない

・みんな違ってみんな良いことを知る

・お互いに認め合う

・「自分」に囚われられない

 

研修には16名の先生が参加していましたが、同じようにPSPを実践していても異なるところに価値を見出していることがわかりました。

書き出した後、どのようなことを考えているのかを園ごとのグループで話し合いました。

そして、メンタルモデルを探求するために以下の問いが書かれたシートに自分の考えを記入しました。

 

1.話し合いを通して、最も強く印象に残ったこと

2.そのことに関連した過去の経験

3.そこから見えてきた、あなたが大切にしている価値観

 

シートに記入した後、1と2についてグループで意見を共有しました。この時間で、同じ話し合いの場にいても印象に残ることは人によって異なるということ、関連した過去の経験がその印象に残ることに影響を与えていること、経験は人それぞれ異なることを知ります。

その後、3の価値観について話し合う前に、対話の方法について学びました。

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対話をする時は、「なぜ、そう思うのか?」を常に意識することが大切です。相手がその意見を持つ背景には、どのような経験があるのでしょうか。そして、その人が大切にしている価値観は何なのでしょうか。相手に共感しながら尋ねることで、思い込みを手放して、新たな視点を得ることができます。これは相手に対してだけでなく、自分自身にとっても必要な問いです。自分がこの意見を持つ背景には、どんな経験があったのか。自分が大切にしている価値観って何だろう。常に内省しながら対話をすることが重要です。相手に共感し、自分自身を振り返りながら対話すると、意見の違いという表面上のことに縛られずにすむのです。

対話の方法について学んだ後、3の自分が大切にしている価値観をポストイットに書いて、グループで共有しました。日頃から一緒に仕事をしている間柄であっても、相手がどのようなことを考えているのか、さらにはどんな価値観を持っているのかまで理解する機会はなかなかありません。研修でも、「なるほど、だからそう思っていたのね」「意見は違っても、価値観は似ているね」といった新たな発見の声があがっていました。

このような対話を繰り返すことで、自分にはなかった新たな視点を手に入れ、学びを得ることができます。そのためには、評価判断を保留にする必要があります。

つい意見が異なると「あの人と私は合わない」「理解できない」と判断してコミュニケーションをとることを止めてしまうことがあると思いますが、「なぜ、そう思うのか?」とメンタルモデルに意識を向けることで、学びの機会とすることができます。このように評価判断を保留にして相手の話を聴くことができるチームは、多様性から多くのことを学ぶことができます。自分と相手のメンタルモデルを探求する対話は、新しい価値創造へと私たちを導いてくれるのです。このことがわかっていれば、異なる意見を持つ人や自分とは違った価値観を持つ人と何かを行うことを楽しむことができるようになります。多様な意見や価値観があるほど、学ぶ機会が増えるのです。

ぜひ日常の中で対話から相互学習する機会を増やしていただけると幸いです。

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