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2030年の教育の未来シナリオ 画一的に学ぶ学校、地域とつながり学ぶ学校、社会と一緒に学ぶ学校②

文部科学教育通信No.374 2015.10.26掲載

これからの時代を人々が幸せに生きるために、「未来」を見ることで「今」に活かすことがあると考え、「未来教育会議」というプロジェクトで、二〇三〇年に起こりうる社会と教育に関するシナリオを作成しました。

シナリオ・プランニングという起こりうる未来の複数のストーリーを体系的に組み立てる手法を用いて作成したシナリオは全部で3種類になりました。

一つめが、社会と分断された学校である「二一世紀スキルを画一的に学ぶ学校」。

二つめは、地域の人口減と学校崩壊の危機感が合致し変革の力に昇華した「地域とつながり学ぶ学校」。

三つめは、学校・家庭・地域・民間によるオープンな教育を実現する「社会と一緒に学ぶ学校」です。

2015年現在の時点では、そのどれもが起こりうる世界であると考えています。

前回は、「二一世紀スキルを画一的に学ぶ学校」というシナリオを取り上げました。今回は、「地域とつながり学ぶ学校」と「社会と一緒に学ぶ学校」についてご紹介いたします。

 

地域とつながり学ぶ学校

このシナリオが描くのは、地域と学校のニーズが合致し共に力をあわせて変革に取り組む学校の未来です。

二〇三〇年、大企業中心の経済モデルに限界を感じ、地方の活性化が重要視され始めます。経済格差は進むものの、地域の自然資本を活かして起業する若者たちも増えています。このような地域での新しい動きが、都市部の企業に様々な影響を与えています。

教育改革の動向としては、二〇一八年の大学入試改革によりセンター試験が廃止され、新たに達成度テストが導入されました。二十一世紀を幸せに生きる力を育む教育への大転換を図る学習指導要領となり、知識を伝える教育から自ら考え対話し答えを導き出せる教育へのシフトが必要だという認識が広まります。教育改革は学校だけで出来るものではないため、学校と地域との連携をさらに進めようとする動きもあります。

地方の人口減の危機感と学校崩壊の危機感のニーズが合致する中で、この学校と地域の連携が急速に進むことで変化が現れています。「どのような地域を創るか」という地域づくりの理念と、地域の教育の在り方について、首長と教育長とが密接に議論を進める自治体も現れはじめ、自治体ごとに特色ある教育が行われるようになっています。

地域と学校が密接に結びつきはじめることで、学校での早期のドロップアウトと治安維持や生活保護などの社会コストなども関係づけて論じられるようになり、より効果的な対応ができる環境が整いつつあります。

教育現場では、地域のビジョンと教育の在り方の議論を成熟させた自治体を中心に、学校と地域の連携を本質的に図る動きが活発化。学校と地域をつなぐコーディネーターが存在した所はこの難しい連携を成功させています。地域との信頼関係が深まり、先生も自分が抱えている問題や生活指導やクラブ活動といった学習指導以外の時間を地域と分担できるようになり、学校での授業のレベルは向上しています。

これらの動きに伴い、価値観にも変化が生じています。教育とは、学校だけに任されるものではなく、家庭と学校と地域とでホーリスティックに行われるという考え方が広まっています。さらには、コミュニティの大人達全員が子どもと関わるべきだという意識が当たり前になりつつあります。子ども達に関わることで学び、変化が大きく現れたのは、実は大人の側で、学校と地域の連携により地域コミュニティに関わる時間が増えたことによるインパクトは、社会の様々な面において好影響をもたらしはじめました。

子どもたちも、地域の人々と関係を持って、地域の生きた課題に自ら関わる経験によって、人との生きた関係性の中で育まれ、自らが主体的に考え、未来を創りだす力を身につけつつあります。こうした環境で育った子どもたちが社会人となっていくことで、着実に硬直化した企業や社会システムの変革のエンジンとなっていきます。

 

社会と一緒に学ぶ学校

このシナリオが描くのは、学校・家庭・地域・民間によるオープンな教育を実践する学校の未来です。

二〇三〇年、グローバルでは「経済成長」と「持続可能性」の両立が企業存続の至上命題となっており、不確実かつ複雑な社会の中でイノベーションを起こすための「人づくり」として「二一世紀スキル」の重要性が強く叫ばれています。

企業の採用基準は学歴主義から脱却し、一人ひとりの個性や自ら答えを生みだす力を重視し、企業内の人材マネジメントも管理型から主体性を尊重する方向にシフトしています。

優秀な労働力を持続的に確保するため、人材の流動化や柔軟なワークスタイルを進め、多様な働き方が出現し、就社・単線のキャリアパスといった職業観は弱まり、必要なスキルを身につけ自分を活かせる仕事の機会を積極的に得るといった複線のキャリアパスが当たり前になってきています。

そうした企業の価値観の変化も後押しし、「学校、地域、文科省、教育委員会、企業のHR部門、大学研究機関、教育産業が一体となって、未来に求める人材像や生涯を通じた人の育ち方を、共に考える場」が生まれています。

教育改革の動向としては、二〇一八年の大学入試改革により達成度テストが導入され、二〇二〇年以降は、新学習指導要領が現場で推進されています。導入当初は求めるスキルの要素は変わっても、「学歴・偏差値重視」という人物評価のものさしが変わらなかったため、主体的に考え行動する力を伸ばすという本来の趣旨が反映されませんでしたが、企業の求める人材要件が「二一世紀スキル」に大きくシフトしたこと等により、国民的議論が高まり、二一世紀スキルを身につけるにはそれぞれ特色ある学校で多様な選択肢が広がる「教育の自由」が重要なのだという意識が形成されつつあります。

地域と学校の連携も進み、教育目的税を導入するなどして「教育先進地域」を付加価値とする自治体が一定数出現。民間の教育プログラムへの公費助成が推進され、学校への権限付与(自由裁量の増加)もあって、公立学校での民間リソースの活用が進んでいます。結果として、教育プログラムの質の向上という良い循環構造がまわりはじめています。

学校では、教員の管掌業務が見直され、部活指導が外部化されるなど、子どもたちにとって一番良い形での選択と集中が進んでいます。教員は授業の創意工夫に多くの時間を費やせるようになり、社会人経験のある教員採用や教員の若返り等もあって、新しい教育方法が積極的に導入されています。学校+家庭+地域+民間企業による教育へと、学校のオープン化が進み、学校のビジョンの伝承や、学校を地域・民間企業がオープンにサポートしていくという仕組みは定着、機能しつつあります。

また、学校や社会からのドロップアウトは生活保護や治安維持の観点から社会コスト増につながるとの意識が高まり、ドロップアウトを未然に防ぐ、または一度ドロップアウトしても、いつでも教育を受け直す機会があることへの社会ニーズに対して、安価で「生涯教育プログラム」を受講できるシステムが整備されています。

このような背景から、「周りの人と同じであれば大丈夫」という意識から、他者との共生の中で自分の人生、生活を自ら切り拓いていかなければならないというが意識や考え方が醸成され、子どもたちは自ら行動し、リフレクションを行い、学習と成長を実現する自律的学習者となっています。

 

シナリオは全て未来を想像して作成しているので、今を考える切り口としていただけると幸いです。


 

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