skip to Main Content

ミネルバ大学 -100%アクティブ・ラーニングを提供する未来の大学-

文部教育科学通信No.379 2016.1.11掲載

複雑性・相互依存・テクノロジーの変化がキーワードとなる21世紀において、従来のインプット中心の授業ではなく、学習者が主体的に学ぶことのできる授業をデザインしている学校が増えています。

世界中から集まったクラスメイトと一緒に、四年間、世界の七つの国際都市に住みながら、現地の企業や行政機関、NPO等でのインターンを実施しているMinerva School at KGI(ミネルバ大学)という大学がアメリカにあり、100%アクティブ・ラーニングを提供している未来の大学として注目を集めています。

今回はミネルバ大学の日本での認知活動に携わっていらっしゃる山本秀樹さんにお話を伺ったのでご紹介いたします。

 

ミネルバ大学とは

 ミネルバ大学は、2014年9月にサンフランシスコで開校した全寮制の4年制総合大学です。1年目の授業は約3040%が最新のITプラットフォームを活用した反転授業形式のクラス、残りは現地の行政機関や企業、NPO等でのプロジェクト学習やインターンで行われます。

カリキュラム設計を担当したStephen Kosslyn教授は前ハーバード大学社会科学学部長で、認知科学と脳科学の分野で30年以上の研究実績があります。Kosslyn 教授は、カリキュラム設計にあたり、学部卒業生に求められる技能は、特定分野の専門知識ではなく、むしろその学生が将来どんな職業に就いても、活躍できる「学び方」だと考えました。そして、その4つの技能である、クリティカル思考、クリエイティブ思考、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力は知識のインプットではなく、継続的な実践とフィードバックによる鍛錬で習得できるとの考えに基づき、学生がこれらの技能を効果的に習得できる学習ツールの開発を依頼しました。

 

 Active Learning Formという新しい学習ツール

ミネルバ大学での授業(午前中に2コマ実施)は、全て18人以下のセミナー形式で行われます。学生は事前課題を提出した後に授業に臨みますが、授業の進行は従来の大学とは大きく異なります。

授業はActive Learning Formと呼ばれるオンラインプラットフォームを通じて行われます。この授業の特徴は、以下の特徴があります。

  1. 教師はファシリテーションに徹し、10分以上話していけない

  2. リアルのクラスでできる作業をより効率的に実施できる

  3. 全ての授業が記録され、何度でも見返すことができる

  4. 教師と学生の関係をより緊密にできる

    授業は議論を喚起するような質問から始まり、即座に全ての学生がどの主張を選択したかが共有され、スムーズにディベートに移行できます。少人数のグループワークも時間をロスすることなく、作業に移ることができます。

    さらに、教師はどの学生がどれだけ発言しているかを瞬時に把握できるため、全ての学生が参加する授業を提供できます。

    また、全ての授業が録画されており、学生一人ひとりに各授業での技能レベルをフィードバックすることができます。

    このように、Active Learning Formは従来のクラスではできなかった一人ひとりの学生の技能レベルや特徴を教師が把握し、記録された情報に基づき、教師間で共有することができます。これにより、教師は毎回の授業で学生により適切な質問を出すことができるのです。

    ツールを駆使して授業の質を向上させることで、全ての時間を学びに繋げることができていると言えます。

7つの国際都市で生活し、異文化を体感する

学生達は、事前学習やオンライン授業だけでなく、獲得した技能を実践し体得する機会を与えられます。彼らが滞在する各都市で、様々な提携団体とのプロジェクト学習や識者へのインタビュー、インターンが行われます。

サンフランシスコでは、マイクロファイナンスの会社や人権擁護団体のアクティビスト、自然科学博物館やサンフランシスコ市長室、ベンチャー・キャピタル等でのワークショップを経験し、1年生の最終プロジェクト(期末試験に代わるもの)ではWikipediaの新しいサービスを提案するというコンペティションが行われ、実際に同社の重役の前で成果発表を行いました。こうした授業は2年生以後、各滞在都市(ベルリン・ブエノスアイレス・ソウル・バンガロール・イスタンブール・ロンドン)で実施され、学生はプロジェクトに加え、それぞれの地域での働き方や文化の違いに柔軟に対応しながら成果を出す方法を体得します。

 

 多様性を確保するための仕組み

21世紀を幸せに生きるためには、多様性を尊重し、そこから学ぶことが必要です。

ミネルバ大学は学生が4つの技能を獲得する上で、国際性と多様性のある環境を重視しています。ある環境でとても有効である方法が別の環境では全く逆効果であるような体験をすること、異なる思想の下で育った者同士が同じ寮に住み、授業だけでなく生活を共にすることで、お互いの違いを乗り越える努力を継続する力を身につけることができると考えています。
キャンパスを持たず、最先端の施設を持つ機関と提携し、「学生に最良の機会」を提供するミネルバ大学の運営方針は、学校運営費を大幅に圧縮でき、学費を主な米国の私立大学の1/4程度である10,000ドル(約120万円)を実現し、多くの所得階層の学生が過度の学生ローンを負担することなく、就学することを可能にしました。

また、従来の米国の大学ではほとんど実施されていない、親の経済状況に応じた授業料全額免除制度を米国籍に限らず、留学生にも適用しています。さらに、入学審査を無料にし、SATや事前課題エッセイを採用しないことで、多様な国からの学生に受験機会を与えています。一切の枠(国籍、性別、人種他)を廃止し、試験を受けるための制約を低くしています。

入学審査は厳しく、2015年は世界160ヶ国から11,000名以上の受験者がおり、220名が合格、111名の第二期生が入学しましたが、これらの施策の結果、一期生と合わせた全学生の78%が米国籍以外の学生で、30ヶ国の出身という多様性を実現しています。

 

キャリアではなくプロフェッショナルとしての成長を

ミネルバ大学には高校時代に優秀な成績を収めているだけでなく、積極的に地域コミュニティに貢献してきた学生が少なくありません。各学生は、3~4年生の多くの時間を自分の卒業プロジェクトに費やします。学習メンターは、どのような職業に就いてもリーダーとしての役割を果たせるよう、様々なパブリックスピーキングの機会や地域コミュニティへの貢献を始めとする活動を自ら企画することを奨励します。

ミネルバ大学の一期生はこの夏、アショカ財団、MITメディアラボ、UBERといった各分野の最先端の研究機関、NPOや企業でインターンを行いました。

ミネルバ大学は、一期生の卒業後の進路について、欧米の様々な機関からアイドバイザーとして参画したい旨の打診を受けており、ミネルバ大学の教育方針に賛同する機関はますます増えていくと思います。

 

日本の大学教育への示唆

ミネルバ大学は、21世紀の社会に合った実学重視のカリキュラムのあり方、効率的な大学運営方法、グローバルレベルで起きている人材獲得競争という様々な観点で、日本の大学に参考になる点があると思います。

“93%の学部卒業生の雇用主が、学生がどんな学位を取得しているかよりも、複雑な問題をクリアできる素養である、クリティカル思考力と効果的なコミュニケーションを駆使し、人々を動かすことができる技能の方が重要だと考えている”という米国での調査結果は、日本でも外れていないと思います。

また、変化が早く、見通しを立てにくい国際社会の中で、独特の文化を発信していくこと、より緊密に繋がった周辺国や人の移動の低コスト化による異文化の相互理解の促進は、日本にとって2020年までの重要課題です。本記事が様々な教育分野の皆様の参考になれば幸いです。


Back To Top