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日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み  佐賀県武雄市武内小学校 授業の様子

文部科学教育通信NO.351 2014.11.10掲載

第9回より連載している「日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み」でも取り上げていますが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

2014年度より、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてプログラムの導入がスタートいたしました。今回は、10月29日に実施した第4回授業「批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう))」をご紹介いたします。

 

ピースフルスクールの授業を実施する背景

2014年度、武内小学校では、「共生、協働」というコミュニケーション力やチームワークを向上するユニットと、「感情、共感」という自分の感情を認め、相手への共感力を高めるユニットを実施対象とし、以下の授業を予定しています。

  1. 自分の意見を持つ(意見は人と違っていても良い)

  2. 相手の話をきちんと聞こう

  3. 自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)

  4. 批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

  5. ほめ言葉 と けなし言葉(ほめ言葉を使って居心地の良いクラスをつくろう)

  6. 怒りをコントロールしよう

  7. 助ける と おせっかい の違い

  8. 意見をきちんと伝える、理解する

  9. ルール と 約束 の違い

第4回の授業テーマは「批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)」です。この授業を実施することに決めた理由は、学校での様々なシーンで、子ども同士が批判やけなし言葉を言い合うのではなく、アドバイスやほめ言葉を伝えあえるようになるためです。そうすると、子どもたち自身で安心安全な環境をつくることができます。

先生方のお話を伺っていると、子どもが自己防衛するために、誰かの失敗や良くない行動を批判したり、けなしたりすることがあるそうです。特に武内小学校ではスマイル学習(反転授業)を導入しているので、子ども同士の共同学習(学び合い)がさかんです。クラスの中には、理解が早く問題をすぐに解き終わる子どももいれば、時間のかかる子どももいるので、そのような時に、時間のかかる子どもを批判したり、けなしたりするのではなく、お互いに応援したり、サポートできるようになってほしいという先生方の願いがあり、今回の授業実施に至りました。ピースフルスクールの授業と日々の実践を通して、子ども同士がさらに協力し、ポジティブな話し合いが活発化すると、スマイル学習の効果も高まることを期待しています。

 

批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

この授業のねらいは、批判やけなし言葉といったネガティブな表現でクラスの雰囲気や子ども同士の関係性が悪くなることを改善し、ポジティブで安全な環境を子どもたち自身でつくるところにあります。安心安全な環境の中でこそ、子どもたちは様々なことにチャレンジできるので、自己効力感や自己肯定感が向上します。また、それぞれの多様性を尊重し、共生できる心を育てます。

授業の流れは、以下の通りです。

  1. 挨拶、授業の流れの確認

  2. 前回の授業の復習

  3. 導入(サルとトラの劇)

  4. サルとトラへのアドバイスを考える

  5. 体験活動

  6. 振り返り

ピースフルスクールの授業では、必ずその時間に何を行うのかといった授業の流れを最初に共有します。そうすることで、子どもたちは、次に何をやるのかを意識しながら授業に臨むことができます。

授業の冒頭では、必ず前回の授業の復習を行い、授業で学んだことを日常生活で実践したかどうかを確認します。前回の授業は「自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)」でしたが、約半数の児童が実施したと答えていました。

授業の導入では、トラとサルのパペットを用いて劇を行います。ピースフルスクールの教師用マニュアルには、サルがトラを「シマウマみたいだね!」とからかい、トラが嫌なきもちになるという劇を掲載していますが、今回はこの劇を実際に学校で起きている問題を題材として実施しました。現在、武内小学校では週4回朝の15分間を使って「花まるタイム」を実施しています。この時間では、先生が提示した立体図形と同じ立体を木のキューブを使って作ったり、100ます計算などの反復学習を全員で行っています。この花まるタイムで行うキューブを用いた立体づくりを劇の題材としました。サルとトラがキューブを使って立体をつくろうとします。サルはすぐにできてしまい、奮闘しているトラに対して批判やけなし言葉を言い、挙句の果てにはトラのキューブを奪い、勝手に仕上げてしまいます。子どもたちには、トラがどんな気持ちになっているかを答えてもらいます。「かなしい」「ばかにされた気分」「楽しくない」といった答えがあがりました。次に、トラがその気持ちになっている原因となったサルの発言を発表してもらいます。「おそいなあ。」「ばかだなあ。」「へたくそ!」「僕がやってあげるよ!」といった発言があがりました。子どもたちには、これらのサルの発言を「けなし言葉」や「批判」といったネガティブな言葉であると伝えます。このような発言をすると、言われた相手は嫌な気持ちになるし、場の雰囲気が悪くなることを理解します。

次に、子どもたちにサルに対するアドバイスを考えてもらいます。トラが嫌なきもちにならず、頑張って立体をつくることができるよう、ポジティブな声掛けをするのです。子どもたちからは、「がんばれ!」「もう少しだよ!」「ヒントをあげようか?」「あせらなくていいよ。」といった発言がありました。この発言を受けて、再度サルとトラの劇を行います。今度は、サルはトラに対してポジティブなメッセージを伝え、トラはやる気がみなぎり、一人で立体を完成できました。

このように、子どもたちにとって身近に困っている題材を用いて劇を行い、具体的な改善策を考えることで、この授業が自分たちにとって必要なものであるという認識を持ってもらえます。

次に、体験活動を通してより身近に起きている問題を解決する方法を学びます。今回、1~2年生は「給食をがんばって配膳しているのに、うまくいかない」、3~4年生は「大縄跳びにチャレンジしているのに、うまく飛べない」、5~6年生は「太鼓の練習をしているのに、リズムが合わない」といった、実際に子どもたちの間で起きている問題を題材としました。いずれも、先生方が「頑張っているのにうまくいかない子ども」と「批判やけなし言葉を言う子ども」役になり、ロールプレイを行います。大縄跳びの例では、「早く飛んでよ!」「のろまだなあ!」といって頑張っている子どもを焦らせ、その子が飛ぶことに失敗したら「へたくそ!」「かっこわるい!」「あなたのせいで、負けちゃうよ!」と一斉にけなします。ロールプレイを見た後、子どもたちはポジティブなアドバイスを考え、自分たちでロールプレイを実施します。このように、子どもたちにとってリアルに困っていることを題材とすることで、どのようにすれば良いのかを考えられるのです。

最後の振り返りでは「今まで、私はけなし言葉を言ったことがないと思っていましたが、お友達に言っていることがわかりました。これからは、ポジティブな声掛けをしようと思います。」といった感想があがりました。学んだことを実生活で使えるようになることが、ピースフルスクールの一番の特徴であると言えます。

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