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日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み 佐賀県武雄市武内小学校でのケース

文部科学教育通信NO.350 2014.10.27掲載

第9回「日本版ピースフルスクールプログラムの取り組み」という記事でもご紹介いたしましたが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

2014年度より、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてプログラムの導入がスタートいたしました。今回は、武内小学校での取り組みについてご紹介いたします。

 なぜピースフルスクールプログラムを導入するのか

日本でのプログラムの開発と展開をスタートした2013年に、2014年度から佐賀県武雄市の教育監及び武雄市立武内小学校の校長に就任される予定であった代田昭久先生とお話する機会があり、ピースフルスクールの魅力をお伝えいたしました。

対立を恐れることなく自分の意見を伝え、話し合いで問題を解決する力を身につけるといったプログラムの特徴に共感していただき、2014年度から代田先生が校長を務められる武雄市立武内小学校に導入することが決まりました。

武内小学校を見学した際、好奇心が旺盛で、他者と関わることを前向きに捉えている子どもが多いと感じました。異質な人や事柄を排除し、誰かをいじめるといった課題も見受けられませんでした。しかし、先生方とお話していると、各学年10人程といった少人数の限られたコミュニティのなかで、同調圧力がかかりやすく、多様化しにくいという課題があることがわかりました。人間関係が固定化しやすく、異なる意見や考えを持っていても、それを相手に伝えることが苦手である児童が多かったのです。それぞれの地域や学校ごとに抱えている課題が異なることを、改めて知る機会となりました。

そこで、ピースフルスクールプログラムを通して、同調圧力に負けず自分の意見を伝え、意見が対立した時は話し合いでより良い答えを探す力を身につけるプロジェクトがスタートしました。

 

日本でのプログラムの導入方法

オランダのピースフルスクールでは、年間35回以上のレッスンを実施しています。学校のお休み期間を除き、ほぼ毎週1レッスンは行う計算です。日本でもこのように毎週レッスンを実施できると良いのですが、既に様々な教科で網羅されている時間割の隙間を縫うことは、容易くありません。そこで、日本でプログラムを実施する場合は、全6ユニットを3年間かけて実施することにいたしました。月に最低1回のレッスンを行うと、3年間で仕上がります。毎週レッスンを行うと、それだけスキルとマインドを磨く機会が担保されるのですが、月に1回のレッスンを行うだけでは、なかなか定着させることができません。そのため、日々の生活の中で学びを実践する機会を多く設けています。子どもと先生は、日常のリアルな場面でプログラムの学びを実際に使い、実際に使える力を身につけていくことができるのです。

このように、日本版のプログラムでは最低3年で仕上がるように開発し直しています。

初年度は、安心安全なコミュニティを創る力を身につけるレッスンをまとめた「共生、協働」と、ポジティブな感情もネガティブな感情も言葉にして相手に伝え、相手の感情を理解して受け止める力を身につける「感情、共感」のユニットを行います。

2年目は、クラスや学校の意思決定に関わり、決まったことに対してコミットする責任をもつ力を育む「意思決定」と、クラスや学校で起きる問題を”子ども同士の話し合い”によって解決する「対立/問題解決」のユニットを実施します。

3年目は、自分たちの似ているところと、違うところを認識し、共生する力を養う「多様性の尊重」と、デモクラシーの知識や考えに触れ、ピースフルスクールでの学びを社会で活かすことができるようになる「民主的社会の基礎知識」を学びます。

3年目には、高学年の児童のうち、仲裁のスキルをさらに伸ばしたい児童に対して、追加のレッスンを実施することも可能です。このように、毎年繰り返しレッスンを行うことで、ピースフルスクールプログラムが学校の文化として根付くことを大切にしています。

 

2014年度、武内小学校のケース

それでは、実際に武内小学校ではどのようにレッスンを行っているのでしょうか。

日本版のプログラムには、レッスンごとの指導案付き先生用マニュアルがありますが(オランダ版には指導案はありません)、プログラムを各校に定着させ、それぞれの課題を解決するためには、レッスンを学校ごとに具体的なワークをカスタマイズする必要があります。そこで、学校で実際にレッスンを実施する先生たちと、私の財団でピースフルスクールの開発、展開を担当している者がひとつのチームとなり、レッスンを見直します。レッスンのねらいやポイントは落とさず、その学校の子どもにより響く内容に変えることが大切です。そうすることで、子どもたちの反応はより良くなり、深くレッスンを記憶するため、学びが定着するのです。

2014年度、武内小学校では、以下のレッスンを実施しています。台風の影響で一回授業ができなかったため、全9回となっています。

  1. 自分の意見を持つ(意見は人と違っていても良い)

  2. 相手の話をきちんと聞こう

  3. 自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)

  4. ほめ言葉 と けなし言葉(ほめ言葉を使って居心地の良いクラスをつくろう)

  5. 批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

  6. 怒りをコントロールしよう

  7. 助ける と おせっかい の違い

  8. 意見をきちんと伝える、理解する

  9. ルール と 約束 の違い

レッスンの順番には特徴があります。前回の学びを次のレッスンで活かす必要がある場面を設けることで、どこができていて、どこがまだできていないのかを子ども自身で振り返ることができるのです。「自分の意見を持つ」といったレッスンを行うと、その後のレッスンでもきちんと自分の意見を持ち、根拠をあわせて相手に伝えることができる子どもが増えます。このように、限られた時間の中で、多くの工夫を取り入れることで、学びを最大化できると考えています。

 

子どもたちの反応

10月半ばの時点で第3回までのレッスンが終了しています。1回目のレッスンでは、そもそも何を学ぶのだろうか、といった緊張も見られたのですが、2回、3回と回を重ねるごとに、クラスメートの前で堂々と自分の考えを発表し、相手の話をしっかりと理解し、周囲と積極的に関わる子どもたちの姿がありました。武内小学校の先生からも、「確実に子どもたちに変化が起きている」といったお言葉をいただいております。

3回目の「自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)」の授業では、以下の感想が寄せられました。

    • 自分の気持ちは、はっきりと相手に伝えたいです。

    • いやなことがあれば、ほかの人にわるぐちを言わずに、ゆうきをだして、「それはいやだから、やめて」と言おうと思いました。

    • 人の気持ちを大事にすることと、自分の気持ちを大事することは、どちらも大切なことだと学びました。これからは、自分の気持ちを言葉で伝えて、相手の気持ちにも耳をかたむけようと思います。

プログラムの効果を測定するために、今後も継続してレッスンと日常での取り組みを続ける予定です。

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