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未来を幸せに生きる力を身につける「ピースフルスクールプログラム」

文部科学教育通信 No.345 2014.08.11 掲載

今日、世界中で教育改革が進められています。

21世紀という’複雑”変化”相互依存性’がキーワードとなる新しい時代において、子どもたちが幸せに生きる力を身につけるために、20世紀の教育では不十分だという認識がその前提にあります。

また、いじめや不登校、学級崩壊といった問題が子どもたち・教師・保護者を取り巻いているため、学校を安心安全な環境にしようという動きも見られます。

これらの根源的なアプローチとして、クマヒラセキュリティ財団では「ピースフルスクールプログラム」というシチズンシップ教育プログラムを展開しています。

今回は、このプログラムの特徴と日本での導入事例についてご紹介いたします。

 ピースフルスクールプログラムについて

ピースフルスクールプログラムとは、子どもたちが自ら安心安全なコミュニティをつくるための教育プログラムです。建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸として、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。

このプログラムを採用している学校で学んでいる子どもたちは、自分の意見を持つこと、その意見を相手にきちんと伝えること、相手の話をよく聞くこと、自分の感情を認識すること、相手の立場に立って物事を考えること、対立は意見が異なることが原因で起きるので悪いものではないと理解すること、対立をケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決すること、多様性を尊重することといった、幸せに生きるために必要な力を身につけています。誰かからの指示でしか行動できないのではなく、自分の頭で考え、答えを導き、主体的に活動することができるのです。

このプログラムは、1999年、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標に、オランダで学校教育として開発されました。当時のオランダも今の日本と同様に、学級崩壊やいじめの問題を抱えていたのです。また、オランダ国内に移民が増えたため、共存し共生する力を身につけなくてはコミュニティが崩壊してしまう危機にも直面していました。プログラムの開発者であるレオ・パウ氏は、当時のオランダは民主主義が姿を消し始めていた、と表現されています。

冒頭に記した通り、日本でもいじめや学級崩壊の問題はありますし、グローバル人材の育成やリーダーシップ、エンパシー(共感力)を身につけることの必要性がさかんに説かれています。部分的なアプローチは今までも実施されていますが、根源的かつ体系だったプログラムは存在しないと思い、オランダのプログラムを日本語に翻訳し、さらに日本の教育現場に合うように内容をローカライズしました。プログラムの内容も日本の子どもたちが学校教育で習っていないことや不得意なこと中心に開発し直しています。

プログラムの導入も特徴的です。導入前に教師のトレーニングを行います。このトレーニングでは、ピースフルスクールで子どもたちに教えることを教師が学ぶことはもちろん、子どもたちがどういう人間に育ってほしいのか、学校をどのようなコミュニティにしたいのか、どういった社会を実現したいのかといったことを何度も対話をして考えます。

このプログラムの成功の鍵は、学校文化として根付かせ、あらゆる場面で学習することにあります。そのため、教師全員がこのプログラムの本質を理解し、自らがロールモデルであり、学習者である必要があります。

現在、オランダではこのプログラムを導入する学校が増え、オランダ全土で700校以上の学校が採用しています。また、導入から10年以上経った今では、学校の文化としてこのプログラムが完全に根付いているケースが増えています。子どもたちは、単なるレッスンを受けるだけでなく、学校のあらゆる場面で学んだことを実践し、21世紀を幸せに生きる力を身につけることができるのです。

当プログラムが教えていることは、子どもだけでなく大人にとっても必要な学習であるため、今では学校教育にとどまらず、地域社会におけるコミュニティ教育としても広がりをみせており、「ピースフルコミュニティ」と呼ばれる地域コミュニティが増えています。

学校で子どもたちがこのプログラムを学び、体現できるようになると、学校以外の場所である家庭や地域の活動、登下校の道といったところでもプログラムの学びを実践します。そのため、大人もこのプログラムを学ぶことができるようにと、保護者や様々な職業に就いている大人対象のワークショップが開発されています。

日本では、学校・地域・家庭は分断して語られることが多いですが、子どもは学校だけでなく、地域や家庭でも活動しているので、一貫して学べる環境を整えることが大切であると考えます。家庭や地域社会は学校を批判するのではなく、理解して支えます。学校での子どもの成長は、家庭や地域社会に良い影響を与えます。国全体が子どもたちに大きな関心を向け、学びが循環している安心できる環境で、子どもたちは育てられるのです。

日本でもピースフルスクールプログラムの導入が始まっています。佐賀県武雄市の武内小学校での様子をご紹介します。

 日本での導入ケースについて

日本でのピースフルスクールプログラムの導入を視野に、2012年にオランダ語から日本語への翻訳を開始し、2013年には日本の学校や子どもたちに合うようにプログラムの内容を再開発いたしました。2014年度より、佐賀県武雄市の武内小学校(代田昭久校長)でプログラムの導入が開始しました。2013年以降、私立の中高などで部分的に導入したケースはあるのですが、公立の小学校への全面導入は武内小学校が初となります。

導入のきっかけは、武内小学校の校長である代田先生にピースフルスクールプログラムの目指す世界や特徴に共感していただいたことです。武雄市の小学校ではタブレットを用いた「反転授業」が行われているのですが、授業中の学び合いや話し合いを通してより効果的に学習するために、子どもたちのコミュニケーション能力を高める必要があると考えられています。子どもたち自ら、自分たちの学校をより安心安全なコミュニティにしていき、多様な人との関わり合いの中で学習し、対立や様々な問題を話し合いで解決できる力を身につけることを目標とし、年間10回のレッスンを行う予定です。

すでに3回の授業が終了しています。

第1回は、「自分の意見を持ち、相手に伝えよう」を学習目標として、意見には「賛成・反対・わからない」の3種類があること、たとえ「わからない」でも構わないので自分の意見を持つことが大切であること、お友達と意見が違ってもお友達でいることができることを学びました。

第2回は、「相手の話をよく聞こう」を学習目標として、話を聞いてもらえなかった時どんな気持ちになるのか、きちんと話を聞くときの態度はどのようなものかを学びました。

第3回は、「自分と相手の気持ちを大切にしよう」を学習目標として、自分の気持ちを言葉で表現して相手に伝えること、気持ちは変化すること、相手の気持ちを理解すること、相手が嫌な気持ちだと思ったら自分は楽しくても止めることを学びました。

武内小学校では、引き続き当プログラムのレッスンを行ってまいります。

ピースフルスクールプログラムについては、こちらのサイトでもご覧いただけます

http://peacefulschool.kumahira.org/


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