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未来教育会議 マルチステークホルダーでのシステム思考ワークショップ

文部科学教育通信 No.342 2014-6-23に掲載された教育と学習のイノベーションを探す(2)をご紹介します。

2013年6月に「未来教育会議」という、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーで考え、一緒に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトを、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に立ち上げ、2014316日にキックオフシンポジウムを実施し、250 名を超える皆さまにご参加いただきました。

同年4月15日には、政策分析ネットワークとの共催で、教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~ を開催し、200名以上の参加者が集いました。

この度、企業・行政・学校・NPO・家庭・地域の方々とともに日本の今の教育システムを理解するためにシステム思考ワークショップを開催いたしました。

今回のワークショップのゴールは、「誰かを悪者にして終わるのではなく、それぞれのセクターの立場を共有し、現在の教育システム全体を俯瞰すると同時に、なぜそのような現状となっているのかを構造的に理解する」です。

そこでの学びや気づきについて、ご紹介いたします。

 

●未来教育会議の思想

ワークショップのはじめに、未来教育会議の思想についてお話いたしました。

当プロジェクトは、以下の3点を大切に活動しています。

  1. 枝葉ではなく、根っこを考え、扱う。
    現象や出来事だけにとらわれるのではなく、システムレベルの変容にチャレンジします。

  2. 自己の変容。主体的に関わり、挑戦し、行動する。
    主語は「自分」、主体的に考え、主体的に行動します。決して観察者にならず、自分も変わることを恐れません。

  3. 多様性を大切にする。安心の場。
    個人の立場、組織としての立場、異なるステークホルダーの立場を行き来しながら、本当に大切なことを見出していきます。


日本の教育や社会について考えるとき、図らずも他の組織や人を責めてしまうこともあると思いますが、誰かを責めていても状況を変えることはできません。
未来教育会議では、自分もシステムの一端を担っていることを念頭に、多様性から学び、自己の変容を大切にしています。そのベースがあってこそ、未来の社会や教育の在り方を描くことができると考えています。

 

●プラウド&ソーリー

当プロジェクトの思想を共有した後、プラウド&ソーリーという手法を使って、「教育について、あなたが誇りに思うこと、申し訳なく思うことはどのようなことか」を、各ステークホルダーで考え、他のステークホルダーの人たちに共有しました。

たとえば、誇りに思うことでは以下の意見があがりました。(一部を抜粋)

・日本人のほぼ全員が教育を受けることができる
・一定レベルの学力水準を実現している
・子どもや先生の変化に立ち会うことができる
・学校と教育産業が補完しあっている
・先生はみんな子どもたちのことを真剣に考えている

申し訳なく思うことは、以下の意見があがりました。(一部を抜粋)

・大学で学んだ内容と仕事が結びついていない
・大学合格、実績を重視してしまう
・本当にサポートすべき人にサービスを届けられていない
・限られたリソースのため、活動のスピードが限られてしまう
・現状の改善に終始してしまい、根本的革新に至っていない

このように、誇りに思い大切にしていることと、申し訳なく思っていることを正直に共有することで、普段はなかなか関わることのない異なるセクターのことを深く理解することができ、立場は異なっても、多くの人が「より良い社会と教育」をつくるために、日々活動していることが明らかになりました。

 

●ストーリーテリング

次に、各ステークホルダーから一人代表を選出し、プラウド&ソーリーでは語りきれなかった思いや考えを深堀りしていきました。
21世紀スキルといったこれからの時代に必要となる力を子どもたちに届けたいと思っても、今の構造ではすぐに届けることが難しいため常に歯がゆさが伴うとお話しされた方もいらっしゃいました。また、「生きる力」を育むことの大切さを理解している一方で、受験制度の枠内で仕事をしていることにジレンマを感じているという声もあがりました。
様々な教育プログラムが存在する今、教育の機会が増えすぎて、どのような基準で何を選択すべきか悩んでしまうという保護者の方もいらっしゃいました。
また、近頃、学校や指導の仕方、先生のマインドなどの変化を感じるといった声もありました。より良い教育を子どもたちに届けるために、積極的に新しい考えや手法を取り入れている学校や先生も増えていることも事実です。
日本の教育をより良いものにしたいという願いをもったメンバーの喜びや焦りなど、よりリアルな意見を伺うことができました。

 

●教室内スタディツアー

ストーリーテリングでより深く思いを共有した後、教室内での疑似スタディツアーを実施しました。ここでは、ステークホルダーごとのテーブルを用意し、一人代表になってもらいます。その代表以外の人は、自分が興味のある他のステークホルダーのテーブルに移動し、質問したいことを聞き、対話します。
学校と一般企業との連携について対話しているグループでは、企業側のニーズが学校教育に与える影響や、インターン制度やCSR活動について話していました。また、入社後にすぐに辞めてしまう社会人について、なぜそのような現象が起きるのかも話し合いました。
保護者のグループでは、保護者の学校への期待や、地域や家庭との連携、PTA活動について深掘りしていました。モンスターペアレントと呼ばれるのではなく、どのようにすれば学校や地域と上手に連携していくことができるのかに興味のある保護者の方が多かったです。

 

●システムシンキング

これまで、様々な観点から教育の今を探っていきました。ここからは、「現状の日本の教育について深く掘り下げたい問題だと思うこと」について、その問題がなぜ起きているのかを探るためにシステムシンキングを行いました。
一人ずつ、自分が関心のある問題を紙に書き出し、自分の関心と近い人でグループになりました。
問題だと思うことを深堀りして理解し、関連する事柄を洗い出して、つながりをシステム図で表していきます。テーマとなった問題である「教育システムと社会システムのギャップ」や「社会に出たときに必要な力を教育する仕組みがない」では、社会に出たときに求められる力がなぜ学校教育で培われないのか、どうしたら培うことができるようになるのかを追究しました。
時代の変化に対応するためのニーズの多様化がある一方で、変化への恐れや過度の負担などが要素として出てきました。また、多くのニーズが学校や教員に対する圧力となっていることもわかりました。

 

今回このようなワークショップを開催し、日本の教育の現状に何が起こっているのか、どこにアプローチすればより良い教育と社会を実現できるのかをマルチステークホルダーで考えることができました。
引き続き、未来教育会議では未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を、多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していく活動を続けてまいります。

未来教育会議:http://miraikk.jp/


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