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未来教育会議 教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~

文部科学教育通信 No.341 2014-6-9に掲載された教育と学習のイノベーションを探す(1)をご紹介します。

2013年6月に「未来教育会議」という、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーで考え、一緒に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトを、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に立ち上げ、2014316日にキックオフシンポジウムを実施し、250 名を超える皆さまにご参加いただきました。
同年4月15日には、政策分析ネットワークとの共催で、教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~ を開催し、200名以上の参加者が集いました。このシンポジウムでは、2月に未来教育会議実行委員会で訪問したオランダのピースフルスクールやスティーブジョブズスクールでの気付きや学びを共有し、参加者と日本の社会や教育の在り方を考えました。

今回はこの教育シンポジウムについてご紹介いたします。


●未来教育会議のビジョン

シンポジウムでは、オランダの教育視察報告に先立ち、未来教育会議設立の背景とビジョンについてお話しました。
未来教育会議が目指しているものは、大きく二つあります。
ひとつは、教育に携わっている様々な立場の人や活動を繋ぐプラットフォームとなることです。2008年以降、世界では教育改革が猛スピードで進んでおり、日本でも教育現場の方々だけでなく、様々な立場の方が教育に関わるようになりました。そのため、同じようなことを目指した異なる団体の活動やサービスが増え、それぞれが日々より良い結果につながるように活動を続けています。こうした現状を一歩進め、教育システム全体を大きく進化させるために、それぞれの活動や団体を繋ぐ必要があると考えています。
もうひとつは、マルチステークホルダーで共有ビジョンをつくり、そのビジョンに向かってそれぞれが活動を続けることができるようにすることです。ビジョンがあるというのは、未来の社会、未来の人、そして未来の教育の三点で語れるということです。これら三点は密に関係しているため、どれか一点だけから未来のあるべき姿を考えたとしても、一貫性を保てず、大きな変化を生むことはできません。三点のつながりを意識して共有ビジョンを打ち出すことで、新しい教育のシステムが創出されていくと考えています。

●今、日本の教育システムに何が起きているのか

未来教育会議設立の背景には、このような気付きがありました。
教育関係者、保護者、行政の方々、企業人。どなたとお話ししても、日本の教育に危機感を覚えていると感じたのが2011年のことでした。そこでわかったのは、教育に関わる全ての人は子どもたちの幸せや子どもたちにより良い教育を届けたいと願っているにもかかわらず、現実の教育は破壊的な方向に向かっているということでした。目指す社会のイメージやビジョンがバラバラであるため、対処療法での問題解決に終始し、結果的に教育現場や子どもたちに負荷が増え、システムが複雑化していることもわかりました。教育をより良くしたい、子どもたちに幸せになって欲しいと願い、良かれと思ってしていることが、先生にとっては過剰な要求となり、子どもたちからは主体性を奪う結果になっているのです。
日本の教育は教育に関わる人々が作り上げていると思っていましたが、必ずしもそうではなく、メディア、保護者、社会の声に応える形で教育は変容しています。教育は社会が作っているのです。直接に子どもたちと関わる機会のない人でも、一人ひとりにできることはありますし、やってはいけないこともある、ということに気付いたのです。そのため、社会を構築しているマルチステークホルダーと共に未来の社会と教育の在り方について考え、教育をシステムとして捉えないといけないと思い、未来教育会議を立ち上げることになりました。立ち上げて間もないプロジェクトではありますが、今後も日本の未来をより良いものにするために活動を続けてまいります。

 ●オランダの先端事例に学ぶ未来の社会と教育のあり方

オランダの教育視察報告では、次の2点を中心に具体的な事例を挙げながらお話しました。ひとつは教育に関わる社会システム、もうひとつは教育の具体的な方法論です。
まず、オランダの教育の基盤となっている「教育の自由」について説明しました。オランダでは1917年に憲法で「思想の自由、設立の自由、方法論の自由」が保障され、1970年頃から教育に対して様々な方法論を担保しようといった動きが出てきました。学習指導要領はありますが、それを逸脱しない範囲で、学校がどのような教育を行うかを決定して良いことになっているのです。
また、オランダでは学校をサポートする民間機関が多く存在していることも社会システムの特徴といえます。今日、日本の教育市場は約23兆円となっており、学校運営、補助学習(学習塾など)、教材・学校支援といった市場があります。日本、アメリカ、ヨーロッパを比較すると、日本は補助学習の市場が大半を占めています。アメリカは職能訓練や学校の運営を民間が担っているケースが多く見られます。ヨーロッパは、学校支援のマーケットに集中しています。今回オランダの学校を視察し、学校というコミュニティにおいて子どもたちは学習し、心を育み、様々なチャレンジをしていることがわかりました。日本では、勉強を学校だけでなく学習塾に頼っているケースが多いですが、オランダでは学校の時間に勉強を行っているケースがほとんどで、限られた予算をどのように使うのが一番良いかを考えているのです。
教育の具体的な方法論では、学校と地域でシチズンシップ教育を実施しているピースフルスクールと、授業を全てタブレットで行っているスティーブジョブズスクールについてお話しました。
スティーブジョブズスクールは、ITテクノロジーで発達段階の個別教育を高度にサポートしていることが特徴です。習熟度別に学習を進めるため、子ども毎に時間割を決め、異学年が同じ空間で学習しています。どの子どもも時間を持て余すことなく、自分にあったレベルの勉強に熱心に取り組んでいるのです。子どもたちはバーチャルなものとフィジカルなものから学んでいることが印象的でした。
ピースフルスクールは、建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸にした教育プログラムで、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。「自分で考える」「異なる意見を持つ者同士で対話する」「決定にコミットする」という教育において大切な三点を、学校や地域で学んでいるのです。自分の意見を相手に伝え、相手の話をしっかりと聞き、感情を理解し、合意形成している姿を見て、これらは日本の子どもにとっても必要な力だと感じました。
未来教育会議は、日本の教育が欧米の教育に比べて劣っていることを指摘したいわけではありません。日本の教育をより良いものにするため、世界の事例から学ぶ必要があることを伝えたいと考えているのです。

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