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オランダ教育視察(5) 全ての人が幸せに生きる アムステルダム市の取り組み

文部科学教育通信 No.339 2014-5-12に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(48)をご紹介します。

20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。

5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

教育の自由が保証されているオランダは、日本とは異なる教育システムを導入しています。

オランダ教育視察シリーズ第5回目である今回は、全ての人が幸せに生きるために様々な活動を行っているアムステルダム市の取り組みについて紹介いたします。

 

●オランダの教育システム

日本では、満6歳の誕生日以後における最初の41日から6年間を小学校、小学校等修了から15歳に達した日以後の最初の331日までを中学校等に就学させる義務教育が定められています。4月生まれの子どもも、早生まれと呼ばれる翌年の3月生まれの子どもも、同じタイミングで入学するなど、子どもの発達に合わせた入学の制度は取っていないと言えます。
オランダにも義務教育があり、5歳から18歳の間は義務教育を受けます。4歳のお誕生日を迎えると学校に入学して良いという案内が届き、5歳のお誕生日までに入学します。このように、どのタイミングで小学校に入学するのかを、子どもの発達にあわせて決めることができるのです。
4歳は義務教育の期間には含まれませんが、多くの子どもは4歳の誕生日を迎えると基礎学校と呼ばれる学校に入学します。また、アムステルダム市では4歳から初等教育への入学を認める新しい教育政策が施行されています。
オランダでは4歳から12歳までの期間を初等教育と呼びます。保護者は自分の子どもをどの学校に通わせるかを決めることができます。子どもたちは、初等教育の最終学年である小学6年生の時に、CITOテストと呼ばれる全国共通学力試験を受けて今後の進路を考えます。このように、日本と比較して早期のタイミングで進路が分かれていくことになります。
初等教育終了後、12歳から16もしくは18歳までの期間を中等教育と呼びます。中等教育は進路別に分かれていて、大きく3種類の進学先があります。
大学進学の準備を行う6年制のVWO(大学進学中等教育)と、5年制のHAVO(上級一般中等教育)、4年制のVMBO(職業訓練中等教育)があります。
進学の割合としては、VWOHAVOに進学する子どもが40%、VMBOに進学する子どもが60%となっています。
落ちこぼれてしまった子どもは、教育のやり直しをするか、職業訓練の道を選ぶことができますが、いずれも23歳になるまでに義務教育を終えることが求められています。
中等教育終了後は、VWOに通う子どもはWO(大学教育)に進学します。HAVOに通う子どもはHBO(上級職業教育)、VMBOに通う子どもはMBO(中等職業教育)に進みます。今までは4年間のVMBO終了後に進むMBOは必須ではなかったところ、近日MBOのレベル2までは義務教育に組み込まれました。ゆえに、子どもたちはいずれの学校に進学しても5歳から18歳の間は義務教育を受けることになります。
また、例えばHAVOからVWOに進みたいと思った場合、途中で進路を変更することもできるので、中等教育のタイミングで全てが決まってしまうわけではありません。
進学のタイミングもあくまでも目安であるため、子ども一人ひとりの発達段階に応じた進学が可能となります。それを当然とするマインドを皆が持てていることが大切であると思います。

 

全ての人が幸せに生きるためのセーフティネット

移民が多いオランダでは、オランダ語を理解できる人とそうではない人とが共存しています。学校では基本的にオランダ語で授業が行われるため、初等教育が始まる段階でオランダ語をある程度理解できていないと、授業についていけなくなる子どもが出てきてしまいます。
そのため、アムステルダム市では、教育面や言語面で恵まれない2歳から6歳までの子どもに対する早期幼児教育を行っています。近年、アムステルダム市内に住む2歳半以上の子どもを対象に、プレスクールを開始するようになりました。プレスクールは、言語面で不利な状況にある移民の子どもたちなどを対象にした入学準備のための機関として機能しています。言語の壁を早期に取り除くことで、授業についていけずに落ちこぼれたり、周囲とコミュニケーションがうまく取れずによい関係を築けなくなったり、自己肯定感が低くなる子どもを少なくすることが狙いです。
初等教育においても「Ready to Start」と呼ばれる言語面に不利な点がある子どもを対象にしたプログラムが行われています。このプログラムは言語学習に特化していて、6歳から9歳の間は学校教育内での言語学習機会をつくり、10歳から11歳の子どもは学校外や休暇中にも学習を続けられるようサポートします。初等教育から中等教育に移行する期間である12歳から13歳の間も言語学習プログラムを受けることができます。
このプログラムで子どもたちを指導する教師のための研修プログラムも存在します。教師は、効果的な言語教育を行うための研修や、保護者との連携をはかるためのコミュニケーションスキル向上の研修を受けます。
また、アムステルダム市が運営している言語学習のためのウェブサイトがあり、家庭で保護者と子どもが一緒に学習することもできるようになっています。学校でカバーできない部分は市が担うといった役割分担がうまくできていることも特徴であるといえます。
アムステルダム市にあるアムステルダム公共図書館内にも、言語学習のためのコーナーがあり、家で学習することが困難な人たちも言語学習を続けることができます。オランダ語が不得意な大人も学べる機会が保障されているのです。
このように、言語の壁を取り除くためのプログラムが複数存在しているのは、全ての人が幸せに生きることを大切にしているからであると思います。たまたま言語が理解でき、家庭が機能していて、教育の機会に恵まれた人だけが幸せになるのではなく、困難な状況に置かれている人たちも共に幸せになっていくことが大事だとされているアムステルダム市から見習うことがたくさんあるのではないでしょうか。

 

保護者との関わりを強めるための取り組み

子どもの教育を学校だけに任せるのではなく、学校が担うことの難しい部分を市が担当するといった役割分担がうまく機能していることも特徴の一つであるといえます。
アムステルダム市は、子どもの成績に影響を与える要素として、クラスサイズが8%、教師の質が43%、家庭環境が49%であると分析しています。
そのため、子どもが初等教育に通っている家庭に対して、「Active parents」と呼ばれる保護者との関わりを促すプログラムを行っています。
子どもが結果を出すためには、家庭での保護者の関心とアドバイスが大切であるとの前提のもと、学校・家庭・地域といったコミュニティが一体となって関わる必要があると考えています。
具体的には、教育上のパートナーシップを築きあげるために、保護者への情報提供を行い、密にコミュニケーションをとっています。
子どもだけでなく、その保護者や家庭にまで視野を広げてサポートすることを、学校と市が共に担っていくシステムが機能していることは、オランダの強みであるといえます。
子どもから大人まで全ての人が幸せに生きることを目標として、各部分が連携していくことは、日本にとっても必要であると思います。

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