skip to Main Content

オランダ教育視察(4) 新しい時代への教育 スティーブジョブズスクールの挑戦

文部科学教育通信 No.338 2014-4-28に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(47)をご紹介します。

 

20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。
5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

初等教育の自由度が高いオランダで、20139月に”スティーブジョブズスクール”と呼ばれる学校が7校開校しました。この学校では、授業は全てi-Padで行い、子どもたちはそれぞれの理解レベルに合わせて勉強を進めています。

オランダ教育視察シリーズ第4回目である今回は、新しい時代の教育に挑戦する”スティーブジョブズスクール”についてご紹介いたします。

  

●合言葉はEducation for a new era!

2013年9月、”スティーブジョブズスクール”と呼ばれる学校が誕生しました。アップル社の共同創設者にちなんで名づけられていますが、運営母体はO4NTというオランダの非営利団体です。オランダではこのように、リスペクトしている対象の名前を学校につけることがあります。
この学校での授業は全てi-Padで行われています。子どもたちは、教科ごとに自分の理解レベルに合ったレッスンを選択し、勉強しています。i-Padはツールであり、端末を使用する目的はその子どもにあった学習を継続することです。様々なアプリを利用することで、子どもごとのマルチプルインテリジェンスにあった学びを提供することが可能となっています。
この学校では、それぞれの子どもが教科ごとに異なるレベルのレッスンを受けているため、学年分けやクラスルーム形式での一斉授業はなく、異学年で学習を行っています。すでにその単元の学習を完了している子どもが、理解に躓いている子どもに勉強を教えるといった、学び合い、教え合いが自然と生まれています。
学校は午前7時半から午後6時半まで開いており、午前10時半から午後3時までのコアタイムを守れば、いつ登下校しても良いという制度をとっています。
カリキュラムはオランダの文部科学省が定めた58の学習目標に基づいて定められていますが、子どもたちは教師の助言を受けながら、取り組む学習目標を自ら選び、自分のペースで課題をこなしています。そのため、小学生のうちからプランニングする力を身につけることもできます。選択する権利と責任があることも学べるのです。
また、この制度を導入しているため、一斉授業で頻繁に起こる既に理解している内容のレッスンを再度受けなければならないとか、理解できないままに授業を受けるといった、子どもたちの学習意欲を下げることにつながる状況が生じません。全ての時間が子どもたちにとって学びにつながる時間として使われていることが大きな特徴です。
この学校には子どもたちの進捗を把握するシステムがあるため、教師はいつでも手元の端末から、誰がどの授業を受けているのか、問題を何問解いたのか、正解した問題と間違った問題は何か、どれぐらいの時間をかけているのかを確認することができ、それをもとに子どもたちに助言やサポートを提供しています。また、データで進捗を管理できるため、保護者との面談でもより具体的な話をすることが可能になっています。

2 スティーブジョブズスクール.jpg  1スティーブジョブズスクール.jpg

 

子どもの声を受けとめ、学校の改善に取り組む先生の姿

今回私が訪問したのは、新設の学校ではなく、従来の教育が行われていた学校にこの制度を導入したスティーブジョブズスクールでした。
なぜこの制度を導入したのか、学校の先生に質問したところ、以下の回答がありました。
学校の子どもから、「先生は僕のできないところには目を向けるけれど、できるところは見てくれない」と言われたことがあります。その時、子どもたちのペースを大切にできていないこと、一人ひとりの成長を見逃していることに気が付きました。また、私たちが教えていることは過去のものであって、これから彼らが社会に出る上で必要となってくる未来のものではないことにも気が付きました。21世紀を幸せに生きる力を学校全体で教えられていないという事実を目の当たりにしたのです。そのような状況を改善するため、それぞれの子どもに合った進度で学習を進め、できるようになったところをしっかりと認め、褒めることができる環境をつくるスティーブジョブズスクールの制度を採用することを決めました。
この先生のお話を伺い、既存の体制を批判的にとらえ、子どもたちにとってより良いプログラムや制度を躊躇せずに取り入れることの大切さを実感しました。新しいことを始めようとすると、校内や保護者からの反対にあうこともあります。しかし、本当に子どもたちにとって何が必要なのかを突き詰めて考えていくと、その時に取るべき選択肢が見えてくるのだと思いました。そして、その考えや思いをきちんと伝え、お互いに理解することで、学校のフィロソフィーや文化に同意できるようになります。
また、スティーブジョブズスクールでは個別学習をベースに授業を行っているものの、教育は知識を高めるだけでなく、人とのコミュニケーションから学ぶものが多いという考えのもと、バーチャルな方法とフィジカルな方法とをバランスよく取り入れることも大切にされていることがわかりました。一斉授業はありませんが、25人の異学年からなるホームルームはあり、コーチと呼ばれる担任もいます。体育や音楽、芸術のレッスンを選択することもでき、異学年で協働しながら授業に取り組んでいます。全ての時間をi-Padと向き合って過ごしているわけではないのです。
子どもたちにとって何が必要なのか、どうすれば必要な学びを届けることができるのか。
この問いの答えを探し続けることが先生や保護者にとって重要であると再認識しました。

  

先生の在り方、学校と家庭との連携

私が訪問したスティーブジョブズスクールでは、コーチと呼ばれる先生とパートタイムの先生がいます。コーチは25人からなるホームルームの担任を担当していて、得意な科目の先生として子どもたちと関わります。一人の先生が全ての科目を担当することはなく、算数が得意な先生は算数のレッスンで躓いている子どもをサポートします。
パートタイムの先生は13人の子どもをサポートします。それ以上の人数を担当することはなく、13人をしっかりとサポートすることをミッションとして働いています。
このように、先生によって役割が異なり、先生が無理なく安心して働くことのできる環境を整備できていることも特徴です。
また、学校と家庭の連携にも力を入れています。先生と保護者が対話を重ねることで、保護者が学校のフィロソフィーや取り組みに賛同していることも連携のベースとなっています。6週間に一度、先生と保護者、子どもで、勉強の進捗を振り返り、これからの計画を考える機会があります。その場では、子どもごとの進捗を記録しているシステムを利用します。
発達段階における個別学習の機会を担保しながら、自ら計画を立て学習を進める力を身につけられるスティーブジョブズスクールの思想を学びました。日本の学校現場にも活かすことのできるポイントがたくさんあると思います。

保存

保存

保存

Back To Top