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オランダ教育視察(2) ピースフルスクール採用校での学び

文部科学教育通信 No.335 2014-3-10に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(45)をご紹介します。



20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。

5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

第2回目である今回は、ピースフルスクール採用校であるマルクススコールを訪問した際の学びをご紹介いたします。

 

レッスンでの子どもたちの様子

211日にユトレヒトにあるマルクススコールを訪問しました。

この学校の教育方針は、以下です。

「全ての子どもたちに学ぶ意思があるという前提のもと、その力をより伸ばすための教育を行っている。社会の一員として貢献するために、集団生活の中で自分の価値と役割を見出すことができる子どもに育てる。」

ここでは、グループ7(小学5年生)のピースフルスクールのレッスンを見学させていただきました。レッスンは以下の構成で行われました。

  1. はじまりのゲーム

    子どもたちは二人組になり、質問の書かれた紙を持ちます。それぞれが質問に答えたら、二人は握手をして別れます。また新しい人とペアになり、それぞれが問いに答えます。クラスのお友達と積極的に関わることで、質問するスキル、質問に答えるスキル、人によって答えや意見が違うことを学びます。

  2. レッスンのアジェンダ共有

    子どもたちはレッスン内容や学ぶことを把握します。このアジェンダでレッスンが進むことに賛成かどうか、先生は子どもたちに確認します。

  3. レッスン

    今回のテーマは「対話を通して合意すること」でした。第45回写真.JPG
    4人グループに分かれ、「CITOテストの制度に賛成か、反対か」について、自分の意見を他のメンバーに伝え、対話を通してグループで一つの答えを出します。
    CITOテストとは全国共通学力試験のことで、オランダでは、毎年2月、政府教育評価機構CITOが小学6年生の子どもたちを対象にこのテストを実施します。テストの結果をふまえ、子どもたちは今後の進路を考えます。
    はじめに、自分の意見をまとめます。その際、先生や他のお友達の意見に左右されず、自分はどう思うのか、を大切にします。そして、その意見をグループのお友達に伝えます。伝える際は、良い・悪いだけでなく、なぜそう考えたのかという根拠となる理由も伝えます。ピースフルスクールでは、理由を伝えないと意見としてみなされません。
    私が見学していたのは、男子一人、女子三人のグループでした。その内、CITOテストに賛成であるのは男子一人と女子一人。残りの女子二人はテストに反対という意見でした。それぞれが自分の意見を伝えると、対話をはじめます。
    最初に、テストの制度に反対であるという意見を持っている女子が「せっかく長年勉強を頑張っているのに、たった一回のテストで進路を決められてしまうのはおかしいわ。緊張してしまうかもしれないし、体調が悪いことだってありえるもの。」と言いました。すると、テストに賛成であると答えた男子が、「そうだよね。僕も緊張してしまうから、テストは嫌だなと思うよ。」と言い、反対であるという意見に変えました。他の人の話を聞いて納得した場合、意見を変えることも自由です。
    10分間の対話を通して、このグループではテスト制度に反対である、という意見にまとまりました。レッスンの最後にそれぞれのグループがどの意見に落ち着いたのか、その理由はなぜかを発表します。6グループ中4グループがテスト制度に賛成、2グループが反対という意見でした。

  4. レッスンのまとめ

    子どもたちの様子をふまえて、先生が大切なポイントを共有します。意見を伝えるには根拠も伝えること、納得していないのに意見を変えることは良くないが納得したら意見を変えても良いこと、話し合いを通して合意形成できること、既存の制度やルールが本当に正しいのか考えること。これらの重要性を伝えていました。そして、子どもたちに対して、何を学んだのか、その学びをどのように活かすのか、といったリフレクションの問いも投げかけていました。

  5. おわりのゲーム

    ほめ言葉サークルというゲームでレッスンを終えます。
    まず、子どもたちは円になります。地球柄のボールを持った子どもは、クラスのお友達の素敵だと思うところを一つ発表して、そのお友達にボールを投げます。ボールをもらったお友達は、別のお友達の素敵なところを発表し、その人にボールを投げます。「いつも周りに優しく接していて素敵だと思うわ。」「走るのがとても早いのが素敵!」「色んな神様のことを大切にしていて、すごいと思うよ。」
    普段なかなか伝える機会のないことを、こういったアクティビティの中で伝えていきます。

1から5までのレッスンは約40分で終わりました。授業開始前よりも場の空気はあたたまり、子どもたちからは自信や前向きな力が伝わってきました。レッスンを見学して、子どもたちの自己肯定感や共感力が高まる理由がわかりました。

 

メディエーター(仲裁者)との対話

ピースフルスクールには、メディエーターと呼ばれる対立やけんかの仲裁を手伝う人がいます。メディエーターはグループ7、8(小学5、6年生)であることが多く、自ら立候補し、その資質が認められた場合にメディエーターとなるケースが多いです。

今回、この学校のメディエーターである子どもたちと対話する機会がありました。

先生からは、「ピースフルスクールを採用し、メディエーターという制度を導入したことで、校内の対立やけんかは大幅に減少した。今では、メディエーターが仲裁するまでに至らず、対立やけんかを子ども同士の話し合いで解決できることが多い。」と嬉しそうに報告してくれました。

仲裁をする上で難しいと感じることは何か、という質問に対して、「仲裁をすることは、対立している二人の意見をきちんと聞いて状況を把握すること、どちらかに加担するのではなくどちらの意見も尊重すること、対立している子どもが自ら解決策を導けるようにサポートすることなどが難しいが、とても勉強になる。」と一人のメディエーターが答えてくれました。また、日本でもこの制度が必要かどうかという問いに対して、「日本にもけんかやいじめがあると思うけれど、この制度を導入すると自分たちで問題を解決するようになるから、必要だと思う。」という意見を聞くこともできました。また、将来の夢は何かという質問では、人のために働きたいという理由で医者やエステティシャン、先生、といった職業があがりました。先生や保護者の望みに応えるために夢を語るのではなく、きちんと自分でなぜなりたいのか、どのような大人になりたいのかを語ることのできる子どもたちを目の前にして、子どもは幼稚な存在なのではなく、大人が幼稚な存在に仕立て上げてしまっているのだと感じました。確かにオランダと日本で異なることはたくさんありますが、オランダと日本では文化が違うから、日本の子どもたちには無理だ、といった考えは、日本人のメンタルモデル(偏見)であって、子どもたちの力を信じられていないのだと痛感しました。

今後ピースフルスクールを日本で展開する上で、今回の訪問での気付きや学びを活かしたいと考えております。

 

ピースフルスクールのウェブサイト:http://peacefulschool.kumahira.org/

 

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