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フューチャー オブ ラーニング 2013

文部科学教育通信 No.323 2013-9-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る33をご紹介します。

本年も7月30日~8月2日までハーバード教育大学院で開催されたフューチャー・オブ・ラーニング(学習の未来)研究会に参加して参りました。このプログラムは子どもたちが21世紀を幸せに生きるために何を、どこで、どのように学ぶべきかを検討する場として、2010年から毎夏、開催されており、本年度は4度目の開催となります。教育界における世界の最新トレンドが紹介されるとともに、ワークショップでは学校長、現職の教員、教育関係者を中心に活発な意見交換が行われました。本年度の参加者146名のうち84名がアメリカ国内からの参加者ですが、初年度に比べて海外からの参加者の割合が増加しています。今年度の特徴として、カナダ、オーストラリアなどの常連国に加えて、アルゼンチン、コロンビア、チリなどの中南米諸国からの参加が増加したこと、エチオピア、エジプト、セネガルなどのアフリカ諸国からの参加者があったことが挙げられます。また、参加者の内訳として、学校関係以外の教育機関や一般企業、心理学者等の割合が増加しており、学習のイノベーションへの取り組みが欧米のみならず、世界レベルで広がっていることを実感致しました。本年度の研究会も昨年同様、学習の未来に大きく影響を及ぼす 1.脳科学の発達、2.技術革命、3.グローバル化の3大テーマを中心にプログラムが組み立てられていました。

 

今回はグローバル化についてのテーマについてご紹介させていただきます。

 

●多様性の尊重と共生

移民が増えるグローバル社会において、違いをどのように定義するか、違いにどう対処するのかが学校教育において大きなテーマになっています。2011年には欧米の多くの国々で、移民の割合が人口の10%以上に達し、その割合は今もなお増加傾向です。異なった宗教、文化、価値観を持つ人々を尊重し、どのように共存していくかが今回のフーチャー・オブ・ラーニングの大きなテーマでした。

 

グローバル化と多様性の問題を考える時、以下の3つの問いが基本の設問になります。

 

  • グローバル化は、人々の自分自身や他人に対する見方にどのような影響を与えるか?
  • 人々の間のどのような多様性が民主主義において問題になるだろうか?
  • 人々の多様性を尊重しながら国家への帰属意識を創り出すために、国家は何をすればよいか?

 

一口に多様性と言っても、国や地域により問題とされる多様性の側面が異なります。また、多様性に対する考えは時代とともに変化し、20世紀の多様性の問題は、人種差別と性差別の問題に焦点が当てられてきましたが、近年は宗教が絡んだ人々の多様性が問題になっています。未知の宗教に対する無知や誤解が恐れを生み、宗教絡みの多様性の問題を取り扱うのは簡単ではありません。多くの場所で宗教に関する論議が移民の問題と混同され、あいまいになっています。

 

●フランスの「スカーフ法」

学校における移民と宗教の問題を考える代表的な例としてフランスの「スカーフ法」がとりあげられました。

フランスでは、2004年に公立学校において、イスラム教徒の生徒がヘッドスカーフを着用して登校することを禁ずる法律が公布され、法案の是非がフランス内外で論議を呼びました。この法案はイスラム教徒を特定して差別しているのではありませんが、法案を支持する人々は、「信仰は個人の問題であり、公共の場所である学校に宗教を持ち込むべきではない」と主張しています。一方で、新たに移住してきたイスラム教徒は自分の意思でヘッドスカーフ着用を望む生徒も多くいて、「人権無視!」と強く反発し、デモを起こして抗議しています。「目を覆うベールは頭を覆うベールよりも危険である」というプラカードを持ち、3色旗で作ったヘッドスカーフを頭に巻いてデモ行進するイスラム教徒の女性の写真が紹介されました。教師の中には少数ながら、法案反対派もおり、「これはイスラム教徒への人種差別ではないか、かぶりたいと自分から望む生徒を犠牲にするのか」と疑問を投げかけています。フランスの大多数の教師、教員組合が法案の推進派ですが、この背景には、フランス革命以来、200年間に亘るフランスの国是である宗教と社会の分離という原則があります。

「スカーフ法」の論争はフランス固有のものでしょうか。多様性というテーマを考える時に普遍的なことは何でしょう?この論争をディスカッションのテーマとして学校で取り上げる時に伴う時にどのようなことを考えさせる良い機会となりますか。逆に、危険性はないでしょうか。このテーマを取り扱う時にどんなスキルや情報が必要になると思いますか。

 

●グローバル人材の育成:ロス・インスティテュート

国、団体、学校レベルでグローバル人材育成の様々な試みが行われています。日本でも文部科学省が昨年度から、グローバルな舞台に積極的に挑戦し、活躍できる人材の育成のためにグローバル人材育成推進事業に取り組んでいます。

グローバル人材を育てる1つの先進的な事例としてスウェーデンのROSS Institute*1(ロス・インスティテュート)の例が紹介されました。ロス・インスティテュートは、21世紀を生きる子どもたちが新しいグローバル社会で成功するために必要なスキル・価値観・考え方を提供することを使命としています。スウェーデン・北米にグローバル人材育成のための学校を経営し、最新のリサーチ及び研修に基づいた21世紀型スキルの学習カリキュラムを子どもたちに提供しています。子どもたちは、クリティカルな思考力、創造力、異文化の尊重、グローバルな視点、リーダーシップ力、効果的な技術運用力、健康な生活、生涯学習能力を身に付け、グローバル社会の一員としての自覚を持ち、学校を巣立っていきます。また、ロス・インスティテュートは学校で実践している21世紀型学習カリキュラムを導入したいと考えている学校や自治体に対してコンサルティングを行ない、ロス・モデルの普及に励んでいます。

 

ロス・インスティテュートでは、グローバル人材育成のカリキュラムを作成するに当たり、以下の3つの点を念頭に置いています。1.グローバルコンピテンスとは何か?2.グローバルなシチズンシップをどう定義するか?3.グローバルコンピテンスとグローバルなシチズンシップを育む環境をどう作っていくか?

グローバルなシチズンシップを育むためには、グローバルな自己を認識することが大切です。グローバルな自己を認識するためには、図1のように、他者のいろいろな考えや価値観に触れて、わが身を振り返りながら自分について再び考え直すプロセス、そして、再び、エンパシー(共感力)や文化的な感受性を用いて、別の他者を理解するというサイクルが必要になってきます。自分と他者の文化やアイデンティティを考えながら、自分はどう生きるべきか?ということを見つめ直すプロセスの中にグローバルな自己認識を育てる鍵があります。

 

グローバル化が、かつてない勢いで進む中、個人のアイデンティティの追及と、多様性が共存する社会の実現、そして国家としての人材育成のあり方をどのように変えていくべきか、世界中の国々で、新たな挑戦が始まっています。我が国でも、グローバル人材育成のさまざまな取り組みが推進されています。国により、優先課題は異なりますが、世界の取り組みにも学ぶ点がたくさんあることを確信しました。

 

*1 ROSS Institute: http://rossinstitute.org/#/Resources/Adopt-the-Ross-Model/Consulting

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