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21世紀を生きる力 システム思考

「コトノバ」2013 SUMMERに掲載された21世紀を生きる力「システム思考」についてご紹介させていただきます。

システム思考とは、「学習する組織」の5つのディスプリンの一つで、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方です。「ひとつの現象を点として捉えるのでなく、全体における構成要素」として捉えます。今日、活用されている代表的な例が環境問題です。未来の地球環境について在りたい姿を描き、その実現のために何に取り組めば良いのかを明らかにすることや、現状の延長線において未来の地球はどのようになっているのかを予測するために、システム思考の考え方が活用されています。

複雑な社会に生きる子供たちの問題解決力を向上するために、欧米では、システム思考教育が始まっています。 システム思考教育の専門家リンダ・ブース・スィーニー氏は、世界が今求めているのは、21世紀を生きるために必要となる『システム・リテラシー(複雑なシステムを理解する知識・能力)』であると述べています。

●システム思考・システムダイナミックスの会議
昨年7月、米国マサチューセッツ州で開催されたシステム・シンキング・ダイナミック・モデリング・カンファレンス(Systems Thinking and Dynamic Modeling Biennial Conference)に参加しました。この会議は、システムダイナミックスの生みの親であるMITのジェイ・フォレスター教授*1、学習する組織(FIFTH DISCIPLINE)の著者ピーター・センゲ先生、ウォーターズ財団のウォーターズ氏が中心となって始めた、学校の先生たちのためのシステム思考・システムダイナミックスの勉強会です。1996年夏にスタートし、隔年に開催されています。昨年のカンファレンスでは、2年前に比べてシステム思考や21世紀の教育がより大きな動きとなり、社会全体に広がり始めているという実感を持ちました。世界中の地域や学校単位で、システム思考教育の展開が進んでいる様子が紹介されましたので、アメリカでの事例を2つご紹介します。

[事例1] システム思考による小学生の問題解決
アリゾナ州のツーソンでは、約20年前から学校教育にシステム思考やシステムダイナミックスが取り入れられています。今年は、3人の小学一年生がシステム思考を活用して問題解決を行う例が紹介されました。映像では、子供たちが校庭で遊んでいる時に、ふと発した意地悪な言葉が相手の心を傷つけ、傷ついた相手がさらにひどいことを言ってケンカになる様子が映し出されていました。この喧嘩の様子をシステム思考の自己強化型ループを用いて解説がなされましたが、この悪循環のループをどこかで断ち切らない限り、この構造はずっと続いていくことを、小学生の子どもたちは理解していました。この映像はhttp://www.watersfoundation.org/webed/mod9/mod9-3-1.htmlの First Graders solve a problemでご覧戴けます。

[事例2]ワシントン州の理科学習スタンダード
ボーイングや、マイクロソフトの本社のある米国ワシントン州では、自治体、民間企業、非営利団体による教育活動が盛んで、さまざまな新しい取り組みが進められています。2010年に改訂されたワシントン州政府発行の理科学習スタンダード*2では、システム思考が、物理学、地理・宇宙科学、生命科学などの学科と並んで理科の必須学習項目として取り入れられ、幼稚園の年長~高校生まで2学年ごとに明確なガイドラインが示されています。例えば、幼稚園の年長では、ものの「部分」と「全体」の関係を理解することから始め、高校生では、高機能なシステムモデルやシステム分析を取扱います。理科の一分野としてシステムについて学ぶことは、分野間の関係を理解したり、科学と技術と社会の間の関係を理解するために役立ちます。また、システム分析能力は科学的探究心と技術デザインの両方にとって欠かすことのできない力の一つです。

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●システム思考の活用事例
システム思考を学ぶメリットは、たくさんありますが、ここでは、代表的なシステム思考の活用例をご紹介しましょう。

  • 問題解決力
    環境問題をはじめとする複雑な社会問題の解決に、システム思考は不可欠です。2008年に起きた金融危機は、グローバル化した金融システムの一部に起きた信用不安が、世界経済に連鎖を及ぼした代表的な例です。環境問題においても、経済発展が進む中国やインドにおける自動車の普及は自動車産業の成長の機会である一方で地球環境に深刻な影響を及ぼしています。
  • ソーシャルチェンジやイノベーションを起こす力
    社会起業家の父と言われるアショカ財団の創立者であるビル・ドレイトン氏は、チェンジメーカーを育てることを使命とし、活動をしています。彼は、社会システムを変えることを提唱しています。「魚を与えるのではなく、魚釣りを教えよ」という諺は、誰もが知っていますが、ビル・ドレイトン氏が提唱するチェンジメーカーとは、釣りを教える人ではなく、漁業システムを変える人を指します。
    金融システムを変えたムハマド・ユヌス氏の事例をご紹介しましょう。バングラディッシュでマイクロクレジットと呼ばれる少額のお金を貸すグラミン銀行を始めたユヌス氏は、経済学者として貧困問題を解決したいと考えていました。調査の結果、明らかになったのは、貧困から抜け出せない人々の実態です。7ドルのお金がないために、竹細工を創る材料を買うことができず、貧困から抜け出せない多くの人々がいました。彼は銀行にお金を貸すように依頼しますが、銀行は契約書も読めない人々に、たった7ドルを貸し付けてもビジネスにならないと言い、ユヌスさんの要求を断ります。そこで、ユヌス氏は、システムを変えることを決意します。お金を貸し付ける目的は、自立の実現です。貸し付ける相手は、働く意欲のある女性たちに、契約書を交わさない代わりに女性たちに仲間を作って相互支援を行うことを約束させ、銀行にも指導に入ってもらいます。ユヌス氏が作った新たな金融システムは、現在、世界中の貧困問題の解決に生かされています。契約書もないのに、返済率が97.8%という事実には、従来の銀行システムに身を置く人たちには信じられないかもしれません。このようなシステムチェンジを起こす人々が、今、世界中に増えています。これまでの延長線では解決できない問題を解決するためにシステム思考は必須です。
  • リフレクション力
    冒頭でご紹介したアリゾナ州、ツーソンの小学校1年生3人は、「僕たちはなぜケンカをするのか」というテーマでシステム思考を活用したリフレクションを行っています。彼らは、時系列で何が起きたのかを振り返り、そこにはどのような要素があるのかを考え、その結果、一つの 悪循環のループを発見しています。そして、どこに介入すれば、このループを断ち切ることができるのかを考え、好循環のループ(相手にいい言葉を伝えると相手は気持ちが良くなり、気持ちが良くなると相手もまた良い言葉を返してくるというシステム)を発見します。システム思考を活用したリフレクションを行うことで、自己の言動をメタ認知する習慣を身に付けることができます。

●日本での私の取り組み
日本でも様々な方にシステム思考を紹介するために、次の様な取り組みを始めています。

  • 「教育の未来を創るワークショップ」
    チェンジラボと呼ばれる社会変革の手法にも、システム思考が活用されています。私たちは、この手法を使って教育の未来を創るための対話の場を持ち、今年で4年目になります。教育も、多様な教育関係者が関わる一つのシステムです。誰もが部分的な貢献をしており、部分の繋がりが全体を創り上げています。教育システムはとても大きく、全体を俯瞰できる立場にいる人は存在しませんが、日本の教育を進化させるためには、教育システムの担い手である文科省、教育委員会、学校現場、保護者、社会が繋がり、一貫性のあるシナリオを持ち、改革に取り組むことが必要です。

    ワークショップで、システム思考を活用して教育システムを分析した結果、2枚の絵が出来上がりました。最初の絵は、教師の多忙を描いています。教育課題、いじめや不登校の問題、体罰問題などすべての課題や要望が現場で働く教師のもとに集結し、教師はますます多忙をきわめ、児童生徒と接する時間や、授業準備の時間がなくなってしまう、という図です。教育を良くしたいという社会の思いや視線が多くなればなるほど、教員は児童・生徒に集中できなくなってしまいます。

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    もう一枚の絵は、『ゆとり教育→奴隷教育』と題して子どもの多忙化を描いています。ゆとり教育は失敗だったという反省から学習領域が拡大する一方で、ゆとり教育と同時に紹介された「生きる力」は、激動する時代にますます重要視されています。学力向上も、生きる力も、グローバル教育も必要と、学習領域がどんどん拡大していく中で、生徒は主体性をも要求されています。

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  • システムシンカーズカフェ
    システム思考を活用した対話の場を持つために、昨年12月から、月1回のペースで「システムシンカーズカフェ」*4というワークショップを実施しています。その背景には、21世紀を生きる子どもたちにシステム思考を身に付けて欲しいという強い願いがあります。第1回はエネルギー問題、第2回は教育問題、第3回はわかりやすい国会事故調プロジェクトをテーマとして取り上げました。

子どもたちが、21世紀を幸せに生きる教育がどうすれば実現できるのか、今後もシステム思考を活用し、真剣に考えて行きたいと思います。

*1 ジェイ・フォレスター教授  1956年にスローン大学院でシステムダイナミックスの研究を始め、子どものK-12 Education(初等・中等教育)にシステムダイナミックスとコンピューターモデリングを導入する方法を開発。幼少期からシステムダイナミックスに触れてこそ、子どもたちは、システムダイナミックスの本当のパワーを活用できると主張。

*2 ワシントン州の理科学習スタンダードhttp://www.k12.wa.us/Science/pubdocs/WAScienceStandards.pdfからご覧いただけます。

*3,4 「教育の未来を創るワークショップ」「システムシンカーズカフェ」にご興味をお持ちの方は、
一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 (TEL:03-5768-8950) office-h@kumahira.or.jpまで連絡ください。

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