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ティーチ・フォー・ジャパン フェロー研修

文部科学教育通信 No.322 2013-8-26に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る32をご紹介します。

 

先日、NPO法人ティーチ・フォー・ジャパンのネクスト・ティーチャー・プログラムで、2年間教師として国内の小・中・高に赴任しているフェローを対象とした研修を実施しました。現場で日々児童・生徒と向き合うフェローが、どのような理想を掲げ、どのような課題に挑戦しているのかをご紹介します。

 

●NPO法人ティーチ・フォー・ジャパンについて

ティーチ・フォー・ジャパンは、リーダーシップを備えた優れた教師を育成・輩出することで、すべての子ども達が、「夢中になれる力」「考える力」「チームで達成する力」などを身につけ、正解がない中で、新しい時代を切り拓くことのできる教育を目指しています。

その目標を達成するためにティーチ・フォー・ジャパンが大切にしているマインドセットは、革新的であること、学習者であること、お互いを尊重すること、可能性を信じることです。

 

●ネクスト・ティーチャー・プログラムについて

ティーチ・フォー・ジャパンのプログラム「ネクスト・ティーチャー・プログラム」は、成長意欲が高く、熱意のある若者を、フェロー(教師)として育成しています。

フェローは、様々な事情で十分な教育が受けられない児童・生徒と向き合い、指導を通して児童・生徒を導くために、国内の小・中・高に2年間赴任します。

彼らは、児童・生徒に高い期待を抱き、大きな理想を掲げます。その理想を実現するために、日々現実とのギャップを埋めるべく学習し、課題を解決し続けます。時に問題にぶつかることもありますが、諦めてしまうのではなく、児童・生徒のために何ができるのか、どうしたら少しでも理想に近づくことができるのかを、常に考えて行動します。

 

今回は、今年度からフェローとして活躍している教師達の研修の様子をお伝えします。

 

7月後半の暑い日、日本全国の学校で児童・生徒と向き合っているティーチ・フォー・ジャパンのフェローが集まりました。

このように定期的にフェローが集まる理由は、自分の立てた目標や、良いと思って実行していることが、本当に児童・生徒のためになっているのかを、フェロー同士の意見交換を通じて客観的に判断するためです。日々リフレクションをし、課題解決にチャレンジしていても、一人では思いこみや先入観を払拭することが困難ですが、こうして同じ目標に向かっている者同士でリフレクションをすると、より多くのことに気づくのです。また、異なった赴任先の仲間から違った視点での意見をもらえる利点もあります。

 

リフレクションの流れは、

  • 現在、自分が理想としている「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」のあり方は何か
  • 1学期を振り返り、現状や自分が抱えている課題は何か
  • ②で挙げた課題を解決するためには、何ができるか

です。

それぞれの過程で、フェローがどのようなことを考え、話し合っていたのかを共有します。

 

●「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」の理想的な状態は?

まずフェローは、「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」の理想的な状態を洗い出しました。

この時、必ず「自分」に関することから考えはじめます。現状がうまくいっていない場合、「周りの人」や「環境」に関することを考えてしまうことが多いのですが、まずは「自分」についてリフレクションしていきます。

「自分」についての理想状態として、

  • 課題解決思考の持てる自分
  • 生徒の話を受けとめられる自分
  • 明確な目標と評価軸を立てられる自分

といった意見があがりました。

「日々の業務に追われ、目標や目的を見失いそうになったこともあるが、理想状態と現実のギャップを認識し、そのギャップを埋めるために今何をすべきか、常に考えて行動した」というフェローもいました。

「児童・生徒」の理想的な状態として、

  • 主体的に学ぶことができる
  • 疑問を持ち、それを伝えることができる
  • 目標をもって、努力することができる
  • 成功体験を積むことができる

といった意見があがりました。

フェロー全員が、児童・生徒としっかり向き合っているからこそ出てくる意見が多かったように思います。

「同僚」に関しては、

  • 教師同士がフィードバックし合える関係
  • 教師全員が生徒の可能性を信じている
  • 安心・安全な学校づくりに励んでいる

といった意見があがりました。

教師全員がチームとなって、一人ひとりがリーダーシップを発揮することの重要性と、その実現の難しさを感じているフェローもいました。

「学校システム」の理想として、

  • 納得感のある教員研修
  • メンター制度の導入
  • 外部フィードバック制度の導入
  • 改善案を伝えることのできる公開授業

といった意見があがりました。

多くのフェローが、学校全体の児童・生徒に対する影響力を知り、どのようにしたら学校が全ての児童・生徒をサポートできるのかを考えていました。

 

●現実をクリティカルに評価し、振り返るDSC00420.JPG

理想状態を洗い出した後は、現実を見つめ直す時間をもちました。

フェローは、静かに一学期の自分や児童・生徒、周囲のことを振り返りました。

学校に入る前、どのような期待と希望を抱いていたのか。4月に初めて学校に入った時、何を見て、何を感じ、何を考えたのか。目標設定は正しかったのか。その目標を実現するために、何を行ったのか。実行したことは、本当に児童・生徒のためになっているのか。目標や理想とのギャップはどのようなものか。問題を解決するために、何ができたのか。                                      

「自分が期待していた2割ぐらいしか、生徒が 勉強できていない現実を目の当たりにした。  自信を失い、学ぶ好奇心がなく、目の前の短絡的な楽しみに向かってしまう生徒と向き合い、自分に何ができるのかと、毎日考えた。」

「8割はとれると思い作ったテストの平均点が、2割を下回り、自分が生徒のことをしっかりと理解できていなかったことに気付いた。」

「生徒達に、のびのびと学習してほしいと願っているのに、厳しく叱ってしまい、教室の空気を委縮させてしまったことがあった。教師のもつ影響力の大きさを思い知った。」

といったフェローの話を聞きました。

フェローは、理想を実現するために自分が実行していることを改めて見つめ直し、本当にそれが正しいのか、どのような効果が出ているのかを、振り返りました。

 

●同じ志をもった仲間と打ち手について話し合う

理想と現実を振り返った後は、フェロー同士ペアになり、課題を克服する適切な方法を探りました。異なる学校に勤務しているフェローですが、児童・生徒のことを思う心は皆同じです。

ある高校で指導しているフェローの話がありました。彼女は、どの生徒にも同じように高い期待をもち、しっかりと向き合うことが大切だと考えています。そのため、全ての生徒に対して同じように接していたところ、彼女の予想通りうまくいく生徒と、なかなか思っていたような成果が出ない生徒がいたと言います。なぜうまくいかないのかをリフレクションしていく中で、長期的には、彼女の掲げている目標や大事にしている価値観は間違っていないが、短期的に生徒と関わるという点において、全ての生徒に対して同じように接するのではなく、生徒ごとに効果的なアプローチの仕方があることに気づきました。その後、彼女は生徒を思い浮かべながら、それぞれに効果があるアプローチの案を出していました。

 

リフレクションを通して、目標を再確認し、現実をしっかりと見つめ、今行っている指導が本当に効果的かどうかを検証している教師を見て、教師が学習者であることが大切だということを、再認識しました。児童・生徒と向き合う教師が学び続けることで、より良い教育を児童・生徒に届けることができる、と私たちは考えています。

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