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カレッジフェア

文部科学教育通信 No.319 2013-7-8に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る29をご紹介します。

今回は、6月16日に、東京学芸大学附属高校で行われた、カレッジフェアについてお話ししたいと思います。カレッジフェアは、2010年にUSCANJというアメリカの大学の卒業生を中心とした組織が始めた取り組みで、毎年一度、20校以上の大学が集まって大学の説明会とブースごとに分かれて各校卒業生との交流会を開いています。

今年は初の取り組みとして、夏休みで帰国中の現役学部生20名を中心にプレゼンテーションを行いました。このイベントは、留学関係者や学生の間では、アイビーリーグを始めとするほとんどの著名大学の出身者と直接話ができる唯一の場として有名です。最近、東京大学などの国内の名門大学よりもハーバード大など海外の一流校へ出願する学生が増えていることが新聞などで話題になっていますが、このような流れの中、今年は500人以上の参加予約があったとのことです。

 

①留学自体に意味はない

「私は、迷っていました。留学すべきか、すべきでないか」
思いがけない一言で、説明会は幕を開けました。『日本の中高生に、留学という選択肢を』という留学生と卒業生の強い願いから生まれた説明会ですが、彼らのメッセージに一貫していたのは、留学自体に価値があるのではなく、自分が本来やりたいことに挑戦する一つの場として留学がある、ということです。20人のスピーカーにより、『日米大学の違い』、『留学の種類』、『留学への道のり』、『留学を阻む3つの壁』、『パーソナルストーリー』など親しみやすいテーマに沿って、個々の挑戦の体験が語られました。

『グローバル人材』の育成が声高に叫ばれる今日、彼らのストーリーはむしろ、「みんながそうするから」といってアメリカの大学進学を目指す学生が出てくるのを牽制するように聞こえました。彼らの話からは、留学は、自分に挑む場所や仲間を変えるだけで、自分たちは日本にいても挑戦し続けただろうという、そんな意気込みが感じられました。冒頭の「私は迷っていました」という告白は、アメリカに留学して日々挑戦する留学生が、数年前の自分たち同様に留学を迷っている会場の中高生を励ます言葉だったのです。

 

②アメリカの教育と日本の教育

アメリカの大学では、ほとんどの学部生が専攻を決めるのは2年生の終わりで、それまでは自由に哲学から経済学まで幅広い科目を学びます。リベラルアーツという教育理念に基づいて、専門性よりも総合的な人間性を涵養するための内容になっています。東京大学からブラウン大学へ編入した学生が、日米の大学教育の違いを次のようにうまく言い表していました。「『何を知っているのか』が大切な日本の大学はStudying(勉強)の場であり、『なぜそうなのか』を教授や仲間と共に考えて成長するアメリカの大学はLearning(学習)の場である。日本の大学の『一般教養』は、リベラルアーツの流れを汲んではいるものの、本質的にやっていることは中高の受験勉強と変わらない『勉強』だった」という彼の言葉が印象的でした。

また、出願手続きのセクションでは、日本の受験の学力のみによる合否判断とは全く違ったアメリカの大学入試制度が紹介されていました。日本のセンター試験にあたるSATや、英語力の証明となるTOEFL以上に、志望動機や将来の計画、自分自身についてのエッセー、卒業生とのインタビュー、課外活動の実績などが重視されます。試験一本で決める日本の入試方式は一見公平に見えますが、それだけでは計ることのできない学生個々の資質が見落とされます。米国では、このような資質を見極めるための入試システムが設計されています。日本でも『グローバル人材の育成』の旗印のもと、国際バカロレア導入や秋入学などが検討されていますが、入試制度そのものが変わらなければ、それを通過して進学する学生の質も変化しないのではないかという懸念が頭をよぎりました。

 

③英語は壁ではない

留学と聞くと、最大の障壁は英語力だと思われるかもしれません。プレゼンテーションでも、留学中に意思疎通に苦労した体験談が何度か披露されました。しかし、日本の進学校から進学した学生の話を聞いて、いわゆる『英語力』以上に根深い壁があることに気付きました。『僕の英語が通じなかった理由』というエピソードでは、ある学生が、「通じないのは、最初は英語力のせいだと思い込んでいたが、実は物事を遠回しに伝えようとする自分のコミュニケーションスタイルの問題であった」と話していました。海外の大学をはじめとする社会の各所で大切になる力は、自分の意見を正しく論理的に説明して理解してもらう力、そして自分の意見に対する批判を受けてさらに考えを高めていく力です。例えば、アメリカの学部教育は、膨大な読書課題に加えて、レポートやプレゼンテーションといった自分の考えをまとめる課題が毎週課されることで有名です。ただ暗記した知識を繰り返したところで、何の評価もつきません。課題図書や授業で学んだ知識をもとに、自分自身の考えを練り上げ、発展させ、時には教授やクラスメートと積極的に議論を買って出て、新しい見方を取り入れる。そうした日本とは異なる考え方のスタイルを身につけることが、日本からアメリカへ留学する学生にとって少なからず壁になるのかもしれません。

TOEFLのスピーキング(会話)の平均スコアが世界最低を記録している日本の英語教育ですが、カレッジフェアの会場で頼もしい光景を目にしました。ブースにいる各大学の卒業生と現役生は、しばしば参加者と英語でやりとりをしています。ここで、帰国子女でもない高校生が、決して流暢とは言えないが内容のはっきりした英語で質問をぶつけていました。聞けば、高校のネイティブの先生と一緒に英会話クラブやディベートクラブを立ち上げ、学校にあるリソースをうまく使いながら苦手なスピーキングを練習しているというのです。自力で高める工夫をしている高校生を、心から頼もしく思いました。

 

③教師の参加がほとんどない?

500名を超える参加申込みがあった今回のイベントですが、教員枠での参加が十数名に満たなかったという気になる話を耳にしました。留学には学生本人の努力や保護者の支援はもとより、推薦状、英文成績表や学校紹介文の作成など教員の全面的な協力が必要です。たとえ、学校側が方針として海外進学を打ち出しても、現時点では、限られた情報と経験をもとに必要な手続きを行う能力が教員にあるとは考えられません。学校の先生方にこそ、このようなイベントに参加して、ノウハウを収集していただきたいものだと思いました。

 

④学部生有志による企画ブラウンの熊たち.jpg

最後にもう一つ、注目すべきプロジェクトをご紹介させていただきます。今回のカレッジフェアを共催した「ブラウンの熊たち」(ブラウン大学現役学生9名)による全国7都市での学部留学説明会ツアーが先日行われました。札幌から福岡まで全国を縦断し、合計1000名に及ぶ聴衆を相手にアメリカの大学の学部進学の説明会を実施したとのことです。その留学説明会の様子が、「ブラウンの熊たち」というブログhttp://ameblo.jp/brownujapan/に掲載されていますので、ご興味のある方は、ぜひ覗いてみてください。彼らがブラウン大学における日々の学生生活を綴ったブログは、人気留学ブログとしてランキングの一位を独占し続けています。

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