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技術革新と倫理教育

文部科学教育通信 No.305 2012-12-10に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑰をご紹介します。

2012年9月に、岡山県マルチメディアフォーラム協会からの要請を受けて、「技術革新が子ども達に与える影響と倫理教育」について次のような話を致しました。

OECDは、時代を表すキーワードを、変化、複雑性、相互依存の3つで表しています。ゲーム、Wikipedia、Facebookが当たり前の時代を生きる子どもたちは、多くの時間をインターネット上で暮らし、より多くの人々と繋がり、より多くの機会を持てるようになりました。技術革新は、個人の持つ力をより大きなものにしましたが、その結果、個人は より大きな社会的責任を担う事になりました。しかし、子供たちを取り巻くこうした変化に対する対応は個人的なものとして扱われ、日本の学校教育では、インターネット利用上のマナーに関する倫理教育がなされていないのが現状です。

クマヒラセキュリティ財団では、現在、海外の民主主義や倫理の教育の研究を行っています。昨年4月に、オランダで学校視察を行った際に、画期的なシチズンシップ教育プログラム「ピースフルスクール」に出会ったことは既にお伝えしましたが、このプログラムから、小学校6年生を対象とした、オンラインでのコミュニケーションに関するレッスンの一部をご紹介し、技術革新と倫理教育の重要性について考えてみたいと思います。

● ソーシャルメディアを介したコミュニケーション

①   コミュニケーションの種類と使い分けに対する自己認識を深めるため、先生はクラス全員に対して次のような質問をします。

–       インターネットをどのように使いますか?よくアクセスするサイトは?

–       携帯電話で誰と話しますか?

–       よくメールをしますか?誰に対して、どうして、メールを使いますか?

–       手紙を書くことはありますか?誰に、どんな時に書きますか?

–       一番好きなコミュニケーション手段は何ですか?それはなぜですか?

②   メディアについて話します。

メディアは、遠くからでも多くの人に伝達が出来る手段です。例えば、新聞、ラジオ、テレビ、雑誌等がメディアです。メディアとは、メッセージを送る手段のことです。ソーシャルメディアは、他の人とオンラインで「出会う」場です。

生徒を二人一組にして、ソーシャルメディア上のコミュニケーションについてお互いに質問をさせます。

–       よくインターネットをしますか、あまりしませんか?

–       どんなサイトによくメッセージを載せますか?

–       ネット上でのハンドルネームは何ですか?

–       Facebook上でたくさんの友達がいますか?

    その後、相手についてどんなことを発見したかについてクラスでディスカッションします。

③   インターネット上では姿が見えない

ハリー・ポッターの透明マントとインターネットで匿名であることを比較します。次のように生徒に言います。

–       ハリー・ポッターの「透明マント」を知っていますか?「透明マント」で覆うと、体の一部やその他のモノが目に見えなくなります。透明になったら、あなたはどうしますか?

–       インターネット上のメッセージは匿名であることが多いです。匿名とは「どこにも名前が載っておらず、無名であること」という意味です。メッセージが誰のものか、わかりません。差出人の名前が書かれていない「匿名の」手紙のようなものです。

–       インターネット上では誰かと直接話をするのとは違います。言葉が違うし、顔が見えないために、自分の行動が行き過ぎることがあります。なぜなら、誰もそのことについて口出しせず、他の人の反応も自分には見えないからです。また、とても個人的な情報をインターネット上に乗せてしまう危険性があります。

–       だから、特に意識して、礼儀正しくソーシャルメディアを使う必要があります。

● ネットいじめと普通のいじめ

普通のいじめとネットいじめの違いについて次のような方法で学習します。

①いじめ役と犠牲者によるロールプレイを行います。

【普通のいじめ】

校庭で、実際に相手と対面します。

–       いじめ役は、「みんな、お前のことを嫌っているんだ。誰もお前のことが好きじゃないんだ。仲の良い友達ですらそういっているだ ぞ」と発言します。

–       犠牲者は、相手が、言い終わるのを待たずに、いじめ役の言ったことに反応します。

【ネットいじめ】

     相手と対面せず、インターネット上でやりとりをします。いじめ役と犠牲者は、お互いに背中を向けて席に座ります。

–        いじめ役は、犠牲者に次のような内容の悪口メールを書き、タイプした内容を口に出します。「みんなお前のことを嫌っているんだ。誰もお前のことが好きじゃないんだ。仲の良い友達ですらそういっているだぞ」

–        犠牲者は、悪口メールを受け取ったところを演じ、思った事、感じた事を口に出します。

②以上のロールプレイを行うことで、生徒は次のような違いを学びます。

–       ネットいじめでは、いじめる側は、自分のいじめ行為が相手にどんな影響を及ぼすかを解っていません。

–        匿名であることが普通のいじめと大きく違う点です。誰に、いじめられているのか解らないということは、とても恐ろしく、誰も信じられない気持ちになります。

–        ネットいじめでは、いじめる側から逃げられないという事実があります。普通のいじめは家に帰れば、終わりですが、ネットいじめは、寝室までつきまとわれるので、家ですら安全な場所ではなくなります。

–       ネットいじめのメッセージは、ずっと長い間、インターネット上に残ります。

      -       最も大きな違いは、傍観者がとても多いという事です。誰でも傍観者になれます。

③ネットいじめに対処します。

    前記のような理由から、生徒は「ネットいじめは普通のいじめよりもずっとひどい」ということを学びます。ネットいじめにあったら、以下のような方法で対処します。

      【ステッププラン】

–      ネットいじめは、無視します。

–       無視できないなら、父親、母親、兄弟、友達、学校に相談し、助けを求めます。

–       チャットルームでいじめられた場合には、管理者に報告し、相手のメッセージを削除してもらいます。

–       脅迫されたら、警察に通報します。

   傍観者は、

–        いじめられた人を助けます。

–        先生に言います。

–        一緒になっていじめてはいけません。

 

● 言論の自由の境界線について

言論の自由について次のように教えます。

「言論の自由とは、何でも自分の意見を言ったり、書いたりしてよいということです。誰でもラジオやテレビ、インターネット、新聞、本、ポスター、口頭で自分の意見を言っていいことになっています。刑務所に入れられるのではないかと心配をすることなく、自分の意見を表現できるという権利です。言論の自由はとても大切ですが、世界中どこの国でも適用されているものではありません。オランダでは、幸い適用されています。しかし、何でも自分の思い通りに言ったり書いたりしてよい訳ではなく、その自由には境界線があります。境界線とは、他の人を傷つけたり、わざと侮辱したりしてはならないということです。差別や憎しみを引き起こすことを言ってはいけません。プライバシーの侵害や、他の人についての嘘も、もちろん、言ってはいけません」

オランダでは、シチズンシップ教育の中で、言論の自由を持つ国に生きる幸せとともに、言論の自由にも境界線があるということを、小学生の時から教わります。コミュニケーションにおいて、言論の自由の境界線がどこにあるのかを学び、その上で、さらに、ネット上のコミュニケーションにおける言論の自由の境界線を学んでいます。私たち大人も、子ども同様に、ネット上のコミュニケーションにおける正しいマナーを学ぶ必要があるように思います。

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