多様性の尊重とMBTI
文部科学教育通信 No.302 2012-10-22に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑭をご紹介します。
グローバル社会になり、多様性を尊重することの重要性が盛んに謳われるようになりました。人々が、お互いの違いを尊重し、多様な人々が安心して存在することができる社会の実現を目指そうという掛け声です。一方で、工業化社会の教育は、画一性の優位性を教えこんできました。その結果、日本人の多くは、学校や社会が求める画一性的な物差しに合わせて、優劣をつける思考の習慣を身につけています。このような教育を受けた日本人にとって、実は、多様性を尊重するという概念を、深く理解することは、とても難しいことです。
私が、多様性の尊重の重要性を知ったのは、米国NY州の田舎町に留学していた16歳の時です。当時は、ソニー製品が脚光を浴び始めたころでしたが、田舎町では、中国と日本の区別もつかない人も多く、初めて見る黄色人種として子どもたちに石を投げられる日本人留学生もいました。その話を聞いて、差別はいけないと思いましたし、自分は、多様性を尊重する人になりたいと思いました。しかし、本当の意味で、多様性の尊重を理解できるようになるには、それから20年もかかりました。
グローバル時代における多様性の尊重
多様性の尊重について、日本では、2つの大きな誤解があるように思います。
「あなたは、私とはこんなに違うところがありますね。それでも、あなたの存在を認めます。」これが、多様性の尊重であると思っている多くの人々がいます。以前の私も、同様に考えていました。しかし、実は、これは、本当の意味での多様性の尊重ではありません。なぜなら、私という物差しを軸に、相手を見ているからです。多様性を尊重するためには、自分も、多様性の一部として捉え、自分と他者の違いに目を向けるのではなく、自分と他者の存在を合わせて、多様性を俯瞰して捉えることを言います。自分にとって違和感のあることは、他者からも違和感を持つことがらです。その違和感は双方向のものであり、その両者が多様性の一部なのです。
多様性を尊重するということを、他者を尊重することと考えている多くの日本人がいます。話し合いの場において、異なる意見を持っていても、その場に出さないで、他者の意見を尊重することで、調和を保とうと考える人々です。 これも、多様性の尊重としては、正しい姿ではありません。自分も主張するし、他者も主張する、そして、対話を通じて合意形成が実現できるというのが、多様性を尊重する話し合いの姿です。創造的な問題解決は、こうした対話を通してはじめて可能になるのです。南アフリカが、1991年、アパルトヘイトから民主化に移行することができたのは、そこに存在した黒人や白人のリーダーたちが、対立を超えて、お互いの存在を認め合い、南アフリカの未来についての対話を実現することができたからです。
MBTI
自分も多様性の一部であるという多様性を俯瞰的にとらえる力を身に着けるために、私が活用しているのはMBTI(マイヤーズ・ブリッグス・タイプ・インディケーター)という性格タイプを理解するツールです。MBTIは、スイスの精神科医カール・ユングの性格タイプ論をもとに米国人の親子キャサリン (親)とイザベル (娘)が開発した、全世界で最も利用されている質問紙方式の検査です。人間の多様性や物の見方や判断の仕方の違い、強みや動機、対人関係スタイルの違いを理解していただくのに大変有用かつ分かりやすいツールです。
以下、MBTIについて簡単にご紹介します。MBTIは、受験者の性格を測定して、診断したり、評価したりすることが目的ではありません。検査をきっかけに自分を見つめ直して、自分への理解を深めることや、人と人との違いを知って、他人と互いに尊重し合えるような人間関係を築いていくことが目的ですから、他人と比較したり、優劣をつけたりということはありません。どの性格タイプが優れているということもありません。占いのような当たり外れのあるものではなく、心理学類型にもとづく根拠のある分類方法です。日本では、2000年に導入されて以来、さまざまな分野での有益性が認められ、累計10万人以上の人がこの検査を受けています。また、イギリス、フランス、カナダ、韓国、中国など30以上の言語に翻訳され、世界50か国以上で活用されている国際規定に基づいた性格検査です。
MBTIは、人々の性格を、4つの指標で捉えます(『MBTIタイプ入門』(JPP,2011年)9~10頁より引用)。
(1)EI指標:どこに関心を向けることを好むのか。どこからエネルギーを得るか?
外向(E)を指向する人の特徴
・ 自分の周囲に起きていることに注意を払う
・ 話すことによるコミュニケーションをより好む
・ 話しながら考え、まとめる
内向(I)を指向する人の特徴
・ 自分の内面で起きていることに注意を払う
・ 書くことによるコミュニケーションをより好む
・ 考えを内省することでまとめる
(2)SN指標:どのように情報を取り入れることを好むか?
感覚機能(S)を指向する人の特徴
・ 現実や事実に目を向ける
・ 事実や具体的なことに焦点があう
・ 実際に起きていることに着目する
直観機能(N)を指向する人の特徴
・ これからの可能性に目を向ける
・ 想像をめぐらせ、独特な表現方法を用いる
・ データの背景パターンや意味に着目する
(3)TF指標:どのように結論を導くことを好むか?
思考機能(T)を指向する人の特徴
・ 分析的観点を重視して考える
・ 原因と結果から考える
・ 真実における客観的基準を見出すために奮闘する
感情機能(F)を指向する人の特徴
・ 共感する
・ 自分の思いが伴った価値基準から考える
・ 結論が人々にどう影響するかを考慮する
(4)JP指標:どのように外界と接することを好むか(生活やライフスタイルのあり方)
判断的態度(J)を指向とする人の特徴
・ スケジュールにそって行動する
・ 想定内で、整理された生活を好む
・ 規律正しい
知覚的態度(P)を指向とする人の特徴
・ 状況に応じて行動する
・ どちらかというと柔軟な
・ 格式ばらない
一番目の指標をもとに、現実社会に当てはめて考えてみましょう。ブレインストーミングの場で、たくさん意見を述べる外向タイプ(E)の人々は、発言量の少ない内向タイプ(I)の人々に対して、考えを持っていないのではないかと考えます。なぜなら、外交タイプ(E)の人々にとっては、話しながら考えることが当たり前だからです。一方、内向タイプ(I)の人々は、じっくり考えて、正しい言葉を見つけた時に初めて声に出すのが当たり前なので、外交タイプ(E)の人たちが、時に、自分の考えを話しながら変えていく様子に不信感を覚えたりします。このような実体験を、MBTIというレンズを通して眺めることにより、自己と他者の違いを俯瞰して捉えることが可能になります。自分も他者から見れば異質であるという視点を持つことができるようになります。
MBTIは、人と関わる職業において、他者を理解する上でとても有益です。例えば、学校の先生なら、MBTIのEI指標を知ることで、授業中の発言に関して、生徒には外向(E)と内向(I)の二つのタイプがあることを知ることができます。授業という限られた時間枠では、先生の質問に、即座に反応して答える外向タイプ(E)の生徒の発言が集まりやすく、じっくりと考えてから意見を言う内向(I)タイプの生徒の発言が置き去りにされがちです。先生は、このようなタイプの生徒の意見を共有する機会が持てているかに意識を向ける必要があります。MBTIを知ることは、多様性を尊重する教室創りを考えるうえで有益なツールとなるのではないでしょうか。