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教育の未来を創るワークショップ2012

文部科学教育通信 No.303 2012-11-12に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑧をご紹介します。

未来社会の幸せのために

教育の未来を創るワークショップを始めて今年で、3年目になります。今年も、9月16~17日の2日間、京王プラザホテル多摩で合宿を行い、28名の方にご参加いただきました。今回のワークショップのテーマは、「子どもたちが幸せに生きるために」―子どもたちが、未来の社会で幸せに生きるために、我々に何ができるのかを考えることでした。

ワークショップでは、社会変革モデル「チェンジラボ」やU理論を活用しています。「チェンジラボ」は、南アフリカのアパルトヘイトから流血なき民主化を実現する際に導入され、今日では、環境問題や紛争、人口問題、教育問題など、複雑な社会問題の解決に世界中で活用されているモデルです。「チェンジラボ」やU理論(『U理論』、C・オットー・シャーマー著、中土井僚訳、英治出版、2010年)には、数々の社会変革のプロセスを経験した先人たちの智慧が詰まっています。今年は、オーストラリア政府が、「チェンジラボ」を活用し、国のビジョン構築を推進しています。

社会変革には、多くの人々がビジョンを共有し、その実現のためにエネルギーを注ぐ必要があります。社会問題を、一つのシステムとして捉え、一部を担っている人々が、全体を俯瞰し、自分にできることを明確にすることが解決を成功させる鍵です。

教育も、多様なステイクホルダーが関わる一つのシステムです。誰もが部分的な貢献をしており、部分の繋がりが全体を創り上げています。教育を変えたいと考える時、私たちは、その一部を変えようとしますが、自分の立っている場所から全体を眺めており、多くの場合、全体像を把握してはいません。教育システムはとても大きく、全体を俯瞰できる立場にいる誰かは存在しません。教育を進化させるためには、教育システムの担い手が繋がり、一貫性のあるシナリオを持ち、改革に取り組むことが必要です。しかし、残念ながら、現在、教育システムは分断されており、決して強い繋がりをもっているとは言えません。

3年目になる今年は、システム思考で教育を捉えるチャレンジを行いました。合宿の準備として、5月に文部科学省や教育委員会の方々、校長先生、学校の先生、企業の人材育成に携わる方々、教員養成に関わる方々17名にお集りいただき、日本の教育システムを図で表しました。その後、その内容を分析し、事務局で完成させたループ図が、図①です。この図を書いたことにより、明らかになったことは、以下の通りです。

1)すべての要求や要望は、教師に向かう。図1 日本の教育システム 最終版.pngのサムネール画像
2)子どもの声は存在しない。
3)教育は、社会の要請により形創られる。

新しい教育に変わるために、教師にも変容が求められるが、変容することは教師にとって容易ではない。それは、学校は教師が変容学習のできる「安全な場」ではないからです。
社会が、教育に対して要求や批判の声をあげればあげるほど、新しい教育の導入は困難になるということです。このことを、親も社会も理解する必要があると強く感じました。図② は、先ほどのループ図を一枚の絵に描いたものであり、メディアや文科省や親からの様々なニーズが大量の雨水となって流れ込む先が、滝つぼにある学校(図②)です。そこで溺れる先生達、立ち尽くす生徒達の様子がおわかりいただけますでしょうか。

         滝つぼにある学校

②滝壺の学校.jpg

③氷山モデル 小.jpg

 

 

 

   システム思考を対話の道具に

合宿では、この教育システム図を共有し対話を通して、さらに理解を深める事が出来ました。システム思考では、出来事を氷山の一角(図③氷山モデル)と捉えます。そして、その出来事が、時系列ではどのようなパターンになっているのか? その出来事は、どのような要因により、起こっているのか? そこには、どのような構造が存在するのか?その出来事は、どのような人々の価値観やものの見方が、影響を及ぼしているのか?と、次々と問いに答えることにより、そのシステムの全容を明らかにするという思考法です。教育システムの全容を明らかにし、自分が取り組んでいることが、全体のシステムの中で、どのような役割を果たしているのかを再認識する事が出来ます。よかれと思って行っていることが、時には、システムには、マイナスの働きかけをしていると気付く事も有ります。教育を良くしたいという思いから、教育批判を行うことで、教師の変容学習が妨げられている現状は、この例です。

さまざまなループ図を創った結果をグラフィックにしたのが、図④です。タイトルは、ゆとり教育から奴隷教育へ!?という過激なものです。誰が奴隷かというと、教育に関わるすべての人々が、教育システムの奴隷になっているという意味です。ゆとり教育の失敗によって、学力向上が学校現場における最優先課題となりましたが、もともと、ゆとり教育が導入された背景には、新しい時代を幸福に「生きる力」を育てるという教育ニーズがあったはずです。このニーズが消滅したわけではありません。むしろ、時代の変化は、ますます加速しており、新しい教育のニーズは大きくなっています。学力向上も、生きる力も、グローバル教育も必要と、学習領域がどんどん拡大していく中で、生徒は主体性を身につけなければなりません。

④ゆとり教育→奴隷教育 小.jpg

今後も継続的に分科会を開催し、教育のシステムを考えていきたいと思います。

<連絡先>教育の未来を創る会 熊平美香、mkumahira@a-kumahira.co.jp

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