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次世代の青年が世界で生き抜く力

文部科学教育通信 No.295 2012-7-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑨をご紹介します。

 

5月31日に日本ギャップイヤー推進機構協会(JGAP)主催のセミナーで「次世代の青年が世界で生き抜くための教育力」をテーマに講演を行いました。大学生や社会人、教育関係者の方々100名程度の方々にご参加いただきました。今回は、講演会でお話しした内容をご紹介したいと思います。

 

講演の初めはこれまでの大学に期待されてきたことをお話しさせていただきました。

これまでの大学への期待

2010年7月に、慶応大学でリアル熟議が行われ、参加致しました。「大学は、もういらない?~私たちと大学はいかにあるべきか~」をテーマに、大学生、高校生、経営者、企業人事担当者などにより討議が行われました。「受験」「大学生活」「就活」の3つのグループに分かれて話し合いが持たれ、私はそのうちの「大学生活」のグループに参加しました。

そこで明らかになった学生の声とは、「大学は、優良企業に就職するための資格を取得し、人生におけるモラトリアム期間を過ごす場所」であり、「大講堂の授業には、意義を感じていないが、さまざまな活動に参加して、授業以外のところで十分充実感を味わっているので、特に問題だと感じていない」ということでした。これは、これまでの高等教育に対する学生の期待であり、その前提には、卒業後は、終身雇用を前提に大企業に就職することが、幸福を保障するという社会がありました。

 

これからの大学への期待

今後、同様の安定した社会は続かないであろうという認識の下、高等教育に対して新たな期待が広がっています。学生や親は、複雑で変化の激しいグローバル社会において、幸せな人生を生きる力を身に着ける教育を求めています。企業や社会も、持続可能な社会の発展を実現する人材を求めています。

2010年3月に、ハーバード大学のファウスト学長が、来日し、レセプションが開かれました。学生の質問に答えて、ハーバード大学の使命は、意義のある人生を生きるための「道具」を提供することとおっしゃっていたのが印象的です。

新しい時代が求める教育とは何かを、より具体的にご紹介しましょう。

 

脱工業化社会

一つ目のキーワードは、「脱工業化社会」です。日本の教育は、運動会をはじめとする団体行動を訓練し、先生の話を聞く素直な子を育て、工業化時代に、効率と画一性に貢献する人材を育ててきました。日本人の情報処理能力の高さは、日本製品の品質向上に寄与しました。しかし、脱工業化社会においては、新たな力が必要になります。組織は、フラット化し、上司の指示に従う人材ではなく、自ら考え、行動する力が求められます。生産性に加えて、創造性がより重要になります。発想する力を持つ人材が求められます。

 

「変化」「複雑」「相互依存」

今、世界中の教育が変わろうとしています。その大きな流れを作ったのは、2002年に発表されたOECDのキーコンピタンシーです。OECDは、これからの時代を、変化、複雑、相互依存という3つのキーワードで表し、求められる力をキーコンピタンシーとして定義しました。残念ながら、これまでの教育では、その力を身に着けることができません。

 

●変化&スピード

業務のIT化により、単純な情報伝達や情報処理は、すべてコンピューターにとって代わられるようになります。書類を届ける仕事や、会議の日程調整など、かつて人が行っていた仕事は、IT化されてしまいました。その結果、人には、より高度な情報処理能力が求められます。インターネット、ツイッター、フェイスブックと次々に生まれる新しい技術を使いこなせなければなりません。そして、この技術革新をけん引するイノベーションを起こすことが求められています。

 

●複雑

専門化がますます進む一方で、問題を解決するために、専門性を超えた知の融合が求められています。ハーバードビジネススクールでも、最近では、発展途上国の医療問題などに取り組んでいます。しかし、この領域において問題解決に取り組むためには、ビジネススクールの専門性のみならず、発展途上国の開発を専門とするケネディースクールや、メディカルスクールの力が必要になります。専門性を極めるとともに、知を融合させるコミュニケーション力、創造的問題解決力が求められるようになっています。

 

●相互依存

持続可能な経済成長も、環境問題の解決も、日本の力だけでは解決できません。地球を一つのシステムととらえて問題解決にあたるシステム思考や、国境を越えたリーダーシップが求められるようになっています。ブリックスに続く、ネクストイレブン(N-11)、一日2ドル以下で暮らす地球の半数にあたる30億人の人々も、今日では、経済活動に参画する時代になりました。文化、宗教、生活習慣、言葉の異なる人々と働くことが当たり前の世の中になってきています。

 

リーダーシップ

●リスクをとる
知り合いのベンチャーキャピタリストは、ここ数年、革新的な技術を日本企業に紹介してこられましたが、会議にたくさんの人が参加し、何度も打ち合わせを繰り返した後で、最後に、実績がないという理由から契約に進まないそうです。仕方なく隣の韓国に同じ技術を持っていくと、「まだ誰もやっていないのですね。」と、技術の新規性が意思決定の理由になります。リスクをとるリーダーがこれからは求められます。

 

●大きな目標を実現する
大きな目標を実現するために、創造的に問題を解決する必要があります。

だれもが、不可能であることを実現するのですから、これまでの発想の延長線に答えはないからです。大きな目標には、大きな壁があります。小さな目標を達成することで満足するのではなく、大きな壁を乗り越えて創造的に問題解決を行う能力を備えたリーダーが求められます。

 

●不確実な時代のリーダー
不確実な時代の手本として、2008年10月に、ハーバードビジネススクール100周年で聴いたGEのイメルト会長のメッセージを紹介します。

「911、リーマンショックと次々に予想外の出来事が起き、頭を抱えました。32万人の社員の前に、『私はどうすればよいかわからない』と言うわけにはいきません。そこで、『決断して、行動して、間違ったら、軌道修正すればよい』と決心しました。毎晩今日行ったことを反省しますが、翌朝には、自信満々の自分になります」

不確実な時代は、決断し、行動し、失敗を認める勇気を持ち、日々自分を振り返り、反省はするものの、決して自信を失わないポジティブなリーダーを求めています。

 

アントレプレナーシップ

閉塞感を打破するために、アントレプレナーの出現が不可欠です。

スティーブジョブスのスタンフォード大学の卒業式でのスピーチに感動された方も多いと思います。スピーチの最後に、彼が卒業生に伝えたのが、ステイハングリー、ステイフーリッシュという言葉です。これは、まさにアントレプレナーの心得であり、日本にも、かつては、本田宗一郎氏、盛田昭夫氏、井深大氏のようにステイフーリッシュ、ステイハングリーを体現した先輩たちがいます。日本人は、アントレプレナーに向かないという人もいますが、それは間違いです。時代は、アントレプレナーを求めています。

このような心得を持った人材がこれからの時代には必要です。

 

高等教育に取り組む皆さんと一緒に、新しい時代が求める若者、不確実な時代においても、幸福に生きる力を持つ若者を育てて生きたいと思います。

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