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TEDxUTokyo

文部科学教育通信 No.294 2012-6-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑧をご紹介します。

 

先日、東京大学でTEDxUTokyoが開催されました。テーマは、「10年後の未来を創るイノベーションを共に描く」です。講演者は、18名、そのうち東大の現役学生2名がオーディションで選抜され、スピーカーとして登壇しました。会場には、500名近くの聴衆が集まりました。

TEDxUTokyoについてご説明する前にTEDやTEDx(テデックス)について説明しておきたいと思います。

●TED (テッド)とは?
TEDとは、価値のあるアイディアを世に広めることを目的とするアメリカの非営利団体です。1984年に設立され、技術・エンターテインメント、デザインなど様々な分野から講演者を招き、会議を行っています。2006年からTEDカンファレンスと呼ばれるプレゼンテーションの動画を世界に無料配信して注目を集めています。文化・芸術・科学・ITなどの最先端を行く「いま世界を変えようとしている人たち」が次々と登場し、エネルギーと驚きに満ちた渾身のプレゼンを披露しています。日本でもNHKがTEDを取り上げ、プレゼンと英語を学ぶ語学教養番組「スーパープレゼンテーション」として4月から放送を開始し、話題を呼んでいます。

 

●TEDx (テデックス)とは?
TEDxはTEDの精神をもとに創設され、世界各地で個別にイベントを開催しているコミュニティです。米国で開催されるTEDカンファレンスはオンラインで見られるものの、すべての人が招待制のカンファレンスに参加することは困難です。そこで生まれたのがTEDxです。TEDxのイベントは各地のスピーカーによる講演とTED Talksのビデオの上映によって構成されています。参加者がディスカッションを通してアイディアを共有し、横のつながりを広げていく場でもあります。世界中でTEDのコンセプトは広まりつつあり、現在60カ国以上にわたる都市でTEDxイベントが実施されています。TEDxSiliconValley, TEDxWomenなどそれぞれの地域やトピックに即したプログラムが開かれており、TEDxCaltech、TEDxYale、TEDxCambridgeなど世界の有名大学とのコラボレーションも実現され始めています。

日本においても、TEDxTokyoが、4年前にスタートし、これまで石井裕(MIT教授)、茂木健一郎氏など国内外から著名なスピーカーを集め大きな成功を収めています。講演時間は一人、およそ3分~18分で、短時間に、アイディアのエッセンスを集約して紹介しています。

 

●TEDxUTokyoとは?

TEDxUTokyoは、日本初の大学を軸にした大規模なTEDxです。協賛金集めから企画運営まですべて学生が中心に行いました。

 

ビジョンとして、次のような問題点と解決策を掲げています。

 

 

1.  日本の大学の非効率性
大学とは、様々な学問分野において次世代を担う若者から第一線の教授までが共有する場だが、学際的な人的交流がなく、大学の学術の学生を巻き込んだ社会(産業、官僚、文化)との連携が弱い。

解決策:広範な学問分野と社会を人的に繋ぐ継続的なコミュニティを学生の力でつくることにより、大学が次世代イノベーションを生み出すプラットフォームになる。

2.  日本の将来性への不安
日本の経済的な衰退と国際社会における地位低下。日本の若者が日本に悲観的になり海外のみに希望を求める結果、次世代の日本の発展に繋がらない。失われた20年を経験した今、日本は明治維新、戦後以来の第3の奇跡が必要。

解決策:多方面の専門家が日本の将来に向けたそれぞれのビジョンを共有することで、日本の再生に向けた希望を持ち、行動を起こす。

3.  東京大学の知の国際性の欠如
解決策:インターネットによる国際発信により、東京大学の知をグローバル化する。

 

 

TEDxUTokyoは、次代を担う人々のVisionを共有することで、10年後の未来を創るイノベーションを共に描くことを目標としています。

 

TEDxUTokyoでスピーカーとしてお話しされた方々のなかから大学生2人のスピーチと特に印象に残った浄土真宗本願寺派の僧侶 松本圭介さんのスピーチをご紹介します。

 

●東京大学 工学系研究科マテリアル工学専攻課程2年 長尾圭さん 「何のための能力か?」

 徳島で生まれ、5歳より米国に渡った長尾さん。彼の価値観形成に大きく寄与したのは米国の「褒める教育」と彼の少し変わった母の教え「できることでなく、やりたいことをやりなさい」

です。長尾さんは、能力はあるがビジョンがない、そんな多くの優秀な学生と出会い、日本の教育には大きな欠陥があるのではないか、と何か違和感を感じてきました。

最初に何らかの目標があって、それに対して必要な能力を身に付ける、というのが自然な流れであるはずなのに、多くの学生は受験、就職という流れの中で、行きたいところに入るのではなく、自分の能力を基準にその延長線上に目標を設定してしまい、いつのまにか自分には夢(ビジョン)があったことを忘れてしまうプロセスを説明しています。大半の人が追い求めているのは自分の夢やビジョンではなく、他人が考えた夢やビジョンである、ということに気付いてほしい、というメッセージを伝えています。

 

●東京大学 教育学部4年 佐々木敦斗さん  「どうにかするぞ-『生の記録』を残す-」

岩手県盛岡市出身。東日本大震災で父方の実家がある宮古市が大きな被害を受け、震災直後から復興活動にコミットメントしてきました。 一般社団法人SAVE IWATEの東京支部を設立し、代表として、東京から復興支援活動を行っています。復興支援活動を行いながら、東北を本当に「どうにかする」とはどういうことなのかを考えました。

震災の「風化」が進む中、人々は東日本大震災とどう向き合っていけばいいのか。彼自身が一番嫌なことは50年後、「東日本大震災は1万人以上の人が亡くなった、とても大きな地震だったんだよ」と、そこに生きた『人』の記録が切り捨てられて語られていくことです。震災の写真を見たり、悲惨な出来事としてとらえるだけでは、10年後も同じ感覚で震災を捉えていくことはできません。被災地で生きる『人』の生の記録を残し、災害の悲惨さを語り継いでいくことで、10年後も震災の光景を人々の心に浮かべることができます。「どうにかするぞ」そうやって前を向く東北の人々の姿を皆さんの心に記録してくださいと訴えかけます。

 

●浄土真宗本願寺派僧侶 松本圭介さん(東京大学卒業生)  「お寺、私の帰る場所」

松本さんは、浄土真宗本願寺派の僧侶、仏教が好きで、元気のない日本のお寺を変えるためにお坊さんになりました。
葬式や法事などあまり明るいイメージがないお寺ですが、元来お寺は人々が気軽に集えるコミュニティの中心でした。 江戸時代、お寺は文化の発信地であり、私たちの生活とより密接に関わっていました。お寺の原点はカフェにあるとして、神谷町光明寺の境内でお寺カフェ「神谷町オープンテラス」やお寺の音楽会「誰そ彼(たそがれ)」を開催し、お寺を再び「心の通うコミュニティ」の中心にしようと取り組んでいます。

お寺ほど心と心が通い合えるコミュニティを作るのに適した場所はありません。10年後、誰もが「私には帰る場所があるから」として、安心してイノベーションに取り組める社会になるよう、「お寺から日本を元気にする」をビジョンに掲げ、現在は住職塾の開講に向けて準備を進めています。
 

TEDxUTokyoに参加した若者たちがTEDというプラットフォームを通じて、「10年後の未来を創るイノベーション」を共に描き、様々な知識やアイディア、ビジョンを共有することで、新たな知が芽生えます。TEDは、若者自身の力による21世紀の新しい学習プラットフォームといえます。

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