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ハーバードビジネススクール(HBS)の教育改革

文部科学教育通信 No.293 2012-6-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る⑦をご紹介します。

今年、ハーバードビジネススクール(HBS)が新しく生まれ変わりました。ニティン・ノーリア新学長のリーダーシップにより進められた教育改革について、ご紹介したいと思います。以下、ノーリア新学長から卒業生に送られたレターを抜粋してご紹介します。

 

HBS教育改革の5つの柱

ニティン・ノーリア新学長は、任命を受けてから学長就任までの期間に、HBSのファカルティメンバー、学生、大学スタッフ、卒業生に対してHBSが直面している「チャンスと課題」についてインタビューを行ない、大学の改革に必要な優先順位を明らかにしました。HBSの教育改革の柱となる「5つのI」はその話し合いから生まれたものです。

 

HBS教育改革.pngのサムネール画像

 

1. innovation(変革)

20111月、HBSのファカルティメンバーは、必須カリキュラムに新プログラム Field Immersion Experiences in Leadership Development (リーダーシップ開発のためのフィールドスタディ)を取り入れることを採択しました。MBAの2年生に対し、キャンパスを離れてフィールドスタディを提供して、学んだことを実践する機会、コミュニティやビジネスリーダーと直接関わる機会を与えるというのが、プログラムの狙いです。フィールドスタディから得られる学びは、基本となる10のケースメソッドと連動しています。例えば、FIELD2の「商品開発」は技術・営業管理やマーケティングの授業で学ぶ内容と、FILED3の「金融市場シミュレーション」は金融の授業で学ぶ内容と一致しています。フィールドスタディ方式とケース方式が互いに補完しあい、補強しあえる関係になることを狙いとして改革を行なっています。

 

二つ目の変革は選択カリキュラムの年間カレンダーを2学期制から4学期制をしたことで、学生と教授側により大きな選択の自由が与えられたことです。これにより、第2学年次には、フィールドスタディや独立プロジェクトに参加を希望する学生が増えています。同様に、ファカルティメンバーもケーススタディとフィールドスタディを結合した新コースの流れと内容を実践して、改良を行なっている最中です。

 

この教育改革の結果、以前よりも勉強に時間を割く学生が増え、学生の授業の準備具合やクラスワークでの取り組み内容に明らかな改善が見られている、という報告が教師の側からも寄せられています。

 

 

2. intellectual ambition (知的野心)

ここ数年、社会企業、ヘルスケア、リーダーシップ、アントレプレナーシップの分野でのHBS全体の取り組みの成功を土台に、ファカルティメンバーによる学科を超えた協力が行われています。カリキュラムの見直しや、企業幹部対象の新しい教育プログラムの開発、卒業生とのネットワーク再構築、時代に即した重要なテーマについての討論や対話が行われています。

 

この取り組みの結果生まれた一つのイニシアチブが、ビジネスと環境をテーマにしたものです。初期の話し合いは調査テーマを発掘することでしたが、今や20人以上のファカルティメンバーが集まり、毎月ワークショップを開催して、ビジネスと環境の両方の産業に関わる利益と問題について話し合っています。2011年3月には、「21世紀の都市に投資する」というテーマで卒業生を対象にしたカンフェレンスが行われ、130名の卒業生が参加し、12以上もの新しいケースが誕生しました。

 

このような学科を超えた取り組みも重要ではありますが、引き続き一人ひとりの教授の成功を支援していきます。教授自身が海外でのフィールドスタディに取り組めるような基盤を整え、興味と関心を持つ研究分野の追求やリサーチを支援する投資を拡大していきたいと思います。

 

3.  internationalization (国際化)

150に上るFIELDプロジェクトを実行するためには、世界中のグローバル組織の協力、チームを編成する20人のファカルティメンバー、40人のスタッフの力が必要です。それゆえに、FIELDの導入の影響は学生だけではなく、HBS全体を広く国際化するものと捉えています。

 

また、従来のグローバルリサーチセンターの設置に加えて、企業幹部向け教育プログラムを提供するハーバードセンターの設置を進めています。2010年には、ハーバード上海センターがオープンし、現地企業の幹部を対象に10週間の講座を開設しましたが、出席者は現地だけではなく世界中から集まっています。2012年3月には、インドのムンバイに2番目のハーバードセンターを開設、2015年までには、ヨーロッパに第3のハーバードセンターを開設予定です。各地でプログラムを担当するHBSのファカルティメンバーは、現地に即したテーマの新しいビジネスケースを作成することで、HBSのケースがより豊かになります。また、現地でキーとなる新興企業との関係を結ぶことにより、常に最新の主要な経営実践方法に触れることができます。

 

4. inclusion (インクルージョン)

昨年、HBSでの様々な活動を支援するために「文化とコミュニティ・イニシアチブ」を立上げました。狙いは、HBSに関わる全ての人が、成功し、自分にとってベストの仕事をするために支援されていると感じられるようなHBS文化を醸成するための機会と必要なステップを発見することです。現在、ファカルティメンバーに対して行なった個別インタビュー結果を分析している最中ですが、来年はこの調査結果を分析し、HBS文化醸成のために必要な行動を開始します。

 

また、Women's Student Association (WSA) の長年の研究対象である「なぜ、女子学生は男子学生に比べて学年の成績優秀者に選ばれる比率が少ないのか」「なぜ、女子学生は男子学生よりもMBAで学んだことに満足していないのか」などを取り上げた結果として、この2年間で学生の達成と満足のギャップはかなり小さくなっています。このような問題をまず話し合う機会を持つことが対策を見つけるための最初の一歩であると思います。

 

5. integration (融合)

The Harvard Innovation Lab (i-lab)は、HBSが行なう活動の中で最も地域との関わりのある場所です。 i-labはハーバード大学の財産であると同時に地域コミュニティと共同のプログラムの実践の場です。継続中のプロジェクトや準備段階のベンチャー、コミュニティ向けサービス、ワークショップ、授業、講義や様々なイベントを提供する多目的スペースになっています。ハーバード大学全体での活動場所として、また新しいことが起こる場所として活用され始めています。ハーバードにある大学院全てから生徒が集う授業やチーム学習主体のプロジェクトなどに、i-labを利用して授業を行う教授が増えてきています。

 

グローバル化するビジネスの世界で、ビジネススクールにおいても、教育変革が求められる時代です。

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