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自律的学習者を育てるリフレクション

文部科学教育通信 No.286 2012-2-27に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る①をご紹介します。

今回は、これからの時代の教育の不可欠であると言われている自律的学習者を育てることをテーマに、私の体験を交えてご紹介してみたいと思います。

皆さんは、自律的学習者を、どのように定義しているでしょうか。親であれば、勉強しなさいと言わなくても、自主的に宿題をやる子どもがその代表例でしょうか。学校の先生であれば、先生の話をしっかりと聞き、演習問題を解き、わからないことをそのままにしないで、先生に質問し、理解ができたら、更に難易度の高い問題に挑戦する学習習慣を身に付けている生徒でしょうか。もちろん、彼らは、自律的学習者です。しかし、OECDが述べている生涯を通じて学び続けることが出来る自律学習者を育てるためには、学習というものを、もう少し広い視点で捉える必要があると思います。

昨年、ハーバード教育大学院大学のセミナーに参加した際に、赤ちゃんの映像を見る機会がありました。

「学習とは、私たち人間がもって生まれた欲求であり、本来、私たちは生まれながらにして学ぶ力を備えているのです。」 と言うメッセージとともに、2つの映像が紹介されました。一つ目は、まだ、1人で歩くことが出来ない子どもが、懸命に立ち上がり、歩こうとして転び、それでも、更に、立ち上がり懸命に歩こうとする姿。もう一つの映像は、スプーンを手に握り、お皿から食べ物をすくい上げ、スプーンは、顔には届くけれども、上手くスプーンが口に届かず、顔中におかずをつけながら、食べ物を口に届ける姿です。

どんなに学ぶ意欲がないように見える子どもも大人も、実は、学びたい、成長したいという潜在的な願望を持っていると確信することは、他者の学習に関わる上で、とても重要なことだと思います。学校においても、素晴らしい先生は、異口同音、「どんなに問題のある子どもでも、よく生きたいと思っていない子どもは1人もいない」とおっしゃいます。学びや成長は、より良く生きるために、人間が生まれながらに持っている強い欲求であるとすれば、自律的学習者とは、より良く生きるために、自律的に学習することができる人ということになります。

今回は、自律的学習者にとって欠かせないリフレクションをテーマに、2つの体験をご紹介したいと思います。

 

4歳からリフレクションを学ぶオランダの子どもたち

昨年オランダ教育の視察に行った際に、4歳の子どもが、先生と一緒に、リフレクションを行なっている様子を見学しました。PCの前に先生が座り、座っている先生と同じくらいの背丈の女の子が、先生の隣に立ち、質問に答えています。オランダ語なのですべての対話を聞き取ることはできなかったのですが、先生に質問内容を確認すると、以下の通りでした。「過去3ヶ月のワーク(勉強や取り組んだこと)の中で、もっとも誇りに思うものはなんですか?」「どこが誇りに思う点ですか?」「何に一番苦労しましたか?」「次に同じワークをするとしたら、何を変えますか?」 4歳のあどけない女の子が、しっかりと先生の質問に答えている姿は、私のリフレクションに対するこれまでの理解を超えたものでした。今でも、その時の衝撃は、忘れられません。私自身、それまでも、「リフレクションは、学習に欠かせないものです。」と、多くの大学生や社会人に教えていたにもかかわらず、自律的学習者になるためには、誰もが当たり前にリフレクションができるようになることを目指すという意識はありませんでした。オランダ教育のように、4才からリフレクションを習慣化することができれば、大学生や大人に、リフレクションとは何かを教える必要もないということです。

 

NPOティーチフォージャパンの学習する文化

NPOティーチフォージャパンでは、2年前から大学生とともにリフレクションに取り組んでいます。ティーチフォージャパンは、20年前にアメリカでスタートした教育系NPOティーチフォーアメリカと連携し、大学生や若者が中心となり、寺子屋事業および教師派遣事業を行う団体です。ティーチフォージャパンが、ティーチフォーアメリカから受け継いだリフレクションを、個人の成長という視点でご紹介したいと思います。

ティーチフォージャパンの定義する優れた教師は、高い目標を掲げ、子どもの自発的な学びを促し、学力向上と、主体的に生きる意欲向上を実現するリーダーシップとマネジメント能力を共に有する教師です。そして、何より大切なのが、優れた教師を目指し、スピーディに学習出来る能力を持つことです。ここでいう学習能力とは、自分が経験したことを振り返り(リフレクション)、得た学びを抽象的概念化し、学んだことを能動的に実験し、そこで得た経験を再び省察する(リフレクション)という体験学習サイクルを回すことが出来る力です。この学習サイクルの中で最も重要なのが、リフレクションです。

 教師の学習と行動のキードライバー.png

リフレクションを効果的に行うためには、ゴールを明確にし、仮説を持ち行動すること、そして、何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのか、その経験から何を学んだのか、何を得たのかを学ぶことが重要です。客観的自己認識を持つためには、他者からのフィードバックを積極的に活用します。その前提には、仲間との信頼関係と、組織としての団結力があります。ティーチフォージャパンのメンバー全員が、有りたい姿を目指すマインドを持ち、学習サイクルの実践が自分の成長につながり、子どもたちの学びに還元されるという信念を共有しています。安心安全な場と、学びに対する信念を共有することができれば、ネガティブなメッセージも、より良くなるためのヒントとして宝物のように扱われます。

 寺子屋の活動では、子どもたちを指導した後で、必ず1時間のリフレクションを行っています。2ヶ月の寺子屋を一つのサイクルとして運営しているので、2ヶ月の活動終了後に、総合リフレクションを行います。総合リフレクションでの学びは、次の教師のためのナレッジや事前研修のヒントとして活用されます。宿題を忘れた時、こどもが喧嘩をした時など、状況対応が必要なケースについては、ナレッジ集にまとめます。例えば、上手な叱り方がわからないなど多くの教師に共通の悩みについては、次の研修開発テーマに取り入れます。このように、1人ひとりの教師としての体験学習が、リフレクションを通して、チーム学習になり、組織のナレッジへと発展していきます。まさに、マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏の提唱する学習する組織(ピーター・センゲ『学習する組織—–システム思考で未来を創造する』、枝廣淳子他訳、東京:英治出版、2011年)です。リフレクションは、2年間の取り組みを通じて、ティーチフォージャパンが心から愛する習慣に発展しました。

ネガティブな反省会体験ではなく、ポジティブなリフレクション体験を沢山持つ若者が増えれば、自律的学習者を育てることに繋がると思っています。

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