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美しい地球の未来を守る

文部科学教育通信 No.281 2011-12-12に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(12)をご紹介します。

宇宙から見た美しい地球の画像には心を奪われます。宇宙飛行士の目から見た美しい地球の映像ベラガイア(Bella Gaia)を使った三年間の環境教育プログラムがつい最近、米国ニューヨーク州で立ち上がりました。また、パリで行われたユネスコのユースプログラムでもベラガイアの映像が用いられ、多くの人々に感銘を与えています。緑の減少、オゾン層の破壊、温暖化、大気汚染、河川や海など水の汚染、環境ホルモンによる化学物質汚染、酸性雨など地球そのものが病気になりつつあります。子どもたちの世代に美しい地球を残すために、私たちに何ができるでしょうか。一つの解決策が環境教育です。日本でもボランティア活動やNGO団体の活動を通じて環境教育への取り組みが行われています。

美しい地球.jpgのサムネール画像のサムネール画像

今回は、米国で行われているシステム思考で地球環境を学ぶ授業の例をいくつかご紹介します。

 

マングローブ湿地の生態系の変化

8年生の理科の授業でマングローブ湿地の生態系と人間が関与した場合の生態系への影響について考察させる授業を行なっています。生徒は、マングローブ湿地に生息する生態系の数を調べ、グラフやループ図を使って表します。マングローブ湿地に関係する生物はマングローブの葉を食料とするエビやトビハゼなどの小動物、それを餌とする魚、魚を餌とするワニの3種類に分けられます。この個体数の変化をループ図で表すことにより、生徒は湿地に生息する生物の食物連鎖と、自然な状態では一巡ごとに増加と減少が入れ替わりながら、生態系のバランスが保たれていることを学びます。ところが、人間が関与してマングローブの葉を伐採したり、ワニを捕獲してしまうと、この生態系が大きく崩れ、成り立たなくなることを知ります。

システム思考で地球環境を学ぶ2.jpg

「システム思考者の習慣」を題材にしたポスター

4年生の授業で「システム思考者の習慣」をテーマにポスターを描かせ、説明をつけてもらいます。ある生徒は「短期・長期の両方の結果を考えよう」と題して、植林をせずに森林を伐採した結果、土壌の侵食が少しずつ生態系や水の供給に影響を及ぼしている例を描きました。
出典:システム思考で地球環境を学ぶ Waters Foundation

また、別の生徒は「複雑な原因と結果の関係を見極めよう」と題して、ダムの建設が川に生息するサーモンの川のぼり産卵に影響を与え、サーモンを食べるアシカの増殖がサーモンの数の減少につながることを描いています。絵の題材として環境問題を選ぶ生徒が多く、環境問題の理解にはシステム思考が欠かせないことがわかります。

システム思考で地球環境を学ぶ.jpg

野生動物の管理シミュレーション

生徒にコンピューターを使ってヘラジカの数量管理をしてもらいます。増えすぎによる個体数の激減を防ぐためにはヘラジカの個体数を一定に保つ必要があります。生徒はコンピューター上で狩猟許可証を発行したり、天敵である狼を投入したりして、ヘラジカが増えすぎないように管理します。管理計画を成功させるためには、チーム内で協力しながら、仮説を立て、検証テストを行い、データをとって結論を導き出します。ヘラジカの個体数が安定するまで、仮説を見直して何度もシミュレーションを行います。

地球の環境持続可能性

地球環境の持続可能性について学ぶ優れた教材として、ISEE SystemのModeling for Environmental Sustainability(環境持続可能性のモデル)をご紹介します。環境問題を学ぶためにシステム思考を取り入れることは、世界では常識になっています。昨年行われたシステム思考の世界会議でも「地球を救うために子供にシステム思考を教える」という題の基調講演がアンドリュー・ジョーンズ氏により行なわれました。

この教材では、4回のセッションを通じて、私たちの暮らしが環境に与える影響と環境からのフィードバックについて、地球の持続可能性や経済、社会、環境システムの相互関係について学びます。また、システム思考のツールとコンセプトを用いて、環境問題についての対話を広げる様々な方法や地球の持続可能性に積極的に貢献できる習慣や方策を学びます。

セッション1: 気候変化を理解する

簡単なSTELLAモデル(教育と調査のためのシステム思考モデル)を用いて気候の変化を引き起こす基本コンセプトとシステムの原理について学びます。我々が直面する課題と取り入れるべき変化、避けるべき変化にどのようなものがあるのでしょうか。コペンハーゲンサミットで使用された気候変化の予想モデルを用いてグローバルな政策決定が地球に与えるインパクトについてシミュレーションを行います。

セッション2: 人口動態と成長の限界

2050年までに90億を超えると予想される地球人口についての考察を行います。地球の持続可能性や人口動態が環境問題に与える影響についても学びます。

セッション3: 水のシステム力学

人口動態が未来の水の供給問題に与える影響や地球上の水が汚染されていく過程や水の循環システムに与える影響について学びます。また、現在と異なるシナリオを用いれば、未来の水の供給システムがどう変わるかを考察します。

セッション4: 商品システム

「もの」のシステムがどのように人口の過剰、環境の悪化、社会・経済格差と関係しているかについて探ります。食物のような再生可能な「もの」と石油のような再生不可能な「もの」のシステムモデルの共通性と違いを理解し、環境への影響について考えます。

この数十年、地球上では干ばつ、異常気象、温暖化などが続いており、今後もこの傾向は続くものと予測されています。地球の気候変化がなぜ、どのような形で起こり、どんな結果をもたらすか、原因の解明と今後の変化を正確に予測し、対策を講じることが、私たちの美しい地球を守るために必要です。環境問題や、環境への人為的な影響、世界の環境システムについて、正確な理解と知識を持った人材を育てることが教育の重要な役割であると思います。

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