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フューチャー オブ ラーニング

文部科学教育通信No.272 2011-7-25 に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(3)をご紹介します。

 

昨年8月、第1回 フューチャーオブ ラーニング(学習の未来) 研究会がハーバード教育大学院にて開催されました。主催者は、マルチプルインテリジェンス論の提唱者として著名なハワード・ガードナー教授や、デビッド・パーキンズ教授です。研究会には、米国を筆頭に、アジア・ヨーロッパ・南米などの各国から約200名の教育関係者が参加しました。主な参加者は、現職の教師、教師育成者、教育監督者、教育カリキュラム作成者、教材開発者、情報教育現場で働く専門家などです。 

教育は、急速に変化する環境の中で、倫理観を持ち、自己を内省しながら生きることを教えなければなりません。そのためには、全ての教育関係者は、社会の変化が世界中の若者の生活をどのように変えているかを理解する必要があります。「ますますグローバル化する未来に備えて子供たちに何を教えればいいのか?クリック一つで膨大な情報が手に入る世の中で、教える価値のあることとは何か?学習や生物学における新しい研究成果を教育者が生かすにはどうしたらいいか?子供と大人が希望を持って21世紀を生きられるように、何を、どこで、どのように学ぶべきか?」 研究会で掲げられた問いは、すべて日本の教育においても当てはまるものでした。 

講義やワークショップは、以下の4つの基本となる問いを中心に展開されました。

基本の問い1】 すでに明らかなことはなにか?

私達はグローバル化、デジタル革命、心/脳の働きの調査結果やそれらが学習や教育に与える影響について何を知っているだろうか?

基本の問い2】 何を見直す必要があるのか?
これらの変化の結果として学習の何を、誰が、どのように見直さなければいけないだろうか?

基本の問い3】 学習の何を変える必要があるか?
未来の学習に必要なニーズに答えるために私たちは実際に何をするべきか?

基本の問い4】 変化のもたらすインパクトは何か?
教育上の変化は学習者や社会に対してどのような結果をもたらすか? 21世紀の責任ある教育者としての我々の役割は何か?

 

研究会は、参加者によるチーム学習を中心に設計されています。参加者は、各自、テーマごとに開催される分科会に参加し、その後、学習チームにおいて、分科会の内容について話し合います。さらに、4つの基本となる問いを通じて学びや気づきを深めていきます。正解が一つではない未来の教育についての答えを探すためには、多くの人々が正しい情報に触れ、対話を通じて正解を見出していくプロセスが重要であることを改めて認識しました。日本では、教育関係者は、未来の教育についてしっかりと議論しなければならないと思いました。

 

★研究会で学んだこと

この研究会で、学んだことの中から印象に残ったことをいくつかご紹介します。 

【ICT(情報通信技術)活用の可能性】

ICT活用の可能性については、幅広い議論がありました。WEB2.0 デジタル時代の学習は、『情報獲得者・知識構築者としての学習者』から『新世紀の学習者』への転換を意味します。メディアに関する多様な知識を持つことで、模擬体験学習や共同調査などの学習の仕方が大きく変化します。これまで、ICTは、教育現場において情報を蓄積することや、分配することに活用されてきました。今後は、表現することや、協働や参加の手段として活用されるようになります。また、ICTを使用することにより、個人のアセスメント結果を集約し、フィードバックを行う事も容易になります。ドッグイヤーで進化するデジタル革命は、教育現場よりはるかに速いスピードで進化しています。教育現場の時間軸と親和性がありません。ICTの教育現場における有効活用の推進には、産学連携が不可欠ではないでしょうか。 

【達成ギャップと関係性ギャップ】

2つのギャップについて、どのように考えるべきかという課題提起がありました。

『達成ギャップ』とは、性別、人種、社会・経済的地位などの異なる生徒をグループに分けると、学習の達成結果に相違があることを指します。 『達成ギャップ』は、米国の教育改革の重要な焦点のひとつです。『関係性ギャップ』とは、複雑で、変化する社会において、意義ある人生を送るために価値ある学びと、実際に子どもたちが学んでいることとのギャップを指します。『関係性ギャップ』は、これからの教育改革の主要なテーマとなります。 

【グローバル学習】

これまで教養として扱われてきたグローバル学習が、教育の主要なテーマになってきました。これからの子どもたちは、グローバルに活躍できる人材になることが必須のコンピタンシーとなります。ますますグローバル化し、相互依存が進む世界において、グローバルに情報を収集する地球市民となることを教えることが大切です。ローカルに暮らす日本の子供たちに、グローバルに活躍できるコンピタンシーを身につけてもらうためには、私たち大人が変わる必要があります。 

【科学技術の発展と学習】

神経科学やバイオテクノロジー革命は、学習に大きな影響を与えています。神経科学は、複雑な心と脳の現象に焦点を当てる科学へと発展し、感情や芸術活動が脳の機能や発達にどのような影響を持つのかを解明するために様々な研究が行われています。科学技術の教育への適用についての論争よりも、学校のポリシーを明確に伝える思慮深い生命倫理の確立が重要であるというガードナー教授の言葉がとても印象的でした。 

【大人の生涯学習】

新たな学習観も生まれています。社会の変化においては、成人も、発展途中の大人として、継続的に学習することが求められます。学習においては、スキルや知識の習得を目的とした学習から、実践的で変化への対応が可能な学習に変わります。

Future of Learning 2010 写真.JPG

                            Future of Learning 2010

 

★終わりに

研究会では、学習の未来というテーマの奥深さを改めて認識しました。新しい時代に適合した教育を構築するためには、一人の専門家ではなく、多方面の専門家の叡智を集約させなければなりません。学習の未来を創造するために、叡智が集約され、共有される場としてこのような研究会を立ち上げたハワード・ガードナー教授をはじめとする主催者のリーダーシップにも感銘を受けました。 

今年も、ハーバード教育大学院において、『フューチャー オブ ラーニング  2011』(2011年8月1日~4日)が開催されます。今年で、2回目となるこの研究会は、未来の学習をどのように発展させていけばよいのかを明らかにすることを目的にしています。2011年はデジタル分野により大きな重点が置かれ、クリエイティブで知識豊富なアクティビティに参加しながら、新しいプログラム教材・商品・解決方法などを学びます。 

急速に変化する環境の中で、子供たちに「倫理的に内省しながら“未来を生きる力”を身に付けさせる」ために、フューチャーオブ ラーニングの新しい取組みは大きなヒントになります。未来の学習を構築することに取り組んでいる皆さんに、ぜひ、ご参加いただきたい研究会です。

                           (出典: 文部教育科学通信 No.272 2011・7・25)

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